みんなの勇者
あなたは、ロールプレイングゲームをしたことはありますか?
ロールプレイングゲーム、略称RPGは、各自に割り当てられたキャラクターを操作し、お互いに協力しあい、時には裏切られたりしながらも、与えられた試練を乗り越え、目的の達成を目指すやりこみゲームである。ゲームが好きな人なら、誰しも一度は経験したことがあるのではないだろうか。
したことがない人に教えておくが、基本的には主人公が色々なことに巻き込まれながら、悪を滅ぼして世界を救うまでが、目的のものが大多数を占める。そして、だいたいといってよい程、主人公は素質はあるにせよ基本的に物語の開始時は弱い。だからこそ、あなたはその主人公や仲間たちを育てながら、目的を達成するために長き旅を共にするのだ。
では、あなたはゲームをクリアした後、どんな気持ちになりますか?
ある人は、ストーリーに感動したり、やりきったと達成感を感じるかもしれません。
ある人は、ストーリーや魔王の強さに物足りなさを感じたかもしれません。
その気持ちは十人十色です。
では、主人公、勇者に対してはどう思いますか?
自分も勇者のように壮大な冒険をしてみたい。
かっこいい装備を揃えて戦いたい。
魔法を使ってみたい。
頼もしい仲間たちと旅がしたい。
お金もたくさんあって、経験値も豊富で羨ましい。
世界中旅して、いろんな出会いと別れを経験したい。
可愛いヒロインと日夜を共にしたい。
伝説の生き物たちと触れ合ってみたい。
魔王から世界を救った救世主として、みんなから慕われたい。
こんな感じですかね。
子どもの頃、そんな勇者をみんなは羨ましがったでしょう。一度は勇者みたいになって、世界を救いたいと思った人はたくさんいたと思います。
そんな、前歴勇者の俺だって、若い頃はそうだった。
そんな将来像を描いて、旅をしてきた。
強くなるために毎日筋トレしたり、経験値やお金を稼げる場所で鍛錬したり、伝説の剣を探したり、時に古のドラゴンを説得したりもしたさ。
14歳で世界の未来を託された俺には、頑張るしかなかった。選ばれし者の力が備わってたから戦うことが当然だって思っていた。嫌な気持ちになんか一度もならなかったし、仲間とも巡り会えて楽しい思いもたくさんした。
そして、ようやく世界の混迷の元凶である魔王を倒した。
黒雲が覆っていた大地に光が差し、緑あふれる平和な世界となった。
俺は、みんなから救世主と称えられ、国王からも表彰をされた。
そう、俺は勇者として世界を救う役目を終えたのだ。
ーーここまでが、あなたたちが知っている世界だろ?ーー
それから二年間、俺は仲間達と城の守護と魔王の残党狩りをしながら生活を送った。
しかし、その頃からゲームをプレイするあなたと会うことはなくなった。
あれほど長い間、共に旅をしてきたのに。
そう、RPGは目的を達成すると、そのほとんどは起動してもらえなくなるのだ。
そして、新しい旅をあなたたちは始める。
俺らのその後は、語られないことが多く、時代の流れに捨て去られる。
今俺が住んでるのは、とある町の路地裏に入口がある六畳間のボロいアパートだ。
横になるだけでギシギシ音を立てるベッドに、ところどころ破けたシーツを敷いて俺は横になっている。勇者がなんでそんなことになってるのか?
それはこれからゆっくりと話すとしよう。
これは、勇者が役目を終えた後の話。
そして、そんな俺の未来の話。