孤児殺害編⑦
感想が欲しい今日この頃です。
血に染まった黒いコートを羽織り、顔に血を付着させた青年が建物から出てくると、銀髪の少女と黒服を来た男たちがトコトコと近づいてきた。黒服の男が、青年に近づいて聞く。
「首尾は?」
「悪いな。激しく抵抗するからうっかり殺しちまった。まあ、お前らも『回復術師』っていう間違った情報を俺に伝えてたからこれでお相子だけどな。何が回復術師だよ、攻撃魔法も使うじゃねぇか。おかげでこっちは死にかけた訳だが?」
青年は血の付いた顔をグイッ、と黒服の男に近づける。黒服の男の眉が僅かに動くのを読み取り、ニヤリと笑った。
「その点については悪いと思っている。しかし、殺したという事は遺体はあるのかな?」
「多分ないだろ。あの女に付いていた奴が異常なまでに女に執着しててな。女の死体もそいつが持って行ってると思うぞ。死姦でもしたいのかね。ま、『死者から魔力を抜き出そう』とか考えてるお前らと大して変わらんか。ククククク」
青年は薄気味悪く笑う。黒服の男はそんな彼を奇妙な物を見るような目で見ると、彼に命じた。
「『黒百鬼の死神』。女の死体を回収しろ。これは命令だ」
「馬鹿言ってんじゃねぇよ。『回復術師、サラを捕獲して国王の元に連れて来い。最悪殺しても構わない。他国に奪われるような事だけは絶対にするな』。これが依頼の全貌だ。他国に奪われてねぇんだから、これで納得しておけよ」
「ふざけるな。ここまで来て引き下がれると思ってるのか? いいから彼女の体を回収して来い。死体でもまだ役には立つ」
黒服の男が一歩詰め寄る。しかし青年は聞いていない。
「クク、それにしても『死者から魔力を引き出す』か。死体から使える物を引っ張り出すとは随分とまあリサイクル精神旺盛じゃねぇか。気に入ったよ。けどなーーーー」
直後、空気中を冷たい物が支配した。それが少女の身体から放出される殺意だと気が付いた時、黒服の男たちの身体を緊張が包み込む。青年以上の殺意だ。
「うちのヤンデレお姫様は少々気性が荒いんでな。これ以上俺が命令されてるのを見て、不機嫌になるんじゃねえかな」
青年が言うが、それどころではない。一歩でも動こうものなら、殺される。血液すら凍らせるかのような冷徹な殺意が物語る緊迫した空間に、黒服の男が諦めたように口を開いた。
「わ、分かった。君たちを解放する。こ、これが例の報酬だ。受け取ってさっさと出て行ってくれ」
その言葉と同時、辺りの気温が数度上がったように錯覚した。黒服の男はいそいそと懐から金貨が大量に入った袋を出すと、青年に押し付けた。青年はいたずらが成功した子供の様に無邪気に笑う。
「毎度。じゃあ行こうぜ」
「・・・ん」
青年が踵を返すと、少女がそれについていく。そんな二人の後ろ姿を見ながら、黒服の男は怯えの混じる声で呟いた。
「何なんだよ、アイツら…」
懐に入れた拳銃を握る手が震える。男は自分の勘違いに思わず震える。
今まで男は、青年が少女を従えている物だと思っていた。何せ彼は敗北必至とまでされていた『魔族戦争』を引き分けにまで持ち込んだ化け物だ。故に少女も、青年の実力に付き従っている物だと思い込んでいた。
しかし、先程の少女の放つ殺気を浴びて確信した。
ーーーアイツは、恐ろしく強い。
あれは間違いなく、『黒百鬼の死神』を凌駕する存在だ。そんな怪物が二人、徒党を組んで旅を続けている。
畏怖を込めた目で再度二人を見た黒服の男はーーー目を剥いた。
一瞬ーーー本当に一瞬だが、青年の姿が、全く別人のとある男に見えた。
「キョウ……」
男の言葉に、周囲の男たちがざわめく。
「キョウだと⁉ あの『恐怖部隊』の!」
「まさか! アイツは死んだはずだろう! それとも『黒百鬼の死神』があの災厄の男だとでも言うのか⁉」
「い、いや、見間違いだ」
男は訂正し、額の汗を拭う。そうしている内にも、『黒百鬼の死神』の後ろ姿は去りつつあった。
「何なんだよ、本当に」
男はもう一度呟いた。
しばらくの間、青年と少女は無言で歩いていた。
やがて、少女が先に口を開く。
「・・・ねえ」
「ん? どうした?」
「・・・どうして助けたの?」
少女の無機質な瞳が、青年の目を見る。青年はそれに肩をすくめた。
「別に助けた訳じゃねえさ。ただ、あのジレンとが言うのが死に物狂いで突っ込むから、勝ち目がないと悟ってな。おめおめと逃げ帰ってきた訳だがーーー」
「・・・嘘。貴方は死ぬことを恐れない」
「ハハ、ばれたか」
青年は嘘がばれたというのに晴れやかに笑うと、楽しそうに話し始めた。
「殺す必要が無くなったからだよ。サラは声帯の一部を切り裂かれたせいで、声を出せない。そして声を出せないって事は、呪文の詠唱が出来ないって事だ。魔法が使えないアイツにもう価値はねえだろ。それに、何かあったらジレンが守るだろうしな」
そう、青年はサラの喉に軽くナイフを走らせたにすぎない。
「・・・でも、呪文以外にも魔法を使う方法はある」
少女の言葉に、青年は頷く。彼女の言う通りだ。呪文とはあくまでも、『最も効率的に魔法を発動する』ための物であり、威力や精度が下がる事を承知の上なら特殊な踊りや、道具を使った儀式で同じ魔法を使うことが出来る。
「それは分かってるさ。だが、サラの背景を考えてみろ。こっちに来た時から莫大な量の魔法と高度な授業を行ってきたんだ。そんな本来するべきである努力をすっ飛ばしてきた奴が、七面倒くさくて非効率的な踊りや儀式なんざ習ったことがあると思うか?」
サラは膨大な魔力を持っているが、声を出せない為魔法を使えない。そして彼女は踊りや儀式の方法を知らない。すなわち、彼女は一時的とはいえ魔法を封じられたと言う事になる。
あ、と口を開ける少女に、青年は楽しそうな笑みを浮かべた。
「最初からチート持ちな奴は、その力を失ったときに脆くなる。だから比較的御しやすいんだよ。怖いのは才能なんかに頼らず、何度負けてもーーーー泥を啜ってでも勝ちを拾いにくる執念深い奴だ」
青年はクク、と狂った笑い声を上げる。土壇場で大切な人を守るため、死に物狂いで特攻した、ジレン。彼のように命を捨てる覚悟を持った人間が居れば、サラはそうそう狙われることはないだろう。
「・・・また、人を助けた」
「気のせいだろ。俺はあの人じゃねえんだ。人助けなんかする訳ないだろ。
さあ、行こうか。次の町へ」
「・・・うん」
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