無能詐欺編③
イキっても許される主人公ってどんなの何でしょうね。誰か知ってたら教えて下さい。
少女は、魔法使いとして異常なステータスを持っている。濃密な魔力、魔力の容量、極端まで切り詰めた魔法の詠唱。本人に自覚はないが、魔法使いと言う観点においては大陸でも10本の指に入る実力者である。
しかし彼女は普段、それをフルに使う事なく生活している。何故なら使う必要がないからだ。大抵の敵は上級魔法を2,3発撃ち込めば死ぬ。
それに相棒が超好戦的な思考の持ち主であるため、基本少女の出番は皆無と言ってもいい。
その為、少女の魔力は常に大半が溜め込まれた状態となっている。しかし魔力とは排出されない血液のような物で、次から次へと新たな魔力が生成されては少女の体内に蓄積されていく。少女の魔力容量は一般的な魔法使いと比べてもかなり多い方だが、それでもやはり限度が存在する。
限界まで膨らませた風船を想像すれば分かりやすいだろうか。空気を限界まで詰め込まれた体は脆く、少しでも感情に負荷が掛かろうものなら即・破裂する。
溜め込まれた魔力が一度に収束されて放たれるのだ、その質量は国を一つ余裕で滅ぼせる物である。
とは言え、少女の精神は基本安定している。隣に青年がいる限りは余程の事がない限り彼女の精神が不安定になる事はないのだ。故に、少女の【爆発】が起こった事はほとんどない。
ーーーしかし、それはあくまでも青年が居る場合の話である。彼が目の届かない場所に行ってしまい、かつ少女の魔力が限界まで溜め込まれていた場合・・・・・・
『黒百鬼の死神』を越える災厄が、牙を剥く。
少女の体が淡く輝き、明確に変化していく。150後半までしかなかった身長が一気に2メートル近くまで伸び、美しい銀髪もますますその輝きを増して腰まで垂れる。顔立ちもやや大人びた表情へ変化し、事情を知らない者が今の彼女を見れば5歳ほど年を取ったのかと勘違いするだろう。
溢れ出した魔力の一部が少女の肉体を強化したのだ。変化が終わると同時、少女は立ち上がった。全身を力が漲っていくのを身をもって感じる。
「なッ・・・」
突然姿を変えた少女に驚くネルラ。しかし驚きよりも持ち前の残虐性が上回ったのか、二人の男に命令する。
「アレフ、リンガ! やっちまいな!」
ネルラの指示で、驚きに硬直していた二人の男が我に返り同時に少女に飛び掛かった。しかし同時に繰り出された拳は、少女に当たる寸前で見えない壁にぶつかったかのように弾かれる。
魔力の障壁だ。それも、先ほど張られた物とはけた違いの強度を誇る物。
「・・・この姿になったの、久しぶりかも」
少女は手を開閉させ、自分の身に起こった事を確認する。普段抑えている状態と違って、今の彼女は蓄えていた魔力を全解放している状態だ。力を調整しないとこの辺り一体を消滅させてしまう。
「はあッ!」
少女が自分の状態を確認していると、どこからか現れた茨が少女を包囲して絡み付いてきた。ネルラがこちらの動きを止める為に行ってきたのだろう。茨は少女が昔見た物よりも遥かに刺々しく、危険な匂いを放っていた。
しかし、そんな攻撃は本気を出した少女の敵ではない。茨は乙女の柔肌に食い込む前に障壁によって阻まれる。
「何っ⁉」
ネルラの驚く声を尻目に、少女は腕を振った。すると茨が悲鳴を上げるかのように激しく蠢き、根本からポキッ、と連続で折れていく。
「詠唱なしで魔法を使ったのか・・・どうなってるんだよ!」
僅かに驚きを見せるも、ネルラはすかさず杖を振って魔法を発動しようとする。しかし、少女はそんな隙を逃すほど甘くはない。
「・・・遅い」
中指と親指を曲げ、デコピンの形を取る。そして、「・・・えいっ」と言う可愛らしい掛け声と同時に、中指を勢いよく弾き出す。
瞬間、ネルラの手に持っていた杖が粉々に砕け散った。砕け散った破片の一部がネルラの頬を掠め、一筋の血を流させる。呪文を唱える事なく遠隔攻撃を放った少女に、男たちも驚きを隠しきれない。
「お、お前、今何を・・・」
「・・・【重力球】」
ここで初めて、少女は呪文を唱えた。少女の周りに無数の球体が出現する。球体は全て、真っ黒な色をしている。
光すらも飲み込む、小規模なブラックホール。それが【重力球】の強さだ。
「あんな短い呪文で、あれだけの重力球を・・・化け物かよ、アイツ」
通常、重力魔法によって生み出される重力球の数は3~5個である。魔力の操作が上手な人間なら更に産み出せる数が増えるが、良くても10個が限度。
そんな記録をあざ笑うかのような少女の魔力に、敵は口を歪める。
「『黒百鬼の死神』の傍に侍ってるだけの無能じゃなかったのかよ。クソッ! こんな数の重力球、どうやって対処すればーーーー」
「・・・行って」
少女が指示を出すと、重力球は一斉にネルラ達目がけて飛んで行った。重力球は驚きのあまり棒立ちになっていた男二人を目にもとまらぬ速さで飲み込み、残された最後の標的を呑み込まんと向かっていく。
「クソッ! 光り輝く障壁よ、我が身を守れ! 【エターナル・バリアー】!」
これだけの数を捌き切ることは不可能と判断したのか、ネルラはこれまでの攻撃とは一転、防御魔法を唱えてくる。ネルラの前方に光の壁が出現し、殺意の黒弾からネルラの身を守り抜く。
「これでもなあ、『マダラ盗賊団』の副長なんだよ! 『三狂人』に引けを取らないほど地獄を見てきたんだ! テメェみたいななぁ! 尻の青いクソガキに負けてたまるかよ! ・・・カハッ!」
そこで、ネルラは口から血の塊を吐き出した。とはいえ無理もない。いくら彼女が優秀な魔法使いだったとしても、たった一人で無数の小規模ブラックホールを凌ぎ切るなど不可能にも近い。
むしろ、未だに五体満足でいられるだけ、ネルラと言う敵の耐久力は称賛されるべきだろう。
「・・・誇っていいよ」
「アァ⁉」
「・・・私相手にここまで耐えたのは、ほとんどいないから」
そう、ネルラに労いの言葉を掛ける。この言葉に嘘偽りはない。実際アラギ辺りと戦わせたらかなりの泥仕合になるだろう。
だが、相手が悪かった。
「・・・さよなら」
少女が呟いた瞬間、ネルラが張っていた光の壁が切断された。切断された光の壁が粒子となって消えていく。それを目の当たりにしたネルラが、ハッと息を呑む。
「まさかお前、直接魔力を操ってるのか⁉ 冗談じゃねえ、お前何者だよ⁉」
「・・・私?」
その質問に、少女は首を傾げる。そして返答するために数秒考えた後ーーースッと右腕を振り上げて言う。
「・・・私は『黒百鬼の死神』の彼女。そしてゆくゆくは妻になりたい」
振り上げた右腕を、真っ直ぐに振り下ろす。刹那、見えない刃がネルラを真っ二つに切断した。
「ウアアアアアッ!」
ネルラはそう断末魔の如く悲鳴を上げーーーー切断された空間に飲み込まれ、どこかに消えてしまった。
ネルラの最期を見届けると同時、少女の体に異変が起こった。急速に体が縮んでいく感覚。全身を駆け巡っていた力が抜け、やや気怠くなってくる。
体に僅かに残った魔力を溜め息に乗せて吐き出すと、少女は呟いた。
「・・・疲れた」
地面に仰向けに寝転がり、目を閉じる。青年を救い出したい気持ちはやまやまだが、今の少女が一人で突っ込んでも青年を救い出すのは困難だろう。ここは魔力が回復するまで待つしかないと自分に言い訳しながら、少女は眠りに付いた。
「・・・彼が居ないから寒い」
もしここに魔法の常識とプログラムの技術を持つ人間が居れば、少女の異質さに気付けただろう。
魔法とは、言ってみれば『プログラム』のような物なのだ。
自分の体内にある魔力を、『魔法』と言う呪文を用いて撃ち出す。プログラムと大きく違う点は、使用者の適性次第で際限なく呪文を切り詰められるところか。実際、一流の魔法使いならば一単語で高威力の魔法を放つことが可能であるという事実が存在する。
しかし少女は三度にわたりコードを切り詰めるどころか、一切詠唱を行わなかった。
それは、一文字もプログラミング言語を書かずにソフトを開発するレベルの所業だ。
あり得ない、どころの騒ぎではない。あってはならない事実だ。先ほどネルラが驚愕したのも無理もない。
だが、少女はそんな自分の異質さに気が付く事はまだない。もし仮に気が付いたとしても、彼女がする事は変わらないだろう。
「さて・・・と。こんな物か?」
牢獄の中で、青年はクックッ、と気味の悪い笑い声を出した。
「おい、出来たぞ。裁判官も検察もビックリして腰抜かすような最強の答弁書が」
言いながら、鉄格子の下からアレンに『明日の裁判でどう立ちまわればいいか』を書いた紙を渡す。アレンはそれをスッと受け取ると、ハッと息を呑んだ。
「日本語・・・? おい、お前はまさかーーー」
「後は手筈通りにやれよ。俺は寝る」
アレンの言葉に一切耳を貸す事なく、青年は床にゴロリと寝転がった。久しぶりにぐっすり眠れそうだ。
「それにしても、勇者ねえ・・・」
目を閉じながら、青年は独りごちる。どうにも自分は勇者と称する人間との遭遇率が高いように思える。彼が覚えている限り三人の勇者に出会っている。
少女と出会った街に居た勇者、国王に騙されて監禁された勇者、そして隣の牢獄に居る嫌味な勇者だ。
「それだけの勇者を呼び出す必要があるほどの危機が迫っているのか?」
答えが返って来るはずがないと理解しながらも、青年は呟く。
「あるいはーーークク、可能性はあるな」
ふと、とある可能性が頭をよぎり青年は軽く笑う。
「だとすれば、俺はダークホースって所か? いいね、そう言うの。楽しくなって来たなぁ」
クク、クククククと言う、傍から見ればとても痛々しい笑いが牢獄内に響き渡った。
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