正義VS悪編①
この回はもう少し後にしようか悩みました。
国へと続く草原を、青年と複数の少女が歩いていた。
青年はさっぱりとした黒髪に、いかにも好青年そうな顔立ち。いわゆる『爽やか系イケメン』と言う感じの風貌だった。
彼の名前は佐藤零次。職業は勇者だ。部活帰りに突如この世界へと召喚され、勇者として人びとの幸せを守る使命を与えられた。今は魔族を皆殺しにするために、魔族の国へと向かっている最中だ。
彼の周りには、様々な業種の少女が侍っている。どれも美少女な上に実力も持ち合わせていると言う、素晴らしい人材たちだった。
「ねえレイジ、いつになったら次の街に着くの?」
そう聞いたのは、格闘家のジュディだ。18歳と言う若手ながら数多の格闘大会で優勝記録を総なめにした経験を持つ実力者だ。魔法こそ苦手としているがオーガ1体くらいなら余裕で打ち合えるという超戦力である。
「そろそろじゃないかな。もう結構歩いているし」
「最近は人から分けてもらった食べ物ばかりですものね。そろそろお店とかで食べたいです」
そう聞いたのは魔法使いのレナだ。人類の中でも5本の指に入るほどの詠唱速度を誇り、高い魔力適性を持ち合わせている上に黒・白問わず高等魔法を使いこなせる天才だ。
そしてーーー零次を召喚した国の王女でもある。
勇者が王族と共に魔族を葬れば、それは美しい伝承となるだろう。幸いな事にレナは優秀であったため、こうして旅に同行する事になったのだ。
零次達が歩く道とは、少し離れた違う道にて。
国へと続く道を、三人の人間が歩いていた。
青年は黒い血で染まったかのような真っ黒なコートを羽織り、鋭い目つきで周りを眺めている。頬には乾いた血が張り付き、青年の悪人度を更に上げていた。
大股で歩く彼の隣では、銀髪の少女が小股でトコトコと歩いている。道を歩けば十人中十人の男が振り返るであろう美少女だ。青年同様、顔にやや血を付けているが、それでもなお美しい。
そんな二人と並んで歩くのは長身の男・・・アラギだ。青年に負けず劣らずの眼力で周りを油断なく見回し、常に警戒を怠らない。
「なあ、いつになったら着くんだ? 足が疲れたんだが」
「・・・まだ30分も歩いてない」
少女の言葉に、青年は溜め息を吐いた。
「国から国って、意外と距離あるんだよな。馬車を使うほどじゃないけど、かと言って歩くにしては少し長い感じ。なあ、転移系の結界とか魔法とかないのか?」
「・・・あるにはある。でも、そう言う魔法は大体使用者用に出来てる」
「だから?」
「・・・一緒に飛ぶ人の安全は保障できない。最悪、重量オーバーで腕とか足が千切れる可能性がある。それでもいいなら発動するけど」
「……やっぱりいいです」
苦虫を噛み潰したような顔で言う青年に、アラギは馬鹿にしたような目を向ける。
「本当にお前って、殺し合い以外はダメダメだよな」
「・・・彼を悪く言わないで。私は彼のそんなところが好きなの」
「そんな所ってどこだよ。こんな9割が狂気で出来てるようなゲテモノにどんな魅力があるって言うんだよ」
「お前ら喧嘩するなよ。お、そろそろ町が見えてきたな」
青年の言葉に、二人は同時に前を見る。すると確かに建物群が見えて来ていた。
「とりあえず顔に付いた血を流したいな。それと食糧も買わないといけないし。正体がばれないといいけどな」
「お前がその悪趣味なコートを脱げば全て解決すると思うぞ」
「・・・それには同感」
二人の言葉に、青年は黙って肩をすくめた。
町に着いた勇者一行は、住人からの手厚い歓迎を受けて町に入った。何せ彼らは人々の敵である魔族を皆殺しにするために集ったパーティだ。祝福されて当然である。
「随分と賑わってるんだな」
「そうですね。この国はかなりの面積を持っていますから」
レナが周りの店を見回しながら告げる。零次もその後に続く。
この世界の技術力については一通り把握している。この世界は『科学技術の代わりに魔法が使えるようになった世界』と零次は認識していた。つまり、全く別の別世界と言うよりIFの世界に居るような気分である。
魔族の存在だって、恐竜のような物だと思えば説明が付く。
「勇者様、何をやっているのですか? 行きますよ」
「あ、ああ。悪い」
どうやら考え事に没頭してしまっていたようだ。零次はレナの後に続いた。その時、どこからか声が聞こえてきた。
「おい、向こうで喧嘩が始まってるぞ!」
町に着いた青年達を待っていたのは、住民たちによる手痛い洗礼だった。
彼らの姿を見るなり、いかにも荒くれと言った様子の男たちが掴みかかって来た。少女に金と必要な物のリストを渡し、青年とアラギは敵の対処を始める。
決着は語るまでもない程呆気なくついた。青年は何もしていない。アラギが一人で片づけてしまったのだ。狂気一つで突っ込む青年とは違い、アラギは実力派の人間である。目にも見えない居合抜きを行うと同時、男たちが地面に倒れ伏した。
「流石、剣の達人。一滴も血を流す事なく殺したな」
「峰打ちだ。オレはどこかの誰かとは違って不要な殺しはしない主義だからな」
「・・・何か、さっきから俺に対する風当たりが強くねぇか?」
「元からだろ。そもそも自分が人から好かれる性格だと思ってるのか?」
アラギが抜いた刀を鞘に戻す。その様子を見ていた取り巻きは彼の芸当に拍手を送った。魔族が出現するようになって荒くれ者が急増したとはいえ、これだけの技術をお目に掛かれる機会はそうはない。
「おい、死神。コイツらはどうする」
「放っとけばいいんじゃねえの? だってここ大通りだぜ? 放っておけば誰かが助けるだろ」
そう、ここは無数の人間が闊歩している大通りである。青年達の喧嘩も、当然のごとく多くの人間が見物しているような場所だ。むしろ彼らの喧嘩を止めようとしなかった住民が一人も居ない方がおかしいくらいだ。
「さて、と。とりあえずどこかで風呂に入って体に付いた血を洗い流してーーー」
「何だ、これは」
正面から声が聞こえたので前を向くと、2メートルはあろうかと言う巨漢が青年達を見下ろしていた。身なりや体格からして今絡んできた荒くれと同じようだが、雰囲気が明らかに違う。この巨漢からは修羅場を何度も潜り抜けてきたかのような覇気を感じる。
少なくともマトモな奴ではないと判断した青年が、タメ口で質問した。
「誰だ、お前?」
「この町の不良を束ねている、バオと言う者だ。これをやったのは貴様か?」
「ああ、そうだ。そこの悪趣味なコートを着た男が全てやった。オレは見てただけだ」
「お、おい⁉」
バオの問いに、流れるようにアラギが嘘を吐く。そしてしたり顔で近くにあったベンチに腰掛けた。どうやら青年の加勢はしてくれないらしい。バオは青年の服を一瞥すると、納得が言ったように大きな顔を縦に振る。
「その服・・・『黒百鬼の死神』か。相手にしては少々分が悪いが仕方ない。こちらにも面子と言う物があってな」
「面子の為に怪物と呼ばれる男に挑むのか? 面白い奴だな」
青年は笑うと、腰のベルトから金槌とペンチを取り出した。残念なことに彼は好戦的な人間なため、争いを避けようと言う気配は微塵も感じられない。むしろもっと激化させてしまおうと言う気配がビンビンと伝わってくる。それを見たバオも腰を落とした。
二人の戦闘オーラを感じ取った取り巻きが、怯えた目で二、三歩下がる。それが合図だった。
青年がバオに突っ込む。バオも迎え撃とうと両手を広げた。
ゴシャッ! と言う、骨が砕ける音が路上に響き渡る。
「喧嘩は止めるんだ!」
聖剣の柄に手を掛けた零次が喧嘩の仲裁に入った時には、既に戦いは終わっていた。地面のあちこちに凹みと血が散乱している以外、特に変わった事はない。そう、戦闘は終わったのだ。
ーーー代わりに蹂躙が行われていた。黒いコートを着た青年が巨漢の指をペンチで掴み、一本ずつへし折っていた。青年が嬉しそうに骨を折るたびに巨漢の体がビクッ! と震える。しかし抵抗する力はないようで、されるがままになっていた。
「おいおい。さっきまでの威勢はどこに行ったんだよ。もう一発、俺を殴ってみろよ」
よく見ると、青年も無傷では居なかった。額から少なくない血を流し顔の半分が赤く染まっている。殴られた、と話している様から額を殴られたらしい。
「おい、早く起きろよ。あと指は3本しかないぞ?」
『あと指は3本しかない』。その言葉の意味を理解して、零次の背筋が冷たくなった。衝動的に聖剣を抜き、青年に向かって叫ぶ。
「その人から離れろ!」
「あ?」
零次の言葉に、青年が立ち上がり顔を向けてくる。その手に血の付いたペンチを持っているのを見て吐き気がするが、我慢。人々を守る立場である自分がここで引いてはいけない。
「勇者様、急にどこに行かれるのですか・・・ッ⁉」
遅れてついてきたレナが、青年を見てハッと息を呑んだ。遅れてきたジュディも同じ反応を示した。
「こ、『黒百鬼の死神』・・・何でこんな所にッ⁉」
「それって確か・・・」
聞いた事がある。三つの国を立て続けに滅ぼした、最大の悪人であると言う事を。何でも『魔族戦争』に参加してとんでもない功を立てたらしいが、そんな事はどうでもいい。問題は同じ人類を数多く殺したと言う点だ。知らず知らずのうちに、零次の手に力が籠る。
「どうしてそんなクズ野郎がこんな所にーーー」
足にグッと力が籠る。その時、銀髪の少女が零次の横を通って青年に向かって歩いて行った。危ない! と零次が注意しようとするのも間に合わず、少女は青年に近づいていく。
「・・・言われた物、買ってきた」
「おお、お使いありがとな」
少女が手に持った袋の中身を見せる。青年はそれを見ると口の端を歪め、少女の頭を乱暴に撫で回した。それを見ていた零次は思いのたけを口から出してしまう。
「やめろ! その男は危険だぞ!」
「・・・?」
少女は不思議そうな顔をして零次を見た。その表情が一瞬固まったのを、零次は見逃さなかった。更に密着するように動いた少女に顔をしかめた青年は、零次の方を向く。
「お前まだいたのか。悪いけど今疲れてるから決闘の申し込みは後でいいか?」
「違う! 僕は勇者だ! 『黒百鬼の死神』だな⁉ 速くその子から離れろ!」
零次が強く叫ぶと、青年は困ったように頭を掻いた。
「とは言っても、コイツの方から近づいてくるんだが。ん? よく見るとどこかで見たことがあるようなないような。と言うか勇者? て事はーーーー」
「黙れ! 犯罪者が偉そうに!」
青年の言葉を遮り、零次は数歩距離を詰めた。自分の正義感が、速くこの犯罪者から少女を助けてあげたいと訴えていた。
「なあ、そこの君。その男に脅されているんだろう? 大丈夫、僕は勇者だ。僕が君を必ず守ってあげるからね。さあ、僕のパーティに来るといい」
零次は手を伸ばすが、少女はいやいやと首を振った。青年を掴む手が更に強くなる。正義である自分が拒絶された事に零次の顔が強張るが、少女の次の言葉にその顔が困惑に変わった。
「・・・『まあ仕方ないよね。人類を脅かす魔族は死んで当然だ』」
「えっ? なんだいそれは?」
零次は聞き返すが、少女は答えずに青年にしがみついた。青年はそんな少女を見ると、退屈そうに零次を見た。
「本人がそう言ってるんだから、そのくらいにしておけよ勇者様。・・・てか、どこかで聞いた事がある声だと思ったらそう言う事か。自分の発言に責任も持てない癖に正義ぶるなよ。大体、俺は『正義』って言葉が嫌いなんだ。とっとと失せろ偽善者め」
「お前は黙れ! この犯罪者め!」
どうして自分が拒絶されなくてはならないのか。零次は聖剣を青年に突きつけた。
「『黒百鬼の死神』! 勇者として、僕は君を成敗する!」
「成敗? お前が俺を? 面白い冗談だな、芸人になったらどうだ?」
そうせせら笑う青年に向かって、零次は聖剣を振った。ブン! と鼻先三寸で剣を振られるのを見て、青年は口角を僅かに上げる。
「冗談じゃなかったのか。まあいいや、その薄ら寒い正義をグチャグチャに壊してやるよ」
手に持っていた金槌で聖剣を弾くと、青年は後ろを振り返った。
「アラギ、いつもの奴頼む! 足りなかったらコイツも使ってくれ。コイツ、相当魔力溜め込んでるはずだから!」
「加勢しなくていいのか?」
「多分、大丈夫。この手のチート使いなら俺一人で充分だ」
その雑魚に対して言うようなセリフに、零次はカチンと来た。これでも彼は剣道二段を持っている。それに加えて、勇者の加護で身体能力を強化してもらっている。それにこの聖剣だ。単体で龍を殺せる自分に向かって一人で充分とは、何と言う自信だろう。
「舐めるなッ!」
横薙ぎに斬り付ける。青年はペンチで受け止めるが、衝撃を完全に殺し切れる訳ではなく後ろに数歩下がった。しかし、その表情に焦りは見当たらない。
「加勢します! 勇者様!」
レナが呪文を唱え、掌から風の塊を撃ち出した。中級魔法【ブラストボール】だ。直撃すれば痛いでは済まされない。
「うわっ、多人数戦かよ。面倒だな」
青年は横に飛ぶと、近くにあったゴミ箱の蓋を手に取った。それを盾のように振りかざす事によって風の塊から身を守る。
「防がれた⁉ ならばこれでーーーーキャア!」
次の呪文を唱えようとしたレナに、青年はたった今盾に使ったゴミ箱の蓋を投げつけた。ゴミ箱の蓋はレナに直撃はしなかったものの、彼女の動揺を誘うには十分だった。レナが動揺した隙に青年は壁を蹴り、民家の屋根の上に立つ。
「逃げるなんて卑怯な!」
零次は爆発的な脚力で飛び上がり、追尾する。そして聖剣に自分の持つ聖なるエネルギーを注ぎ込んだ。
今更ですが・・・
この世界の単位の名称などは基本、こっちで使っている物で行きます。やっぱり新しい単位を作るとごちゃごちゃするので・・・
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