勇者と勘違いした男編①
初の『なろう系主人公』登場回です。しかし短いです。
オレは長野智嗣。職業は勇者だ。
ある日突然異世界へ召喚されて、気が付いたら周りに崇められていた。
どうやら、オレには勇者の素質があるらしい。
王様からのお願いで、オレは国の倉庫に眠っていた聖剣を手に魔族の国に行き、敵をなぎ倒してくるーーーーはずだった。
なぜ『はずだった』かと言うと、人類の国から魔族の国へと繋がる橋が、何者かによって壊されてしまったせいだ。そのせいでオレは橋が治るまでの間足止めを食らい、自分を召喚した国で悠々自適とした暮らしを送っていた。
時間があればこの国について勉強し、勇者としての力を鍛え、いつ冒険に出てもいいように準備をしていた。
そんなある日、オレは秘書と一緒に町に繰り出していた。
「『黒百鬼の死神』? 何だそれ?」
「かつて人類と魔族が争った大戦争『魔族戦争』において、数多の魔族を屠り戦争を終わらせた英雄です。ですがそのすぐ後に三つの国を立て続けに滅ぼしたせいで英雄から一転、歴史に名が残るほどの大罪人となりました」
「そんな奴が、この国に入ったと?」
オレが聞くと、秘書は頷いた。
「ええ。つい数日前に番兵から報告が。見張りの少ない場所を選んで侵入したようで、現在も行方が掴めていないとの事です」
オレは表情を険しくする。そんな奴がいつまでも潜伏していたら、人々の安全が脅かされてしまう。早急に捕まえなければ。
「オレも探すのを手伝うよ。オレとそいつはどっちが強いんだ?」
「もちろん勇者様です。あんな奴、勇者様の手に掛かれば恐るるに足りません」
オレの問いかけに、秘書はすぐに答える。よし、この人からお墨付きも貰った事だし、見つけたら必ずこの手で捕まえてやる。
「ところで、今日の町は何だか少し暗い雰囲気だな。何かあったのか?」
「さあ・・・私には分かりかねます」
秘書は首を傾げる。オレの言葉通り、今日の町は何だか少し活気がなかった。いつもなら人々が笑顔で闊歩するような日の当たる通路は陰鬱な空気に満ち、オレ達を暗いムードで迎えていた。
「何があったんだろうな・・・」
オレは、近くにいた商人に聞いてみる事にした。いつもオレを『国を救う英雄だ』とかなんとか言って、商品の値段をまけてくれる商人だ。
「どうしたんですか、ヘルムさん」
「えっ? ああ、勇者様でしたか」
ヘルムさんはオレを見ると、疲れた笑顔を見せた。
「実はここの所、商品があまり売れなくて。同じ商品ばかりなので、皆が買えば終わりなんです。何か新しいアイデアがない物かと考えているのですがーーーーなかなか思いつかなくて」
「そうなんですか。ちなみに、今はどんな物を?」
こういうアイデアに関しては、オレの方が有利だ。何せここよりも遥かに文明が発展した世界に居たのだ、この手のアイデアはお手の物だ。
「実は最近のおもちゃについて考えてまして」
何だ、そんな物か。オレはつい笑ってしまった。
「それか。それなら、これとかはどうだ?」
オレは即興で作った物を提示した。それは紙で作ったコマだ。ヘルムさんはそれを見ると目を丸くした。
「勇者様、それは?」
「これはコマって言ってな。こうやって使うんだ」
オレは紙で作ったコマを地面に置き、回してみる。即興で作ったとはいえ、立派な形をしたコマだ。コマは少しの間クルクルと回った。
「ほら、面白いだろ?」
「す、凄い・・・」
オレがコマを見せていると、子供たちがやって来た。
「勇者様、僕達にも教えて!」
「ああ、いいよ」
オレはにこやかに笑って、子供たちにコマの作り方を教えた。子供たちはコマの作り方を覚えると、すぐに友達と対戦し始める。微笑ましいな。
オレが喜ぶ子供たちをにこやかに見守っていると、人混みの中から声が聞こえてきた。
「ならさ、魔族の国にある『ディスガイアの塔』はどうなんだよ。あれって確かずっと空に浮いてるんだよな。と言う事は、半永久的に魔力を生成してそれを反重力生成に当ててるって事だろ? その仕組みを利用すれば、永久機関も作れるんじゃないか?」
「・・・無理。『ディスガイアの塔』は、内部に巨大な魔力増幅回路を組み込んでるだけで、実際には外部の魔力を取り込んでる。だから貴方の言うその理論は不可能」
「そうか。魔法のある世界なら永久機関の作成も可能だと思ったんだがな。じゃあ、枯渇した魔力をーーー」
何やら、難しい話をしている。永久機関? 聞いた事あるようなないような。オレは声のする方を向いた。すると、オレと同じ黒髪の青年と、銀髪の美少女が居た。
「可愛いな・・・」
つい、口から呟きが漏れてしまう。だが、肝心の彼女は無表情だ。あれで笑えば可愛いのに。その時、オレは服の袖を引っ張られた。
「ねえねえ智嗣お兄ちゃん。上手くできないよぉ」
子供の一人が、コマに糸を回すのに手こずっているようだ。オレは笑みを浮かべると、子供を手伝うために腰を屈めた。
「流石です勇者様。まさか、遊びの知識も持っていらしたとは」
「まあな。でも良かったよ、皆が笑顔になって」
「そうですね。町にも活気が戻りました」
そう言って、秘書は笑った。美しい笑顔だ。自然とオレの頬も緩む。
「こんな皆の笑顔を、オレも守っていかなくちゃな・・・」
「そうですね。人々の笑顔を絶やさぬ為にも、頑張ってください勇者様」
「それにしても、同じ人類でありながら人々の笑顔を絶やそうとするなんて・・・『黒百鬼の死神』は本当に許せないな」
魔物ならまだしも、どうして同じ人間同士で争わないといけないんだ。
知らず知らずの内に、オレの手に力が入る。そんなオレの手の上に、秘書がそっと手を乗せた。
「大丈夫です。この国の警備は厳重ですし、そうそう奴が一般人に危害を加える事は出来ません。勇者様は心配する事無く、魔族討伐の準備を整えてください」
「ああ、分かってる」
そうだ。オレは早く世界中から魔物を一掃して、平和な世界を作るんだ。
オレは自分のすべき事を再認識し、グッと拳を握った。
その日の夜。オレが机で本を読んでいると、唐突に扉を開けて女の子が入ってきた。
「さーとーしーさーまー!」
「どうした、ミステリア」
オレは入ってきた女の子に聞く。金髪を腰まで伸ばした、天真爛漫な女の子だ。この国のお姫様らしいが、オレからすればとてもそうには見えない。
「今日は何を読んでいるの? アタシにも見せて?」
「大した本じゃないよ。この国の古い歴史書さ。字の勉強も兼ねて読んでいるんだ」
オレは、地下の書庫から持ってきた本をミステリアに見せた。まだこの国の文字は勉強中であるためあちこち読めない所があるが、半分くらいは読めるようになった。
「この国、昔からあるみたいだね。それもいい国らしい。・・・ってミステリア、どうしたの?」
ミステリアは、顔を真っ青にしていた。その目は焦点を結んでおらず、ちょっと怖い。
「ミステリア?」
オレが聞くと、ミステリアはハッと我に返った。
「な、何でもないの。それより智嗣様、アタシとイチャイチャしよ?」
そう言うと言うが早いか、ミステリアはオレに抱き着いてきた。オレはミステリアの体重に押され、ベッドに倒される。ベッドに仰向けに倒されたオレの上に、ミステリアが覆いかぶさってくる。
「にゃははははは!」
「うわっ⁉ ちょっ、ミステリア!}
ミステリアはオレの首に手を回し、抱き着く姿勢になっていた。オレは動揺するが、ミステリアは笑ったまま離してくれない。やがて彼女の笑い声が止んだ。ようやく解放されるか、とオレが息を吐いたその時、
「ねえ・・・このままエッチな事、しよ?」
ミステリアがオレの耳元で、そっと囁いてきた。オレはミステリアの顔を見る。するとミステリアは顔を真っ赤にして、潤んだ瞳でオレを見つめていた。
「ミステリア・・・」
「智嗣様。アタシもう、我慢が出来ないの・・・」
ミステリアが、オレの唇に顔を近づけてくる。キスをするつもりなのだろうか。
しかしその唇が触れそうになった瞬間、オレはミステリアの体を大きく引き剥がした。
「・・・ミステリア」
オレは、出来るだけ優しく言えるように努めながらミステリアに言った。
「前にも言ったと思うけど、そういう事は結婚した相手とじゃないと駄目だ。何か起きてからではもう遅い」
「智嗣様・・・」
「分かってくれ。オレは、君の為を思って言ってるんだ。君を大切だと思ってるから、オレはこんな事を言うんだ」
オレはベッドから体を起こし、ミステリアの両肩を掴む。身体が熱い。ミステリアの頬も、赤くなっていた。
「だから、その・・・今はまだ駄目だ。分かってくれ、ミステリア」
「・・・分かりました」
ミステリアはオレの手をやんわりとほどくと、ベッドから降りた。そして、ペコリと頭を下げる。
「今宵はお気分を悪くしてしまい、申し訳ありませんでした。では智嗣様、どうぞゆっくりお休みください。それでは」
そこまで言うと、ミステリアは部屋から去ってしまう。残されたオレは、何も言う事が出来なかった。
翌日。
午前中の演習を終え、オレは町へ繰り出していた。今日は秘書もついておらず、完全に一人だ。
「お、やってるやってる」
路地のあちこちでは、オレが昨日教えたコマが大流行している。子供たちは皆手にコマを取り、互いにぶつけ合っていた。
その時、昨日の二人の声がどこからか聞こえてきた。
「しっかし、この国の賢者とやらは使えねえな。永久機関の理論を知らないならまだしも、上級魔法すら知らないんだからな。馬鹿にも程があるだろ。一体、どうやって今まで生き延びて来たんだ?」
「・・・上級魔法は、結構簡単」
オレは後ろを振り返る。そこには、昨日の青年と少女が居た。まだ昨日の永久機関とかいう物について話し合っているらしい。
「やっぱり魔力増幅回路の仕組みを解析する必要があるな。そうすれば永久機関は作れなくても、それに限りなく近い物なら作れるかもしれないからな。なあ、お前の持ってるお守りに確か魔力増幅回路が組み込まれてたよな? ちょっと見せてくれ」
「いいけど・・・ただでは嫌。してくれるなら・・・考える」
青年の顔が、遠目から見ても分かるくらいに引き攣った。
「えー・・・いやちょっとそれは・・・だってお前その、あれじゃん?」
「・・・嫌ならいい」
「ああ、分かったよ! 考える時間をくれ」
青年が諦めたように言い、少女は無表情ながらどこか満足げな顔をした。それと同時にオレが見ている事に気が付いたのか、少女がこちらに目を向けてくる。
「・・・・・・」
無機質で透明な瞳が、オレを見つめる。オレは目を逸らす事も出来ず、少女の目に吸い込まれるように覗き込んでいた。
「・・・」
やがて、少女は飽きたのかオレから視線を外し、青年の腕にしがみついた。オレは、その場に崩れ落ちる。オレの視線の先では、腕にしがみついた少女が幸せそうに青年に寄り添って歩いていた。青年はそれに対して、歩きづらいとか非合理的だとか散々のたまっている。
「おや、ここに居られましたか勇者様。そろそろ魔法の授業の時間がーーーどうしなさいましたか?」
「いや、何ていうか新鮮だなと思ってさ」
勇者としての使命があるオレには、彼らのような自由な会話は出来ない。オレは青年と少女をどこかうらやましいなと思いながら、秘書につられて王宮に戻った。
それからも、オレは毎日のように自由時間を縫って町に出た。とはいえ、別にこれと言って用があったわけではない。ただ、町に住む人々の笑顔が見たかっただけだ。
オレが来ると、子供たちは皆新しい遊びをねだった。ヘルムさんにも新しい商品を提示して、町はどんどん賑わいを見せていった。
「ねえねえ、今日はどんな遊びを教えてくれるの?」
毎日のように子供達が嬉しそうにねだってくるのが、オレには嬉しかった。だが、新しい遊びを教え続けていればネタが尽きる。少しずつ、オレの教える遊びは尽きていった。
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