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金融編②

金の表記を『ゴールド』にしようか『金貨』にしようか悩んでいる今日この頃です。

突然変わったらごめんなさい。

 青年と少女が村に向かって歩いていると、村の方から複数の村人がこちらに向かって走ってきた。老若男女様々な彼らは目をギラギラと光らせながら、青年達を見据えている。


「何だありゃ?」


 ベルトに挟んだノコギリの柄に手を掛け、青年は首を傾げる。その悪名と悪評から、彼に挑む人間は少なくない。多い日に至っては一日に五回絡まれることもあるくらいだ。


 武器に手を掛ける青年の前に、少女が立つ。


「大丈夫。貴方は私が守る」


「おいおい。俺が物理担当、お前は魔法担当だろ。お前は俺が感知できない魔法の罠に意識を裂いてくれ」


 そもそも、と青年は続ける。


「大丈夫だと思うぞ。少なくともアイツらは敵じゃない。今のところはな」


 そんな自分の言葉を裏付けるかのように、青年はノコギリから手を離した。それを見た少女も警戒心を解く。


「で、何の用だ?」


 走ってくるなり二人を取り囲んだ村人達の行動に、青年は眉をひそめた。殺気の有無や武器を持ってない様から攻撃してくる可能性は薄いと判断していたが、万が一と言うこともあり得る。


「『黑百鬼の死神』さんですよね?」


  村人は全員、薄汚れた格好をしていたが、その中でも際立って汚れた格好をした男が正面に立ち声を掛けてきた。青年は返事をしようと口を開いたが、その前に男が一歩前に踏み出たので口を閉じる。


「実は、折り入って交渉したい事があります。いい儲け話があるんですが、乗りませんか?」


「・・・儲け話?」


  反応したのは少女だった。村人の男は頷くと、興奮したようにまくしたてた。


「そちらにとっても悪くない条件です。どうでしょう、私達に協力して一儲けしてみませんか?」


  村人の目は怪しげにギラギラと光っているようで、どこか怯えているようにも見える。青年は鎌を掛けて見ることにした。


「冗談はよせよ。本当に儲かる話なら、人には絶対に言わないはずだ。『儲かる話』を初対面の人間にただで提示するのは本物の馬鹿か詐欺師だけだ」


 青年が言葉を発すると、ビクッ! と村人達の体が一斉に震えた。それは彼が核心を突いた発言をしたからと言うよりも、言葉を喋ったという事実に怯えているように見えた。


「それに、これだけ悪評の広まってる俺への交渉だ。これはもう、騙しに来てるとしか思えねえな」


 青年が一言話すたびに、村人達の瞳に宿る恐怖が色濃くなっていく。その恐怖の色を楽しそうに見ていると、少女が服の袖を引いてきた。


「・・・話くらいは聞いた方がいいんじゃない?」


「最初からそのつもりだよ。ちょっと怖がらせて遊んでただけだ。それで? 儲け話って何だよ」


 鎌掛けを中断して、青年は村人の男に問い掛ける。村人の男はやや過呼吸になり掛けながらも前に踏み出した。


「じ、実は、ま、町の金融機関から金を強奪しようと思いまして。あなた様の力を借りれば強盗の成功確率は格段に上がるんです」


「ほう、強盗ねえ。それはまた面白いことを考えたな」


 青年が肯定したような声を上げると、村人の男は更に興奮気味な声を上げた。


「奴らは本当に非道なんですよ! 高すぎる利子で金を貸して、儲けを貪る。しかも回収できなければ暴力を振るってくる。奴らはクズそのものですよ! ですからここは、正義の為と思って奴らを共に倒しましょう!」


「・・・・・・」


 途中まで聞く姿勢を保っていた青年が、突然不快そうな顔をする。青年の不快指数が上がった事を察したのか、少女は青年から離れた。


「正義の為、ねえ。お前、ふざけてるのか?」


 やがて、数十秒沈黙していた青年が口を開いた。


「言いたいことはよく分かった。確かに、お前達みたいな貧困にあえぐ人間から更に金を毟り取るって言うのは、悪い事かもしれない」


 けどな、と青年は続ける。


「それに対してお前らがやろうとしてる事だって言ってみれば『強盗』、社会的に見れば悪なんだよ。要は悪が悪を倒してるだけだ。『正義の為』とか聞こえのいい言葉で誤魔化して、自分の罪を正当化するんじゃねえよ気持ち悪い」


「・・・どんな形であっても、人を殺したら殺人犯。勇者でも魔王でもそれは一緒」


「そう言う事だ。お前達の計画は面白いと思ったが、考え方が気に食わねぇ。じゃあ、俺達はそろそろ行くぞ」


 青年は言うだけ言うと、正面に居た男の横を通り過ぎて歩き出した。大股で歩く彼の隣を、少女が頑張ってついてくる。


「・・・でも、世の中には『正当防衛』とか『事故死』とかがある」


「そんな事は分かってるよ。だがそれは言ってみれば不慮の事故であって、誰かを殺していい理由にはならないだろ。ま、俺には関係ない話だがな」


 青年は現在ほぼ全ての国で指名手配に近い行為を受けているため、『正当防衛』とか以前に捕まったら最後、有無を言わさず処刑確実だ。


 笑えない自虐に、少女は憐みの目で青年を見た。





「クソッ! どうする⁉」


 青年たちが去ったあと、議長は思わず地面をたたいた。


「こうなったら奴の隣に居たガキを攫って無理やり従わせるしか……」


 そう言って青年達の後を追おうと立ち上がると、誰かに後ろから羽交い締めにされる。「何をする!」と叫びながらもがくも、羽交い締めは止まない。どころか他の村人も議長を止めようとし始めた。


「馬鹿ですか⁉ そんなことをしたら全員ただじゃすみませんよ!」

「そ、そうだぞ。それにあの女、なんだか嫌な予感がするぞ」

「全員じゃない。親族まとめて皆殺しにされるかもしれないんだぞ!」


 村人たちの説得を聞いて、議長はようやく動きを止めた。そうだ、自分は何を血迷ったのだろうか。危うく最悪の選択肢を選ぶところだった。


「そ、そうだな。皆、心配させてすまなかった」


 その言葉に、村人たちがホッと息を吐くのが聞こえる。議長は青年達の向かった方向ーーーー村を見る。


「奴らは村に向かったんだったな。ならば、しばらく村に留めてしまおうではないか」


「村に留める、とは?」


 副議長の疑問に、議長は胸を張ってこたえる。


「村の残った住人に、宴会を起こさせるのだ。それも今までにない規模のものをな。奴とて恐らくーーーたぶん人間だ、酒や女で釣れば時間を稼げるだろう。金のほうも心配はいらない」


「な、なるほど。さすが議長です!」


 副議長が羨望の眼差しを向けてくる。議長はその威厳を見せつけるかのように背筋を伸ばすと、村人たちに指示を出した。


「【メッセージ】の魔法が使える者は、村に宴会の伝達を! 残った者は町に行って娼婦をかき集めてこい!」


「はい!」


 議長の声かけがよかったのか、それとも『黒百鬼の死神』の機嫌を損ねることが怖かったのかはわからないが、とにかく村人たちは数時間にしてすべての準備を整え終えた。村では宴会の準備を。議長たちは得物である棍棒と、身元が判明しない為のローブを持ってきている。


 しかし時間が経つのは速い物。急ピッチで進めたはずがもう日は落ち、辺りは暗くなりつつあった。


「宴会は?」


「既に始まっているようです。先ほど黒いコートを着た男と銀髪の少女が村に入った情報も受け取ったので、問題なく進行しているかと」


「そうか。それにしても、今までにない規模の宴会だと言うのに見ることができなくて残念だな」


 議長は村の一員として様々な村の宴会を見てきたが、どの宴会もとても楽しかった。特にこれと言って何かをしたわけではない。ただ、村の皆と飲み明かす。それだけで十分に楽しかったのだ。


 故に、宴会に参加できないのはつらい。


「仕方ありませんよ。俺たちには使命が残されているんですから」


「そうだな。それじゃあ、行くか」


 頭からすっぽりと黒いローブを被った議長たちは、夜の闇に溶け込むようにして店に向かう。現在、店には店長であるシュナイダーが一人で今日の収益の確認をしているだろう。そこを大人数で襲撃し、金を奪う。目撃者を殺してしまえば証拠は残らないだろうし、大丈夫だ。


 店の裏口に着くと、村人の一人が前に進み出て来て魔法を唱えた。扉に掛けられていた鍵がパキッ、と砕ける音がする。初級魔法【アンロック】。簡単な鍵を開けられる魔法だ。


「行くぞ」


 副議長を先頭、議長を殿にして真っ暗な店の中を移動する。議長は進みながら、手に持った棍棒を握りしめた。議長とて出来れば被害は減らしたい。どんなに非道な事をしていても、やはり人が傷つくのは見ていて気持ちのいい物ではないからだ。


 気配を消しながら、光の点いている方向へと移動する。先陣が部屋に入った瞬間、議長は前方を歩く村人の背中を棍棒でつついた。村人が一斉に部屋になだれ込んでいく。


「な、何だ⁉」


 驚いた声が聞こえる中、議長も部屋に飛び込む。するとそこには、棍棒で頭を殴られて額から血を流し、倒れているシュナイダーの姿があった。


「議長! 金、ありました!」


 金庫を棍棒で破壊した村人の一人が、金貨の束を持ち上げて見せてくる。議長は頷くと、村人たちに指示を出した。


「よし、金庫の金を奪って外に出ろ」


 村人が金貨を全て袋に詰め、持ちだしていく。シュナイダーはそれを見て僅かに身動ぎしたが抵抗しようとしているように見られたのか副議長に棍棒で殴られ気絶する。


「議長。コイツどうしますか?」


 副議長に聞かれ、議長は考える。相手は既に意識を失っているため抵抗は出来ない。ならば、殺す必要はないだろう。


「いや、大丈夫だ。そんな事より気が付かれる前に逃げるぞ」


 議長の指示で全員が外に出ていく。最後に部屋に残った議長は、頭から血を流して床に倒れているシュナイダーを見た。彼は自分の頭から出た血溜まりの中で白目を向いている。


「欲を出しすぎたな、店長」


 議長はそう吐き捨てると、店の外に出た。


 時間にして五分にも満たない強盗。


 しかし、盗まれた額は金貨600枚。日本円にして600万円も持っていかれた事になる。


 強盗は成功した。店は犯人について調べるだろうが、奴らは多くの人間から恨みを買った極悪人だ。容疑者候補が多すぎて特定できるはずもないだろう。無論、特定されない可能性は皆無とは言い切れないがほぼないと言っても他言ではない。事実上の完全犯罪だ。


 議長は頬が緩むのを感じながら、村に向かって歩き出す。



 


 

 











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