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無敵の医者編②

 一件落着した所で、青年は医者に深々と頭を下げる。これ程頭を下げたのは久しぶりかもしれない。


「ありがとう。お前が居なかったら、俺の仲間がどうなってるか分からなかった。えーと…」


「僕の名前は如月信也きさらぎしんやです。よろしくお願いします」


 そう言って医者ーーー如月が手を伸ばす。青年は差し出された手を握り返した。


「ありがとう如月。俺はロタリオ・ディ・コンティだ」


「『黒百鬼の死神』だろお前」


 すかさず突っ込んだアラギに、如月は苦笑した。


「君があの有名な『黒百鬼の死神』ですか。まあ服装を見た感じ大体予想は付いていましたが。そちらの方は?」


「そこの目つきの悪い眼帯はアラギ。性格は悪いが、実力は確かだ」


「さっき子供に洗脳教育を施そうとか言ってたサイコパス思想のお前には言われたくないセリフだな」


「…そ、そうですか。そこの少女は?」


「・・・私は」


「ジャンヌダルクでいいんじゃね? もういっその事歴史上の人物で自己紹介しようぜ」


「そいつ守った相手に裏切られる悲惨な末路を送った奴だよな?」


 青年の元居た世界にやたらと詳しいアラギ。本当にどこで知ったのだろうか。如月は少女にも手を差し出した。


「よろしく。ジャンヌ…さん?」


「・・・よろしく」


 珍しく、少女が如月の手を握り返す。普段は青年以外の人間に関わろうと思ってすらいない少女からすれば驚きの光景だ。


 握っていた手を離すと、如月は青年を見た。


「そう言えば死神君。これから、どちらに行かれるつもりですか?」


「ん? ああ、この先にある国に向かおうとしてるんだけど」


「そうですか……不躾なお願いでなければ、僕も同行して構いませんか?」


 如月からの言葉に、青年は僅かに逡巡した。確かに如月は少女の命の恩人だ。そんな彼からの頼みをあまり無下にはしたくない。だが、肝心の如月からの狙いが読めないのだ。


 助けて貰ったとはいえ、青年は如月の事を完全には信用していない。それに如月は青年でも理解できない能力を有しているはず。そんな未知数の彼を、一時的とは言え同行させていい物かどうか悩む。


「お前の狙いは何だ?」


「え?」


 結果、青年は直接聞く事にした。如月は少しの時間困惑していたが、やがて口を開く。


「目的、ですか。目的と言うほどではないのですがーーーー」


 微妙に歯切れが悪くなる。青年が眉を顰めていると、如月がやや自信なさげに言った。


「君、僕と同じ日本人ですよね? 実はこの世界に来てから同じ世界出身の人間に会うのは初めてで。共に語り明かしたいと思っただけなんですが……駄目でしょうか?」



 



「ふーん。って事は向こうでは本物の医者だったんだ」


「ええ。まあ若輩者ではありましたが」


 青年と如月が、共に並んで歩いていた。その後ろにはアラギと少女が並んで歩き、まるで統率された列のようになっていた。青年の近くに居られない事が不満なのか、少女は呪詛のように呟きを続けている。


「・・・彼の隣は私のはずなのに。彼の隣は私のはずなのにーーーーー」


「久しぶりに同郷の人間と会ったんだ。たまには内輪ノリで楽しませてやれ」


 むぅ、とむくれる少女を尻目に、二人は会話を続ける。先ほどから盛り上がって仕方がない。何しろ青年からしても、この世界に来てから日本人とまともな会話をするのはこれが初めてだからだ。今までにも日本人だろうと思われる人間と会っては来たが、どれも一方的に馬鹿にするような言葉しか吐いていない。


「それにしても、ホントどこの国も綺麗だよな。史実上の中世ヨーロッパなんて鼻がもげるくらい酷い匂いだったらしいのに」


「それは僕も思いました。水道系は、僕達の前に来た日本人が整備してくれたみたいですね。最も、電機やガスは魔法に頼りきりみたいですけど」


「随分とまあ改革した物だよな、全く。…あ、そうだ。魔法で思い出したんだが、お前がさっき使ってたのって結局何だったんだ? 見たことがなくてさ」


「ああ、あれですか。死神君が見たことないのも無理もありませんよ。何しろあれは、僕だけが使える特別な能力ですから」


 言いながら、如月はパチンと指を鳴らす。するとマジックのように指と指の間にそれぞれ一本ずつ、メスが現れた。


「僕がこの世界に来た際に手に入れた能力【究極医術】。医療に関する物なら無制限で生成出来る能力です。最も、物を生成できるだけで実際に手術をするのはこの僕ですが」


「へぇ。それは凄いな」


 まさに、医者である如月に与えられた異能と呼べるだろう。青年がこの能力を持っていても、執刀する技術がない青年では如月ほど上手くは使えない。


「でもその概要だとだいぶ抽象的だな。何か制限とかないのか?」


「『医療に関係のない物は生成できない』と言う事、そして『死んだ人間を生き返らせる事は出来ない』と言う事以外には何も。医療に関係するのなら魔道具であっても作れますし、風邪や水虫に対する特効薬だって作れますよ」


「凄ぇな。そんなのノーベル賞物じゃねえか」


 そこで、青年の中でふと合点が行く。どうやらこの世界に来る際、大抵の人間はチート能力を手に入れるらしい。今までは勇者だけに与えられた能力かと思っていたが、医者を名乗る如月がチート能力を持っている以上違う事が判明した。


「…って事は、まさか無能力なの俺だけか? マジかよ。もう今更どうでもいいとは思ってたけど、改めてその事実を突きつけられると辛い物があるな…」

 

「えっ? 死神君は何の能力も持っていないんですか?」


 青年の一人言が聞こえて居たのか、如月が驚いた顔をする。


「それで良くこの弱肉強食の世界を生き残って来られましたね。平和な世界の日本人を送りこんでもすぐ死んでしまう。だからあえて力を付与していると僕は解釈していたのですが」


 如月の解釈に青年が言葉を返そうとしたとき、前方に影が落ちた。呆然としている平和な世界出身の二人よりも速く、アラギと少女が臨戦態勢に入る。


「オーガだ。数は三体、上から来るぞ」


 アラギの言葉と同時、青年達の前方数メートルの地面に、巨体が落下してきた。それも三回立て続けに。辺り一面に砂埃が舞い、視界が遮られる。


「・・・【暴風】」


 後ろから少女の呟きが聞こえると同時、後ろから凄まじい速度で風が吹き抜けた。飛ばされないように両足に体重を乗せて踏ん張っていると、辺りを覆っていた砂埃が風に乗せられて飛んでいく。


 視界が開けると、そこにはアラギの宣言通り三匹のオーガが居た。皆、手には青年の身長はあろうかと言うほどの長さの金棒を持っている。青年は舌打ちした。


「何でそれをお前らが持ってるんだよ。それは日本昔話に出てくる鬼だけが持ってるレアアイテムなんだよ、勝手に踏襲するな」


 理不尽な怒りをぶつけてみるが、人間の言葉が通じるはずもない。アラギと少女が前に進み出る。


「如月、お前戦えるか?」


「僕は医者なので、戦闘力云々に関しては期待しないでください」


「じゃあ下がってろ。コイツらは俺らがブッ殺す」


 青年の言葉に、如月は肩をすくめると後ろに下がる。戦闘状態になった青年を、アラギは横目で見た。


「一人一体、それでいいな?」


「・・・了解」


「いいね。それなら公平だ」


 瞬間、アラギと少女は動いていた。音を超える抜刀術と、あらゆる物を焼き尽くす魔法が同時に振るわれる。


「死ね」


「・・・【絶界灼熱リバースインフェルノ】」


 それだけで、左のオーガは五体をバラバラに切り裂かれ、右に居たオーガは全身を炎で焼き尽くされた。雄叫びどころか、断末魔すら上げさせない速さ。残されたのは一体だけだ。敵を瞬殺したアラギと少女は青年を見てくる。


「ク、ククククク」


 青年は笑うと、数歩歩いてオーガと対峙する。こうして正面に立つと身長の差が歴然だ。頭二つ分違うオーガに対し、青年は言い放つ。


「よお脳筋。そんなスッカラカンな頭引っ提げて俺に勝てると思ってるのか?」


 顎を上げ、オーガを煽る。言語は通じていないが青年の態度と声色で馬鹿にされている事を察したのか、オーガは手に持っていた金棒を振り被る。


「来いよ。どうせお前みたいな醜い肉の塊の放つ一撃なんざ当たらねぇよ」


「GYARUUUUU!」


 オーガが唸り、金棒をフルスイングする。狙いは青年の頭。人の頭めがけてバットを振る事は不良ですら躊躇うと言うのに、オーガに一切の躊躇いはない。目の前の不快な男をミンチにするべく、金属の塊が振るわれた。


「だよな。ムカついたら頭を殴りたくなるよな。分かるよその気持ち」


 横薙ぎに振り回された金棒を、青年はダッキングで躱す。流れるように腰のベルトからのみを取り出すと、穂先をがら空きになったオーガの鳩尾に突き刺した。


「GYAAAA!」


 オーガの筋肉は人間のそれを遥かに上回る。生まれつき持ち合わせている胸筋や腹筋は凄腕の兵士の一撃すら弾き飛ばす程の強度を有しており、並みの人間が突破できるような代物ではない。


 だが、いかにオーガと言えども急所まで頑強な訳ではない。穂先が鳩尾にめり込み、オーガは苦しそうに身をよじった。


「そんだけ硬けりゃ、痛みを感じることなんか少ないよなぁ?」


 慣れない痛みは、思わぬ隙を生む。青年は鑿を手放すと、素早くベルトから千枚通しを抜いた。鑿がカラン、と地面に落ちると同時、千枚通しが光る。


 ドスッ!


 千枚通しがオーガの喉を貫く。オーガは二、三歩よろよろと後退すると、バッタリと地面に倒れた。青年は落とした鑿を拾い上げ、埃を払う。


「一丁上がり、と。あー疲れた」


 その時、後ろから拍手の音が聞こえた。一部始終を見ていた如月だ。


「いやあ、凄いですね皆さん。まさかあのオーガを単独で倒すなんて」


 本来、オーガは大の大人が十人掛かりでようやく倒せるか倒せないかと言った敵だ。一人一体、などと悠長なことを言う余裕は存在しない。


「まあ、何回も戦ってるからな。ゲームと同じでパターンを覚えちまえば何でもねえよ」


「ゲームと違って命懸けだけどな」


 アラギはそう言うと、近くの石にどっかりと腰を下ろした。流石と言うべきか、オーガを屠ったと言うのに汗一つ掻いていない。


「そう言えば、死神君は『魔族戦争』で派手に戦ったんでしたね。ではほとんどの魔族と戦った事があるんですか?」


「どうだろうな。確かに多くの種類と戦いはしたけど、一部は罠や爆弾で仕留めたからな…確証がないな」


 如月は頷くと、倒れたオーガ達の元へ歩み寄った。一体一体、首元に手を当てて何かを確認している。


「おい、何してるんだ?」


「息を引き取ったか確認しています」


「安心しろ、全員きっちり殺し切った。と言うか何だ? 生きてたら治すとでもいうのか?」


 青年がからかい半分に聞くと、意外な返事が返って来た。


「はい、僕は医者ですから。人間だろうが魔族だろうが関係ない。命さえあれば僕は助けますよ、たとえそれがいかなる難病であろうと」


 どこか覚悟めいた色の入った言葉。その言葉に青年は口元が綻ぶのを感じた。


「へぇ。そりゃ面白ぇな」



 


 



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