殺し屋の組織編①
前作と合わせると100万近い文字を書いているのに、一向に文章力が上がらない悲しさを感じる今日この頃です。
人類の国は、二年前まで一つの大きな国だった。
しかし『魔族戦争』が起こった事を機に、意見の対立が元となって分裂。大小無数の国に分かれ、中には独自の文化や技術を発展させた国もある。分裂した国の中には今でも人類が元の一つの国となる事を望んでいる国もあるが、それは夢のまた夢であるというのが現状だ。
このフィーネ国も、人類の一致団結を願っている国である。
「はぁ…」
大通りの噴水に腰かけて、零次は溜め息を吐いた。ガックリと肩を落とし、やや疲れたオーラを醸し出している。
佐藤零次。この世界に召喚された勇者であり、今は魔族の国に向かって進行中だ。剣道において段を持っており、貰い受けた勇者の力と合わせればどんな相手だろうと叩き伏せられる。
「勇者様、お待たせしました!」
零次が下を向いて嘆息していると、一人の少女が走って来た。魔法使いのレナだ。手にパンの入った袋を抱えて、こちらに向かってくる。
「お帰り。必要な物は買えた?」
「ええ、バッチリ。この街のパンは美味しい事で有名なんですよ」
そう言って、レナは嬉しそうにパンの入った袋を上げて見せる。しかしすぐに険しい顔になった。
「勇者様、どうかなさったのですか? 何やらお疲れのご様子ですが」
「ん? いや、大丈夫だよ。ちょっと考え事をしていただけさ」
そう言って、零次は無理に微笑む。女の子を不安にさせてはいけない。
「ジュディが戻って来たら出発しようか。それまで座って待ってなよ」
「そうですね。では勇者様、お隣失礼します」
レナは零次の隣に腰かけると、ブロンドの長い髪を掻き上げた。そして、穏やかな目で目の前に広がる光景を眺める。
「それにしても、活気のある街ですね。とても、魔族の侵攻に怯えている国だとは思えません」
「そうだね。この街は、皆楽しそうで見ていて和むよ」
日の光の下で走り回る子供達、そして談笑する大人達。皆が皆暖かい表情を浮かべていて、誰一人として悲しい顔をしていない。そんな優しい光景を見て、零次は自然に頬が緩んでいくのを感じた。
そんな零次の横顔を眺めて柔らかい表情になりながら、レナが独りごちる。
「それで勇者様、悩んでいる件と言うのはもしかしてーーーー先日戦った『黒百鬼の死神』の事ですか?」
その言葉に、零次は唇を噛んだ。
「---ああ」
この二年間、零次は己の正義が正しいと信じて生きてきた。どんな困難が目の前に立ちふさがろうとも、己の正義こそ正しい、それに対する者は悪として生きてきたのだ。
だからこそ、『黒百鬼の死神』との戦いは心に来る物があった。
『正義の為なら無関係な人を殺してもいいのか?』
その言葉が、零次の頭の中を駆け巡る。
零次はあの時、絶対的な悪である『黒百鬼の死神』をこの手で倒そうとした。だがその渦中で、零次は街の建物を数多く壊し、街の人達を危険に陥らせてしまった。
『黒百鬼の死神』の仲間達が事前に結界を張っていなければ、大惨事になっていただろう。
(僕の正義は間違っていない、んだよな…)
間違っていないはずだ。何せ今まで己の正義に従って行動した結果、多くの人々を幸せにしてきたのだから。実績が出ている以上、零次の正義は間違っていない。
なのに何だ。この拭いようのない違和感は。何かが、零次の絶対に近い価値観を壊そうとしている。
「レーイジッ」
その時、頬を指で突かれた。顔を上げると、ニヤッと笑ったジュディが立っていた。
「何険しい顔してるんだよ。似合わないぞ、そう言う顔は」
「あ、ああ。ゴメン」
そこにレナが割って入る。
「ちょっとジュディ、その馴れ馴れしい態度は淑女としてはしたないですよ。そ、それに勇者様を名前呼びなんて……」
「えーいいじゃんアタシ淑女じゃないしー」
ジュディがあっけらかんと言う。そんな彼女の顔を見ていると、自然とこちらも笑みが零れる。
「じゃあ、全員そろった事ですし行きましょうか」
レナが立ち上がり、服に付いた汚れを払う。その時、ジュディがレナの手元の袋を目ざとく見つける。
「お、それってこの国のパンとか言う奴⁉ 確か原材料が希少で、一週間に十個しか入荷しない事で有名な! 良く手に入ったな!」
「まぁ、私に掛かればこの程度どうってことありません」
レナが胸を張る。すると必然的にぐぐっ、と彼女の双丘が強調され零次の目が引き寄せられる。
「あ、ちょっと零次、今どこ見てたのさ」
「え、いや、その……」
「…勇者様のエッチ」
「こ、これは不可抗力だ!」
零次が弁明していると、彼の横を一人の少女が通り過ぎた。髪を三つ編みにした、まだ幼さが残る少女だ。彼女は何か急いでいるのか、両手に一つずつソフトクリームを持ちながら走っている。その後ろ姿を見て、ふと零次は思った。
(この世界にも、ソフトクリームなんて物があったのか)
少なくとも、零次を呼び出した国にはなかった。零次が懐かしい物を見る目で少女を見ていると、少女は向こうから歩いてきた大男に正面から激突した。
「あ…」
少女の手に持っていたソフトクリームが、大男のコートを汚す。大男は自分のコートの汚れを確認すると、少女に詰めよった。
「おいテメェ…」
「あ、ゴメンゴメン。ちょっと今急いでてさー、ごめんね!」
しかし少女は何事もなかったかのように先を急ぐ。そうして走って行った先には、楽しく談笑する数人の女達が。
「ゴメンゴメン、お待たせ―」
「もう、遅いよハート。待ちくたびれたよ全く。…ってあれ、アイスって二個買ったんじゃなかったっけ?」
言われて、ハートと呼ばれた少女は右手に持ったソフトクリームを見る。そちらは、何故か半分近くが消失ていた。
「ああ、これ? さっきそこでデカい奴にぶつかっっちゃってさ。ピエロ? だっけ。なんかそれっぽいメイクしててさー、本当キモかったわ」
「ピエロ? それマジで? 見たかったなぁ」
楽しそうに話しながら、四人の少女達は歩いて行く。零次がその行く先を追っていると、前からレナの不満そうな声を掛けられる。
「勇者様、他の女の人をじろじろ見つめるのははしたないですよ」
「あ、悪い」
「もう、いちいち謝んなって!」
ジュディが肩に手を回してくる。もはや女と言うよりも男友達と言った感じだ。それを見たレナが、一歩前に出た。
「もう、ジュディ。年頃の女の子が、しかもあろうことか私のーーーゆ、勇者様にそんな事をするなんてはしたないとーーーキャ!」
レナの言葉が途切れたのは、どこからか走って来た男がぶつかって来たからだ。飛ばされて尻餅を突きそうなレナを、零次は支える。
「あ、ありがとうございます勇者様」
「僕は大丈夫。そっちこそ怪我はない?」
「は、はい。おかげで何とか」
心なしかレナの顔が赤い。どうしてかと零次が考えていると、ジュディの注意する声が聞こえてきた。
「危ないじゃないか! レナが怪我したらどうするんだよ!」
零次は目を向ける。そこには、スーツを着こんだ四十代半ばと言った感じの男が尻餅を突いていた。目には怯えがありありと浮かんでいる。
「す、すみま…えっと…」
「まあまあ。怪我はなかったんだし、そんなに怒らなくてもいいじゃないか」
男が気の毒になって、零次はジュディを宥める。ジュディは少し愚痴っていたが、最終的には「まあ、レイジが言うなら…」と引いてくれた。零次は男に手を差し出す。
「おじさん、大丈夫ですか?」
「は、はい…」
男は零次の手を取って立ち上がる。しかしすぐに不安げに辺りをキョロキョロと見回し始めた。
「どうかしたんですか?」
「い、いや、何でもないです」
そう言う男の顔には、恐怖がありありと浮かんでいる。まるで何者かに追われているかのような表情に、零次は思わず声を掛けた。
「あの、本当に大丈夫ですか? もしよろしければ話してくれませんか?」
「え?」
男は意外と言った顔をした。無理もない、いきなり会った見ず知らずの他人から相談してくれと言われても素直にはいそうですかと応じる人は少ない。当たり前のように、皆警戒するだろう。
「実は僕、勇者やってるんです。だから、もし貴方が困っていたら力になりたいんです」
零次は自分の素性を明かす。『勇者をやっている』と言う若干意味不明な言葉に自分で言っていて違和感を覚えたが、まあ職業みたいな物だしいいだろう。
「ゆ、勇者様ですか⁉」
男は驚いたかと思うと、バッ! と零次の手を取って来た。
「助けて下さい! 実は怪しい人たちに狙われているんです!」
男はマダラ―と名乗った。聞くところによると、狙われ始めたのは数日前かららしい。
「昼も夜も狙われて…やっとの思いでこの国に逃げ込んだんです」
「それは大変でしたね。それで、貴方を狙っている相手は分かっているんですか?」
零次が聞くと、マダラ―は首を振った。
「それにしても、こんなオッサン一人捕まえて何がしたいんだろうな。オッサン、実は資産家だったりしない?」
「ジュディ、少しは言葉遣いを改めなさい」
砕けた言葉遣いのジュディをレナが窘めていると、マダラ―は重々しく口を開いた。
「いえ…その…実は私、どうやら記憶喪失らしいんです」
「記憶喪失?」
「はい。三日前から前の記憶がなくて……」
「と言う事は、何故地自分が狙われているのかも分からないんですか?」
レナの質問に、マダラ―はコクリと頷く。
零次は顎に手を当てた。何故自分が狙われているのか分からない、と言う事はかなり不利だ。相手の狙いが分からない以上、下手に動くわけにはいかない。狙われているのが命であるとは限らないからだ。
せめて狙いさえ分かっていれば、対策こそ立てられる物なのだが。
まあ泣き言を言っていても始まらない。零次は気を取り直すと、マダラ―に向き直った。
「大丈夫です。僕達がいる限り、貴方には指一本触れさせませんよ」
「ほ、本当ですか⁉」
マダラ―の顔が明るくなる。零次は微笑みかけながら、腰の聖剣をグッと握りしめた。
「それにしても、見つからないね~」
ソフトクリームを舐めながら、ハートがぼやく。女四人組の中で最も身長が低いながらも懸命に首を伸ばし、何かを探すように周りを見回している。
「そう簡単には見つからないと思うよ。向こうも必死だし」
そう答えたのは、ハートの隣を歩いている長身の女だ。名をクローバーと言う。
「でも、まさか逃げられるとはね。失敗失敗」
「ふざけてる場合じゃないと思うケドな、さっさと見つけないとアタシ達の依頼人も起こりだしそうだケド」
ハートの軽口に対して金色の目をした少女、ダイヤが答える。ローズ女学園の制服を着こんでおり、物珍しさもあってか道行く人たちに注目されて行く。
「この国に居るのは分かってるんだし、こうやって探し回ってれば見つかるでしょ。まあもしこの街から出ても、わたしの追跡能力からは逃げきれないだろうけど」
そう嘯くのは、黒髪黒目で仰々しい首輪を付けた少女だ。近くを見つめる三人とは違い、どこか遠くを眺めている。
「時間を掛けてもしょうがないし、さっさと見つけ出して殺そうか」
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