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勇者と勘違いした男編②

 ある日の事、子供たちがオレの元へ訪ねてきた。その目は、期待で満ちている。


「ねえ智嗣様、今日はどんな遊びを教えてくれるの?」


 子供たちが、オレに聞いてくる。だがオレにはもう、教えられる遊びはない。しりとりに縄跳び、メンコ……教えられる遊びは全部教えてしまった。後教えられるとすればサッカーなどの球技だが、充分な場所を取ることが出来ない。


「あー、ごめん。今日は教えられるものがないんだ」


 オレが謝ると、子供たちは残念そうな顔をした。だがすぐに明るい顔に戻ると、笑顔で言った。


「ううん、大丈夫。それよりも、いつも新しい遊びを教えてくれてありがとう智嗣様。おい、皆で久しぶりにコマやろうぜ!」


 一番体格の大きな男の子が指示を出し、皆がそれに続く。オレがそんな活発な彼らを微笑まし気に見ていると、ヘルムさんが近づいてきた。


「微笑ましいですな、子供たちは」


「そうですね。ヘルムさんも、何だか元気そうですね」


「それはそうですよ。何せ勇者様が新しい物を次々に提示して下さるおかげで、最近は大繁盛ですから。それもこれも勇者様のおかげです、ありがとうございました」


 ヘルムさんはそう言って、オレに頭を下げる。オレは苦笑しながら礼はいいですよと断り、広場を後にした。



 その日の夜。

 ミステリアが、オレの部屋に訪ねてきた。


「やっほー。遊びに来たの」


 ミステリアは椅子に座っているオレに後ろからハグすると、オレの手に何かを握らせた。それは何やら宝石のようだった。天井からの光を受けて、エメラルドに輝いている。


「ミステリア、これは?」


「何でも勇者の適正を図るものだって。お父様が、勇者様に計らせろって言ってきたの。これを握ると勇者としての総合の実力が表示されるんだって」


「へえ、そうなのか」


 勇者としての適正か。ちょっと気になるな。オレは手の中の宝石を握りこむ。すると、宝石が眩く輝いた。


「うわっ!」


 オレは思わず、宝石を手放してしまう。ミステリアはそれを素早く拾い上げると、ボソリと呟いた。その表情が険しくなる。


「・・・・・・」


「どうだった?」


「え、あ、うん。なかなかいいみたいなの。これなら、魔族討伐も余裕なの」


 オレが聞くと、ミステリアは慌てて顔を上げて笑顔を作った。そして、逃げるようにそそくさと出て行ってしまう。


「どうしたんだろう、ミステリアの奴」


 考えてみるが、さっぱり分からない。ふーむ。女心って難しいな。

 まあいいや。オレは眠ることにした。



 翌日。

 扉がノックされ、泡を食った様子でミステリアのお父さん、すなわち国の王様が部屋に入ってきた。


「智嗣君」


「王様。どうなさいました? こんな早くから」


 オレが聞くと、王様は息を整えながら言った。


「実は衛兵から報告があって、人類と魔族を繋ぐ橋がついに復活したらしいんだ。魔族の国に行き、魔物達を倒してくれるかい?」


 ついに来たか。オレは立ち上がると、力強く言った。


「はい!」


「君ならそう言ってくれると思ってたよ! さあ、人類の誇りとして魔物を倒してきてくれ!」


 王様はオレの手を力強く握った。

 朝食を取った後、準備を整えオレは出発する事になった。本来なら盛大なセレモニーが行われるはずだったのだが、『黒百鬼の死神』がどこで狙っているか分からないと言う事で、極秘裏に出発することになった。


「では、勇者様に敬礼!」


 兵隊長の言葉と共に、兵士たちが一斉にオレに敬礼する。皆、オレの剣術の訓練に付き合ってくれた人達だ。


「みんなありがとう。じゃあ、行ってきます」


 オレが行こうとしたとき、ミステリアが扉を開けて出てきた。ミステリアはオレの姿を見ると、走って抱き着いてきた。


「智嗣様、行っちゃ嫌なの!」


 ミステリアに抱き着かれ、オレは戸惑う。ミステリアが顔を上げる。その目には、大量の涙が浮かんでいた。


「もし魔物の国に行って、智嗣様に何かあったらアタシ嫌なの! 智嗣様が死んだらアタシも死ぬ!」


 ドラマのワンシーンのようなセリフを言い、ミステリアがオレを抱きしめる腕に力を込める。オレの腹に頭を押し付けていった。


「ねえ智嗣様、ここでアタシとずっと過ごそ? そうすればずっと、ずっと楽しい日々だよ?」


 潤んだ目が、オレを見上げる。オレはミステリアとの生活を思い出して一瞬揺らぎかけたが、すぐさま首を振ってそれを否定した。


「いや、駄目だよ。オレにはしなくちゃいけない事がある。だから、ここでミステリアと過ごす事は出来ない」


「智嗣様…」


「もしオレが無事に帰って来られたら…それもありかもしれないね。でも、オレには勇者としての使命があるんだ」


 オレはミステリアをやんわりとほどくと、王宮から外に出る門に手を掛けた。その時、王様から呼び止められた。


「おお、そうだ智嗣君。ちょっと待ってくれないかい?」


「はい、何でしょう?」


 オレが振り返ると、王様はどこからか瓢箪を取り出した。


「これは王家から代々伝わる特殊な飲み物でね。飲むと勇者が持つと言われる聖なる力が上がるんだ。旅に出る前に飲んでおきたまえ」


「あ、はい。ありがとうございます」


 オレは瓢箪を受け取ると、口を付けてグビグビと飲んだ。ジンジャーエールに近い味わいだ。オレは全て飲み干すと、王様に瓢箪を返した。


「それじゃあ、今度こそ行ってきます」


「うむ。それでは頼んだぞ」


 最後にもう一度王様と硬い握手を交わし、オレは外に出ようと扉に向かった。オレが通る時、兵長が叫ぶ。


「全員、合唱!」


 その言葉と同時、兵隊たちが叫びだす。


「我らが勇者、万歳! 我らが勇者、万歳!」


 はは、凄い熱気だな。オレは思わず足を止めてしまった。


「我らが勇者、万歳! 我らが勇者、万歳!」


 凄い。皆がオレ一人の為に、声を張り上げて叫んでくれている。


「我らが勇者ーーーー」


 あれ? 

 唐突にめまいがして、オレはフラっと崩れる。何だかおかしい。意識がーーーー

 そこで、オレの意識は途切れた。






「う、うん…」


 妙に涼しい環境に、オレは目を覚ました。

 見ると、そこは広い大空ではなく暗い地下牢だった。鉄格子は、すぐ近くに見える。


「一体、何がーーーー」


 確か、オレは王様からもらった瓢箪の中の飲み物を飲んだすぐ後に、意識を失ったんだ。あの飲み物の中に何か入っていたのだろうか。


「とにかく、何が起こったのか確認しないとーーーー」


 状況を把握しようとして、オレは手足が動かない事に気が付く。首を回して見てみると、なんと手足が鎖に繋がれていた。鎖は壁にめり込んでいて、そう簡単には外れないようになっている。


「何で、オレは拘束されてーーー」


「目覚めたか。智嗣君」


 その時、鉄格子が開いて誰かが入ってきた。見ると、王様が冷たい目をしながらこちらに来ていた。


「王、様…一体、何が…」


「素直にミステリアの誘いに乗って、この国に留まれば良かった物を。無謀にも国の外に出ようとするから」


「え、それは、どういうーーーー」


 どういう意味だ? そもそも、どうして王様がオレに一服盛って、拘束するような真似をするんだ?

 疑問に思っているオレの目の前で、王様は冷たい目で言う。


「ヘルム君からいろいろ話は聞いたよ。何でも、次々に新しい物を作って提供してくれたんだとか。おかげで我が国の商業は発展したよ。君には本当に感謝している」


「な、にを…」


「実を言うとね、ヘルム君は国が雇っている商人なんだよ。だから君がこれまで彼に提供してきた物はすべて、国の名目で売り出していたんだ。おかげで国の利益は潤沢に、ヘルム君も情報量でたんまり稼いでWINWINだ」


「な、そんな、著作権はオレにあるんですよ⁉」


 オレは怒鳴った。そうだ、確か物を作った人には著作権と言う物があってーーー


「なんだ、それは?」


 だが、オレの叫びは王様の一言によって一蹴された。


「そんな言葉、聞いた事もないな。君の元居た世界ではどうだったか知らないが、この国に居る以上はこの国の法律で動いてもらう。当然だろう?」


「そ、そんな・・・」


 絶句するオレに、王様は続ける。


「ああ、それとね。隣の町にも勇者が現れたみたいだ。彼の適正は5。4の君より、全てのスペックが高い。だったら強い彼を送り出した方がいいだろう?」


 王様がそう言って、オレに宝石を見せてくる。あれは確か、ミステリアがオレに握らせてきた宝石だ。オレはどうやら、適正で隣の国の勇者に負けたらしい。


「君は戦闘には役に立たないが、知識は豊富にあったからね。ミステリアと末永く国子飼いの商人でもやってくれれば国の大きな発展に繋がると思ったのに、君はそれを拒んだ。かと言って本当の事を言うわけにもいかないし、我々では君に勝てない。だからこうして拘束させてもらったよ。力を抑えてね」


「なッ…」


 オレは両腕に力を込めるが、力が入らない。どうやら、睡眠薬の他にも何かを盛られていたらしかった。


「残念だったね、智嗣君、せっかく君がこの国に留まるよう、ミステリアが色仕掛けをしたというのにそれも無視。君の価値はないんだよ。とはいえ、勇者を殺せば国家の名に傷が付く。だから、この冷たい牢獄で静かに生き続けてくれ」


 王様は言うだけ言うと、鉄格子を閉じて出て行ってしまった。残されたオレは、しばらく呆然としていた。


「嘘、だろ…」


 残されたオレは、一人呟いた。


「嘘、だろ・・・」


 まさか、あのミステリアが、ミステリアがオレにして来たスキンシップが全部、オレを篭絡する為の色仕掛けだったなんてーーー


「そんな、嫌だ、嘘だ・・・」


 ヘルムさんも、ミステリアも、王様も、何もかも。












 全部、嘘だったと言うのか。








「嘘だぁぁぁぁ!」


 誰かこれを嘘だと言ってくれ。今にそこからミステリアか王様でも現れて、『ドッキリ大成功』の看板を掲げて出てくるはずだ。

 しかしオレの叫びは、冷たい牢獄の壁をこだまするのみで、誰からも返答は返って来なかった。


「そん、な…」


 『勇者』という心の支えが、ボロボロと崩れていくのが分かる。オレは半狂乱になって、わめき散らした。


「誰か助けて! 誰でもいい、助けてくれ! お願いだ、助けて! うわぁぁぁぁぁぁ!」


 しかし、誰も助けには来なかった。






 狂ったようにわめき散らす智嗣の声を、青年と少女は聞いていた。青年は牢獄の壁に身を預けており、少女は呑気に読書をしている。彼女がその手に持っているのは数日前に智嗣が読んでいて、ミステリアに恐怖の目を向けられた本だった。


「…この国、昔から頭のいい人を飼い殺しにして、国家に忠実な奴隷にしてるみたい」


「成る程な。自分達の知識では、他国と対等に渡り合う事は出来ない。だから、どこかから呼び寄せた賢い奴をこの国に留めておくことで国家の向上を計るわけか。馬鹿なのを自覚してないと放てない、なかなかの技だ」


 青年は楽しそうに笑う。牢獄からは「助けて…助けて」というすすり泣きのような声が聞こえるが、そちらには意識を割かない。


「・・・ねえ」


「ん? どうした?」


「…あの人、何が悪かったの? 皆を助けようとして、でも裏切られて。あの人は別に、自分の力に自惚れていた訳でもないのにーーー」


「何でだろうな。俺にもよく分からんがーーー誰も彼もが善人だと思ってたからだろうな」


「・・・善人?」


 少女が首を傾げる。


「そう、善人だ。自分に優しくしてくる奴が、賞賛してくれる奴が必ずしも味方とは限らない。もっと疑って掛かるべきだったんじゃねぇか? まぁ、疑いすぎてろくに仲間も作らない俺が言っても説得力がないけど」


「…貴方の仲間は私で充分。他の女には渡さない」


「まあそんな戯れ言は置いといて、だ。アイツも結構頑張ったんじゃねえか? ま、偉大なる先人が作った技術を自分の物と称して著作権云々を叫ぶのは物凄く気持ちが悪かったがーーーでも、頑張った方じゃね?」


 戯れ言、と言う言葉に対して不機嫌そうな顔をした少女が、青年に聞く。


「…じゃあ、助ける?」


「助けるわけねぇだろ。でも、もしもアイツが覚悟を持って死に物狂いでここから、いや国から脱出できたら手を貸してやるよ。覚悟のない奴を助ける気にはなれんが、覚悟のある奴なら手を貸すくらいの事はしてやる」


 青年は壁から起き上がると、牢獄を一瞥した。

この先も『なろう系主人公』は出てきます。

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