春がくる
「春は商人たちが連れてくるのよ」というレイラさんの言葉通り、冬の寒さが少し和らぐと同時に商人達が村を訪れるようになった。
刺繍の売り上げによる収入ができた、試しに見せてみたキルトのティーコゼーも売れた。形が面白いし素朴で温かい感じが気に入ったという。売るためではなく家族へのお土産にするとか。
紅茶を入れるときに保温する事で一層美味しくなりますよ~と使い方を宣伝しておく。
彼らが村にもたらしたのは、南の食料品、金銭的収入、そして情報。
勇者一行は魔王討伐をやり遂げたらしい。貴重な犠牲を代償として。
ゲームのシナリオ通り、最後の戦いで魔獣使い、道士、賢者が犠牲になった。
そして一人生き残った勇者も王都にたどり着き、王に報告をした後に倒れた。
討伐任務で癒えない傷を負い、帰らぬ人になったという。
魔王が討伐されたというが、全く実感がわかない。
あいかわらず村の外には強い魔獣がうようよしている。
森からは竜の鳴き声が聞こえる、なにこれ繁殖期ですか?
空が明るくなるわけでもない、そもそも暗くもなっていない。
何が変わったわけでもない…
私の心を無神経にグサッとえぐる言葉を吐く男を、魔王が連れていってしまった。
その日はなんとなく何もする気がなくなり、帰るとすぐにベッドに入った。
これからやらなくてはいけないことを、ぐるぐる考える。
ギルドの大がかりな仕事で旅に出ていた冒険者が村に帰ってきたらしい。
レイラさんのお父さんも元気に帰ってきた。お祝いをするからぜひ来てほしいと誘われている。
この家の本来の持ち主も、王都から戻ってくるかもしれない。
これからどうしよう。春になりギルドに入れば、村を安全に出る方法だってわかるだろう。
今回の売り上げで多少の旅費は手に入ったし…考え込んでいるうちに眠ってしまった。