真実
目覚めたら暖かい布団に包まれていた。
顔に当たる外気が冷たい、ベッドから出ると間違いなく寒い。出たくないけど…出なきゃ!
動こうとすると、布団に羽交い絞めにされた。
「ああ、布団も出るなと言ってるのね」二度寝を決め込もうとして我に返る。
「そんななわけない!」全身で抵抗して振り返ると、目の前にアレクの顔があった。
「アレク、あなたどうしてここにいるの?魔王は?死んだって…」
「うるせーな。俺は眠いんだ。枕は黙ってじっとしてろ」と更に羽交い絞めにされ…
「ふざけんなーーーー」と飛び起きた。
玄関をノックする音がするので慌てて出る。
レイラさんのお母さんと男の人が立っていた。
お母さんがつかつかと家の中に入ってきて、寝ぼけているアレクと混乱を隠せない私を見てため息をついた。
「ルーシェちゃん、今日はうちに泊まりなさい」
私はレイラさんの実家に回収された。昼食をごちそうになっていたら、レイラさんがアレクを連れてやってきた。
「お兄ちゃん、最初から説明してちょうだい!」
レイラさんの一喝でアレクがぼそぼそと説明を始める。
今気付いたけど、見える場所…体中が傷だらけだ。
「この傷、気になるか?大丈夫、ほとんどかすり傷だから」アレクがニッと笑う。
「お兄ちゃん、話をそらさない!」レイラさんのさらなる一喝が飛んだ。
「魔王なんて居なかったんだ」とアレクがぼそっと言う。
そこにいたのはギルド指定災害級魔獣。
熟練の冒険者が集まらないと倒せない。繁殖期に入り数が増えれば確実に犠牲が出る。
繁殖期前に冒険者を確保し討伐する予定で調整していた時に、王都の貴族が話を聞きつけ、なぜか魔王誕生と大きな話になり勇者による討伐隊が組まれた。
冒険者ギルドはこの決定に戦慄した。
勇者、盗賊、剣士、賢者候補生、道士候補生…このメンツで倒せるわけがない。
中途半端な事をされて魔獣が人の肉の味を覚えたら…大災害である。
貴族は勇者と聞くとありがたがるが…
勇者は名前は凄いがギルドでは一人前の冒険者という程度の称号なのだ。
冒険者ギルドは、全国に通達し、熟練の冒険者を集めて魔獣討伐隊を結成した。
勇者による魔王討伐の裏で、ギルドによる魔獣討伐隊が動いていたのである。
「まさか、ギルドで旅に出ていた人たちって」
「そういう事。魔獣討伐隊としてこっそり活動していたんだ」
討伐の旅に勇者のお父さんがついていってたなんて…
子どもの初めてのおつかいをこっそり見守るパパの図が脳裏に浮かぶ。
まあこちらは、命がけの殺伐さがあるのだが。
「それだけじゃないでしょ。誤解が無いようにきちんと言いなさい」
レイラさんがアレクを叱りつけると、アレクが気まずそうな顔をした。
「ルーシェがコングラに襲われた事件は俺とレオが仕組んだ」