ロバーツ伯爵の話
ルーシェの父親、ロバーツ伯爵は煙たがられていた。
彼の職業は騎士団長である。
規則に対して非情なまでに厳格…しかし、貴族の不文律は無視する。
納得がいかなければ相手が誰であろうと従わない。
しかも意見が的を得ていたり、正論であるから余計腹が立つ。
ルーシェの家族は、父、母、兄が2人、妹と弟、そして祖母の8人家族である。
母親は妻ではなく妾である。
ロバーツ伯爵には妻がいない。彼の隣に立つのは一人の妾のみ。子供は全て庶子、平民である。
愛した女性が平民だった。制度上結婚が許されなかった。
爵位を弟に譲り平民になろうとした。
騎士団長が平民になる事は許されなかった。
騎士団を辞めようとしたら周囲に泣いて止められた。
伝統を重んじる貴族からは眉を顰められる。
政略結婚は貴族の義務である、彼は貴族の義務を果たしていない。
貴族の義務を果たさない癖に正論を吐く嫌な男、それがロバーツ伯爵である。
彼は勇者の魔王討伐に反対した。
「魔獣退治はギルドの冒険者の方が慣れてるんだ、プロに任せとけ」
魔王討伐に浮足立っていた他の貴族には伝わらなかった。
彼は臆病者と陰口を叩かれた…までは別に良かった。
しかし娘のルーシェが魔王討伐のメンバーに組み込まれてしまった。
表向きは剣の腕を見込まれたとなっているが、実は彼に対する当てつけである。
陰口ばかり叩く貴族に対し”文句言うなら、お前らが行けよ”と少しだけ思ったが、さすがにそれは腹の中にとどめて置いた。
奴らが行っても、行く先々で問題を起こすのは目に見えている。
彼らの汚いケツの尻拭いをするくらいなら、愛娘の尻拭いをした方が百倍良い。
そのうち”ルーシェが魔王討伐のメンバーに抜擢された事を鼻にかけ態度が悪くなった”と、陰口を叩かれるようになった。
ルーシェは元々貴族から嫌われている。
伯爵の庶子、身分は平民でしかも女。なのに王都一の剣の腕を誇る。
彼女の態度が貴族の怒りに更に火を注いだ。
聞こえるように陰口を叩いても表情一つ変えない。喧嘩を売られても買わない。
静かに冷たい目で見下ろすだけである。
権力だけはある暇人を放置しているとろくな事にならない。
魔王討伐の旅を利用して、ルーシェを排除しようとする貴族が現れた。
彼には敵が多いが、味方も多い。
彼は必要であれば、平気で卑怯な手段をとる男である。
彼の情報網は、細く細かく根深く、王国内にタンポポの根っこのように根付いている。
ルーシェの排除計画は、計画が始まった時点で彼の情報網に引っかかった。
計画を知った彼は、勇者アレクにルーシェを事前に逃亡させるよう協力を要請した。
「あの娘には王都は窮屈すぎる。そう思わないか?」




