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正義VS悪編②

 聖剣がピカッ! と眩く光り輝く。あらゆる魔を討つとされる聖なる光だ。この光を纏った以上、零次に怖い物はない。


「行くぞ!」


 零次が声を上げ青年に斬りかかった。青年は咄嗟にペンチで防ぐが、今度は掴んだペンチが真っ二つに切断される。聖なる光によって、聖剣の切れ味が抜群に上がったのだ。青年が舌打ちをしながら壊れたペンチの破片を投げ捨てる。


「チッ!」


「はあああっ!」


 声を上げながら、零次は聖剣で斬りかかる。青年は身を捻って紙一重で斬撃を躱した。零次は二撃、三撃と斬り付ける。青年はそれをやや危なげに避けていった。


「クソッ、当たれ!」


ただでさえ聖なる力で威力が強まっている剣なのだ、一太刀でも入れることが出来れば重傷を負わせる事が可能だ。


だから、まず一撃。それさえ当たればどんな化け物でも確実に倒せる。


そもそも零次は勇者で、青年は犯罪者。『正義は必ず勝つ』と信じている零次にとって結果は分かりきっていた。


「いいか、正義は勝つ!」


「おぉ、偽善勇者様が言うと滅茶苦茶薄ら寒いな。鳥肌が立ってきたよ。」


青年は挑発するかの如く言い放つと、ベルトからノコギリを取り出して反撃した。零次は聖剣を引いて防御するが、青年はガードの隙間を縫って金槌をフルスイングしてくる。


「うっ!?」


避けようと後ろに下がる零次。しかし通常の足場とは違い、ここは屋根の上。僅かにバランスを崩すだけでも命取りとなる空間だ。零次は大慌てで聖剣を突き刺して落下を防ぐ。だが、そんな致命的な隙を逃すような青年ではない。


「落ちておけよ。そうすれば楽になるぞ!」


青年が蹴りを繰り出す。蹴りの狙いは零次の手首だ。聖剣から手を離させる事で地上に叩き落とす目的なのだろう。落下を防ぐ事に神経を使っていた零次はもろに手首に蹴りをくらってしまう。



ーーーしかし、ここで勇者の力が生きた。青年の蹴りをもらった手首は力を失いかけるが、強い握力で剣を握る手を離さない。勇者の特典のおかげで力が強くなっているのだ。もう少し手の力が弱かったら落下していただろう。


「へぇ、よく耐えたな」


「もらった!」


何とか態勢を立て直した零次は、光り輝く聖剣を振るう。持ち合わせの剣道技術と勇者として強化されたパワーを活かし、青年に連続攻撃を強いる。


「鬱陶しい奴」


零次の猛攻にも焦ることなく対処しながら、青年は呟いた。






「勇者様がこんなに苦戦するなんてーーー」


二人の戦いを地上で見ていたレナは絶句していた。


レナは零次を召喚してから、その実力を知っているつもりだった。そして彼ならあの犯罪者に勝てることも。彼が勇者としてこの世界に来てからずっと、その圧倒的な力を目の当たりにしてきた。だからこその確信が彼女にはあったのだ。


 しかし、零次は未だ青年を倒しきれずに居る。


「勇者様はいつも努力して、人々を助けようと日々邁進しているのにーーー」


そんなレナの言葉を近くで聞いたアラギは鼻で笑った。


「努力?」


右手で構築した結界を操作しながら、アラギは嘲笑うかのように言った。


「努力した奴が勝てるなんて嘘っぱちさ。どんなに努力しようが素晴らしい才能があろうが、それだけで潰せるほどアイツは甘くねえよ」




「クソッ! なぜ当たらない⁉」


一方、青年に聖剣を振るっている零次は歯噛みしていた。


一向に攻撃が直撃しないのだ。先程から距離を詰め、剣道有段者を沈められるレベルの剣戟を叩き込んだ。もし相手が零次よりも段位が上の実力者であったとしても決して防げないであろう威力と速度、そして角度。


 しかし青年はどういう訳かヒラリとかわし、聖剣の直撃を避け切っていた。


それどころか、時々反撃とばかりに武器を振るってくる。その度に零次の体に傷が付き、血が流れていった。いかに勇者の加護で肉体を強化させているとは言え、強くノコギリで切られれば多少の傷は負うし金槌で殴られればダメージが残る。勇者とて無敵の体ではないのだ。


「どうして勝てない・・・僕はどうして⁉」


その時、地上から無数の火炎球が出現して青年に襲いかかった。レナの魔法だ。火炎球の強さは折り紙つき。灰も残らず、は言い過ぎだとしても大火傷を負わせる事は出来る物だ。


青年はそれを見るなり、コートのポケットから小瓶を取り出した。それを自分の足元に投げつける。


パリン、と瓶が割れると同時、火炎球が青年に殺到した。しかしそれらは全て青年に届く寸前で消えてしまう。


かろうじてコートの端を燃やすことは出来たものの、放った魔法の割に被害が弱すぎる。


「なッ・・・」


「事前に買っておいた魔法薬のおかげで助かったな」


零次は割れた小瓶を見る。あれには見覚えがあった。この国に来る前の国で売っていた代物だ。火災が多かった為に市販で売られていた道具で、使えば酸素を二酸化炭素に高速変換してくれる代物だ。


いかに火炎球が大きかろうと所詮は火。消すことは可能だと言う事か。


「何なんだ、お前はーーー」


「ちょっと名の知れた無能力者だ。それ以上の何者でもねえよ」


青年がノコギリを取り出し零次に斬りかかってきた。咄嗟に聖剣で受け止めると、聖剣の絶大な力に耐えきれなくなったノコギリが無数に砕けて宙に舞う。


それでも青年の動きは止まらない。手に持った金槌を振り、テニスのアタックのイメージで破片を零次に向かって力強く飛ばした。


「ウオッ!」


思わず後ろに下がるも、追随するように迫って来た青年に足を踏みつけられてその場に縫いとめられてしまう。青年は続けざまに顔面に金槌を叩き込んできた。直撃すれば額が割れ、視界が遮られる。また避けたくても、足を踏まれているためにバックステップなど大きく飛び退くことはできない。


「ウ、オオオッ!」


ほとんど避けきれないと思われる攻撃に対し、零次は限界まで身を捻る事でどうにか躱す。それと同時に聖剣を滅茶苦茶に振るう。


「お、まずいな」


その中の一振りが首を切り裂きかけ、青年は微かに笑いながら後ろに下がる。一方、無様な態勢で立ち上がった零次は荒い息を吐きながらも聖剣を必死で握りしめていた。


「何で、どうして僕は奴に攻撃を当てられないんだ! 僕は剣道の段も持ってるし、勇者としての力も持っている! こんな奴に負けるはずがーーー」


 勇者としての力を手に入れた時、零次は誓った。


 この力を、人々を豊かにするために使うと。


 正義は必ず勝つ。だから、こんな所でこんな悪人に負ける訳が行かないのだ。自分は勇者なのだから。





「だからお前はそんなに自信満々に突っ掛かってたのか」


それを聞いた青年は頭を掻いた。何と言うか・・・滑稽だ。


 確かに、剣道有段者と素人の間には明確な力量差がある。それに関して異論はない。しかし、剣道とは言ってみれば殺し合いである『剣術』を安全に、かつ道として派生した物であり、いくら極めてもそれは殺し合いには結び付かないのだ。


 対して青年は武道経験はほとんどないものの、数多くの修羅場をその身一つで潜り抜けている。故に相手を殺せない『喧嘩』なら勝てなくても、殺し合いになれば勝てる相手などいくらでもいる。


ーーー向けられる殺意、相手を殺す時の葛藤、人を刺した時に浴びる生々しい返り血の感触、確実に勝つための血も涙もない戦略の数々。


殺し合いでしか感じることのない経験を無数にしてきた青年と、与えられた力に甘んじてそんな経験をしてこなかった零次。その差は小さいようで天と地ほど大きい。


「俺一人で充分だ」と言い切れたのもこれが理由だ。殺し合い慣れしている人間ならともかく、ただもらい受けた力を漫然と振るっている人間には万が一にも負ける事はない。。


「それにーーー」


青年は先程感じた失望感を思い出す。さっきのノコギリの破片を飛ばした一撃は、彼にとっての隙であった。思いっきり金槌を振ったせいで、重心が上手くコントロール出来ていなかったのだ。


あの時、零次が後ろに退くのではなく前に出ていたら。ノコギリの破片をその身にくらう覚悟で突っ込んできていたら。


間合いの都合上、零次は勝っていたかもしれない。しかし彼は逃げた。傷を負うのを無意識の内に避け、安全な道を選んだのだ。


(怪我を負わずに俺を倒そうだなんて、生意気な奴だな)


顔に浮かぶ退屈がいっそう深まる。青年はベルトからタガネを取り出し、零次に向けて突き出した。


「おわっ!?」


零次が下がった隙を突いて青年は飛び込む。しかし、横合いから降り注いだ電撃を察知して横に飛び退いた。電撃は青年の背後を一直線に突き抜け、近くの建物を破壊していく。


「あの魔法使い、ウザいな」


青年に魔法の適正はない為これはただの直感になるが、この技を使う魔法使いはかなりの実力者ではないだろうか。少女ほどの力はないだろうが、それでも並大抵の敵ではない。


屋根から屋根へと移動しながら、二人はぶつかり合う。


「アイツらのどっちかを呼び戻せれば魔法使いを封殺できるんだが・・・難しいよな」


「何をブツブツ言ってるんだ! 僕を見ろ!」


零次が聖剣を振り、再び青年に斬りかかる。その聖剣が一層輝きを増しているのを見て、青年は眉をひそめた。


「アレはーーー」


光り輝いた聖剣の刀身が、いきなり十数メートル伸びる。青年が飛び退くと、一瞬遅れて零次が輝く聖剣を振るってきた。


刀身が倍近く伸びたためか、聖剣は青年の肩を僅かに切り裂く。黒いコートの肩口が数センチだけスライスされ、宙を舞った。


「ッ・・・」


「ウオオオオオ!」


零次が立て続けに聖剣を振り回す。剣道有段者によるリーチの長い得物での攻撃だ、下手に手を出せば真っ二つになる可能性がある。青年はしばらく避けることだけに専念した。長く長く伸びた聖剣は付近の建物をバターでも切るかのように滑らかに切り裂いていく。


「あんなのに斬られたらヤバイな・・・」


「余所見を、するなぁッ!」


零次が勢いよく突っ込んでくる。青年はタガネを投げるとベルトの横に付けられた鞘から刀を抜いた。破損したらその都度買い替える工具とは違い、『魔族戦争』の時から重宝している大切な刀。こんな物をあんな偽善勇者如きとの戦いで使用したくはなかった。


「これは使いたくなかったんだがな」


だが仕方ない。もう武器が残されていないのだ。既に腰のベルトに装着してあった工具の大部分は聖剣によって破壊されてしまった。


「滅びろ・・・悪党!」


投げ付けられたタガネを斬り落とし、零次が真っ直ぐ駆けてくる。彼の聖剣は十数メートルの長さを煌々と光り輝き、見る者を魅了するかのごとく美しい色を見せていた。


「リーチが長いと鬱陶しいな・・・」


 更に力んだのだろう、聖剣がますますその強さと輝きを増す。聖剣の長さは三十メートルには達しているだろうか、零次が武器を振り回す度、建物の崩壊が加速していく。


「おお、時計塔がぶった斬られてる。アレ間違いなくこの街の中心だよな。修繕費どのくらい掛かるんだろ」


 とても戦闘中とは思えないほど呑気な呟きをしながら、青年は聖剣による斬撃を躱していく。少しずつだが楽になってきた。


 剣道に固執しすぎていて、同じ場所しか狙わないのだから尚の事避けやすいのだ。これがもしも素人丸出しの動きだったり、狙いを持った攻撃なら苦戦するところだが、習ったままの動きなら全く脅威ではない。ここは戦場、ルールなどあってないような物だ。努力よりも実力が評価される世界。


「オオッ!」


雄叫びを上げながら大きく聖剣を振り下ろした零次に、青年は刀の切っ先を向けたまま肉薄した。狙いは刀による刺突。外しても、金槌で喉を潰す。予想外の動きを取って来ても、今度は確実に仕留められる。



ーーーーその時、聖剣が桁違いに光り輝いた。



 先程までの物とは明らかに一線を画す眩さ。その瞬間、青年は視線を聖剣から移し零次の表情を観察する。零次の目にほんの一瞬だけ動揺が移り込むんだのを見てある事を確信した青年は、二段構えの攻撃を解除して後ろに飛び退く。


「な、何だ⁉」


 驚きながら聖剣を屋根から引き抜く零次の目に、極光が飛び込んでくる。目も開けていられないほどの光に目を細めながら、零次は慌てた様子を見せた。


「分からねえのか? お前の力が暴走してるんだよ」


 確信した事実を、青年はぶつける。恐らく零次は自分の力を限界まで試したことがないのだろう。聖剣が極光を放ち始めた際に動揺していたのを見る限り間違いない。


 力を手に入れたとき、最も警戒しなければならないのが『その能力の限界』だ。その力は何発使えるのか、どんな威力なのか、弱点はどんな物か・・・etc.


 それを知っておかなければ、その力を使いこなせたとは言えない。


「大方、力が強すぎてそこまで使ったことがなかったんだろうな。・・・自分の力くらい把握しておけよ」


 呆れたように息を吐く青年に、零次がキレる。


「うるさいっ! お前に、お前みたいな犯罪者なんかに勇者である僕の何が分かるって言うんだ!」


 怒りに任せて振り下ろされた聖剣はしかし、誰にも当たることはなかった。ただ、直線上にある建物をぶった斬っていく。


「そうだな・・・」


 キレ始めた零次に対し、青年は耳をほじりながら答える。


「確かに、俺にはお前の苦労なんて分からない。強すぎる力を与えられて怪我一つなく無双したり、街を歩く度に人々に崇め奉られたり、何人もの女を侍らせて旅をする人生イージーモードの人間の苦労なんて、理解できないししたいとも思わない」


 それを示すかのように、彼の顔に嫉妬や羨望と言ったものは微塵も浮かんでいない。


「だがなーーーそんな俺でも、これだけは言えるな」


 青年は零次の後ろを指差す。零次が振り向くと、そこには半壊した建物群があった。青年は一つも破壊していない為、正真正銘全て零次が一人で破壊した物だ。


「正義のためと称して無関係の人間に多大な迷惑を描けるほど、俺は腐っちゃいねえよ」










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