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エピローグ 魔族戦争 後編&神々の遊戯

 数年前。


「で、君は誰にするんだい? リンネ」


 隣の神にそう聞かれ、リンネは目を覚ました。


「ああ、ごめん寝てた。で、何の話だっけ?」


「寝てた? 大事な賭けの際に、随分と悠長な事だな。だから其方は最弱なのだろう?」


 第一位の言葉に、周りの神が笑う。リンネはそんな嘲笑に肩をすくめると、椅子に背中を預けた。


 リンネは神様。世界を構築する十二人の神の末席に位置する存在だ。現在彼女たちは、順位を決めるための大切な賭けを行っていた。


 それはーーー『異世界から人を呼び出し、力を与えてこの世界に放つ』と言う物。そして功績を上げた者を呼び出した神から順番に、順位の高い席に座っていく。


 要は大規模なギャンブルだ。これをリンネ達神群は百年単位で行っている。


 リンネは第一位の神を見る。現在の勝敗は、六百年連続であの神が第一位を陣取っている。対するリンネは、八百年続けてビリ。すなわち八連敗と言う事になる。


 順位が上がれば、扱える権限が強くなる。第一位になれば、ある程度の事は思いのままだろう。まあ、大して興味はないのだが。


「では、これより人間選びを始める。私は彼にしよう。会社をいくつも経営して、若い頃には空手の大会で幾度となく優勝した経歴を持っている。彼以上にふさわしい物はいないだろう」


 この賭けは大富豪よろしく、第一位から順番に選んでいく。必然的に、有能な人材は奪われる事になる。


 第一位から十一位までが指名を終え、いよいよリンネの番になる。


「それでリンネ、君は誰を選ぶんだい?」


「そうだなーーーーじゃあ、彼で」


 そう言って彼女が指し示した人間を見て、他の神が失笑を漏らす。


「おいおい、いくら君が面食いだからって彼を選ぶのか? 特出する事が何一つないじゃないか。もっといい人材が居たんじゃないか?」


「彼でいいよ」


 そう言ってリンネが微笑むと、他の神は「本人がそう言うのならいいだろう」と言い、納得した様子を見せた。


「それでは次に、付与する能力を決めてもらう」


 これは、自身の神としての力を分け与えると言う事だ。この力に上限は存在しない為、自分の持つ全力を注ぎ込む事も可能ではある。ただしあまりにも力を注ぎ過ぎると今度は自分の存在を保てなくなる可能性がある為注意が必要だ。


「私は『無限再生』と『勇者の血』、その他強力な力を付与しよう」


 案の定と言うべきか、第一位の神は自身のポジションを死守するためか相当強い力を付与してきた。


 他の神も、今回こそ一位を取る為に力を注ぎこんでいく。第六位に至っては自分の存在をギリギリまで削って力を注ぎこんでいた。


「リンネ。君はどうするんだい?」


 ついにリンネの番が回って来た。リンネはその質問に対してニッコリと笑う。


「答えは決まってるよ、何も上げない。ルール上はありだよね?」


 ・・・一瞬の静寂の後、隠す事のない嘲笑が彼女を襲った。


「何の力も付与せずに放り出すだと? ふざけてるのか?」


「ついにおかしくなったか? 愚かな事だな。君に選ばれた人間が可哀想だ」


 神々の嘲笑を、リンネはニコニコしながら一心に受け止めていた。やがて嘲笑が止むと、リンネは笑顔のまま言った。


「本当に愚かなのはどっちか、楽しみだね」


 リンネは再び、その青年のプロフィールを見る。確かに顔は好みだ。・・・だがそこは置いておいて、問題はその人格だ。


『正義感や人類を愛する心は微塵もない』


 彼女はそれが何を現すかを知っていた。そして彼には自分が力を付与するまでもないと言う事も悟っていた。


「彼は強いよ。この勝負、もらったね」














 静まり返った戦場に、一人の青年が佇んでいた。


 彼の周りには、人間、魔族問わず夥しい量の死体が転がっている。それらは全て、青年が殺害したものだ。ただし、青年も無傷では済まない。二メートルもあろうかという巨人『百鬼』を切り殺した際に浴びた黒い返り血で頭からつま先まで真っ黒に汚れており、左腕は肘から先を失っている。更に刀を握る手は、全身の張り裂けるような痛みに小刻みに震えていた。


「よう」


 不意に後ろから声を掛けられ、青年は振り返る。するとそこには左目から血を垂れ流し、左の腰を押さえている男が居た。


「生きてたのか。・・・ってか、その左目はどうした?」


「オーガと戦ってた時に抉られた。後、マダラスネイクに腰の肉を数キロ持っていかれたな。お前も酷い有様だな」


「ま、無理もねえさ。技術もなければ運もない、正真正銘命を捨てる覚悟ひとつで突っ込んだんだからな。生きてるほうが不思議なくらいだよ」


 近くに落ちていた自分の左腕を拾いながら、青年は嘆息する。服に隠れて見えないが、彼の全身には無数の傷が刻まれている。中には内臓に届いている物もいくつかあるだろう。


 お互い、生きている方が不思議なくらいなのだ。


「・・・戦争は、終わったのか?」


「一応はな。だが、向こうが引いてくれただけだ。魔族の繁殖能力は人類の数倍以上はある。数を揃えたら、また襲ってくるぞ。オレ達に勝ち目はない」


「ま、その頃には最近王都に来たとか言う勇者が何とかしてくれんだろ。俺は単に暴れたかっただけだからな」


 青年は遠くに見える、撤退中の魔族の軍勢を眺める。初めに見た時よりも遥かに数が減ってはいるが、それでもまだ五桁は下らないだろう。対してこちらの生き残った人数は、三桁も行かない。今から奴らが引き返しても、十分にこちらを皆殺しに出来る。

 青年は視線を外すと、無言で隣に立つ男に話しかけた。


「なあ、俺はこれから人類の国を見て回ろうと思ってる。今回の魔族戦争の一件で人類は互いを信じられなくなっていくつもの国に分裂した。だから、充分に見て回る価値がある」


 本来なら、こんな戦争が起こった今、団結しようとするのが普通であろう。だが、経済的な問題やら何やらを持ち出して、この期に及んで人類は愚かにも分裂を選んだ。まあ、そんな不完全な部分が人間らしいとも言えるのだが。


「まずは近くの町まで行って、この腕を治してもらう。それからは長旅だ。いくつもの国を回って、覚悟のある奴に会いに行く。何かを守るために命捨てて突っ込めるような、そんな奴らに」


 青年はそこで、血にまみれた右手を差し出した。


「その旅に、お前も来ないか? 俺はお前と旅をしてみたい」


 青年の言葉に、しかし男は首を振った。


「悪いが、それは出来ないな。ここから北に行った場所に一戦やりあいたい奴が居る。オレはそいつと戦う予定がある」


「そうか。なら仕方ねえな」


 青年が残念そうに、手を引っ込めようとする。だがその手を止めるかのように、男が掴んだ。やや赤く染まった歯を見せ、ニカッと笑う。


「だが、もしそこで生き残れは後は自由だ。お前の旅に同行してもいいぜ」


「そうか。なら、必ず生き残ってくれよ」


 青年が手を握る手に力を込める。すると、更に強い力で握り返された。


「お前こそ、オレが入るまで死ぬんじゃねえぞ。侍のなり損ね」


「お前こそ死ぬなよ、隻眼野郎」




 

次回更新はいつになるか分かりません。

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