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藤吉郎になりて候う 〜異説太閤紀~  作者: 巻神様の下僕
第五章 美濃征伐にて候う
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第九十八話 蝮と対面致し候う

『斎藤 山城守 道三』が俺との会談を望んでいる。


 斎藤道三。


 歴史の教科書にまで載っている超有名人だ。

 その有名人が俺に会いたがっている。


 俺は、俺は…… 会いたくねえー!


 本心から会いたくない。

 もし道三と会ったら俺はどうなる?

 最悪、首と胴体が離れる事になるんじゃないか。


 あの蝮だよ!


 俺なんかに興味持ってんじゃないよ。

 もっと他に人が居るだろうに?

 なんで俺なんだよ。

 それに俺が美濃に居るのなんで知ってるんだ?


「当然だよ。藤吉は美濃では有名だよ」


 何! それは初耳だぞ。俺は美濃では有名人なのか?


「だって私の夫になるんだから皆知ってるのよ」


 お前か小六! お前が俺を売ったんだな!


「しょうがないのよ。行く先々で聞かれるから、つい」


 それは嘘だ。お前から喋ったに違いない。

 その光景が俺には想像がついてしまう。

 きっと蜂須賀党の奴らも止めるに止められなかったのだろう。


 なんて事をしてくれたんだ!


 しかし、小六を責める事も出来ない。

 俺が口止めさえしておけば!

 でも、小六だからきっと喋っていただろう。


 はぁ、ここで会わない選択も有るわけだがどうしたものか?


「美濃の蝮と会えるのね。それは楽しみですわ!」


 え、おい!


「蝮に夫を紹介しないと。私の見る目が正しいって教えてやるよ」


 ちょっと、あんた達。


「「行くしかない!」」


 あー、やっぱりこうなるのね。


 なし崩しに道三と会うことになった。


 女の強引さには参るね、ほんと。



 会談場所は指定されていた。

 当然日時と時間も決まっている。


 これって罠じゃんよ。


 しかし、二人ともそんな事は全く気にしていない。

 俺が警戒し過ぎなのか?

 いやいやそんな事はないだろう。

 だって相手は蝮なんだよ。

 でも、警戒しても結局はなるようにしかならないか。


 それならせっかく超有名人に会うのだから楽しもう。


 俺は開き直る事にした。

 諦めたと言ってもいい。


 会談場所は井ノ口。

 しかも、俺と小六が初めて会ったあの賭場でだ!

 なんとも因縁染みた場所になってしまった。


 俺、あの場所苦手なんだよね。


 さて、いつもの様に蜂須賀党が準備した変装衣装に身を包み。

 いざ、敵地に向けて出発。

 しかし、今回はちょっと派手じゃない。

 輿を三つも用意しての旅だよ。

 これって目立ち過ぎだろう?


 そんな俺の心配を他所に目的地に着いた。


 予定された時間よりも早く到着した。

 決められた時刻は夜。

 今はまだ夕刻だ。

 少し時間を潰そうかと思っていたが蜂須賀党の者が先客が来ている事を教えてくれた。

 向こうも早く来ていたのか?

 直ぐに所定の場所に案内される。


「藤吉。先に行っておいておくれ。私達は着替えて来るから」


 へ、一緒じゃないのかよ?


「わたくし達が戻るまで蝮とゆっくりと話すとよい」


 あ、あの、二人とも。


 そう言うと二人は別室に移動して行った。


 ちょっと! 俺一人で道三と話すのかよ?

 いかん、心の準備が。

 三人で会うと思っていたから油断していた。

 こんな状態で道三に会うなんて予想してなかった。

 心臓がバクンバクン言っている。


 き、緊張で唇が乾いていく。


 俺は今どんな顔をしているのだろう?


 蝮、いや道三の使いの者が俺を案内する。


 これからあの斎藤道三に会うのか。

 少しどころか、かなり緊張している。

 足はかろうじて前に動いているが体の震えが止まらない。


 使いの者はそんな俺を見て落胆している様に見えた。


 きっと俺の事を想像していた奴と違ったんでがっかりしたのだろう。

 しかし、この緊張感は本当に久しぶりなんだ。

 俺がこっちに来てから二度目の処刑宣告を受けるかもしれない場なんだ。

 震えていても不思議じゃないだろう?


 そして、そんな俺の思考を置いてきぼりにしてその場所に案内された。


 戸が開けられ俺だけ中に通される。

 そして使いの者はさらに奥の間に行くように指示する。


 今の俺は帯刀していない。


 丸腰で道三に会うのだ。

 本当に道三に会うのか?

 この部屋の奥に道三は居るのか。

 実は刺客が今か今かと待ってるんじゃないのか。


「早く入ってこんか!」


 俺がまごまごしていると奥の間から声が聞こえた。

 俺はその声に反応して奥の間に入った。


 その部屋には白髪の爺さんが座っていた。

 脇息にもたれ掛かり扇子を片手に持ちトントンと畳を叩いている。

 体はそれほど大きくないようだ。見た目的に百五十五から百五十ぐらいだろうか?

 少し痩せている。頬の肉付きもよくない。

 しかし、目だけが鋭い。射ぬかんばかりに鋭く見える。

 なんとも怖い爺さんだ。


 平手のじい様とは別の怖さだ。


「座らんのか小僧」


 目の前の爺さんに指摘されて自分が立ったままだと言う事に気づいて慌てて座る。


「もちっとちこう寄れ。ちこう」


 言われて近くに寄る。

 この部屋はそれほど広くない。

 しかし、あまり近くに寄るのはどうかと思ったので相手に二メートルほど離れて座る。

 この距離は刀を抜けば届く距離だ。

 気づいてもっと離れれば良かったと思った。


「して、名は?」


 分かりきっているのに聞くのか?

 いや、自己紹介は大切だよな。初対面だし。


「木下 藤吉にございます」


 俺は両手を付いて頭を下げる。いつもの挨拶だ。

 少しだけ声が上ずってしまった。

 そして頭を上げて相手に問う。


「斎藤 山城守 道三殿ですか?」


 殿と付けたのは俺が道三の配下じゃないからだ。

 俺は織田家の人間だよ。

 例え偉くても敵に様なんて付けないよ。

 殿で十分だよ。殿で。

 そう思ったら何故か震えが止まっていた。


「ふ、そうでないなら如何する?」


 質問を質問で返すのか。さて、どうするかな?


「そうですな。人違いであるならそのまま帰っても良いでしょうが、ここは賭場です。少しだけ遊んで帰るのも一興」


「くく、そうか。そうだな。わしと一つ勝負しようではないか。どうかな?」


「対価は何ですか?」


「ぷ、ふははは。このわしに対価を求めるか。ふははは、気に入った。わしに勝ったなら名を教えてやろう。どうじゃ?」


 名前なんて教えられなくても分かるよ。

 この爺さんが道三だ。


「名は結構です。聞いてなんですけど改めて知ったら帰れそうにありませんから」


 それを聞いた爺さんは一瞬できょとんとした顔になった。


「そうか、そうか。名はよいか。ならば先に名乗ろうかの。わしが斎藤山城守じゃ。さぁ、小僧。勝負しようぞ」


 あ、この人。人の話を聞かないタイプかも?

 それとも主導権を渡さないようにしているだけか。


「しょうがないですね。それで何を賭けます?」


 は、言って気づいてしまった!

 名乗る前ならただの爺さんとの賭け事だったのに、今は斎藤道三との賭け事だ。

 これは半端な物じゃすまないぞ!


「そうさの。お主を賭けよと言えば乗るかの?」


「嫌です。帰らせてください」


 うん、帰ろう。

 斎藤道三と会った。

 それだけで十分だ。


「まあ、そうじゃな。ならば夕げを奢るのはどうじゃ?」


 最初から夕げを供にする予定だった。

 それが早く来てしまったのでまだ準備が整っていない。

 急遽慌てて御対面になったのだ。


「それならばいいでしょう」


「ふ、このわしと打てるだけでも貴重なのにお主はわしより偉そうじゃ」


「わざわざ危険を犯して会いに来たんですからこのくらいは多目に見て下さいよ」


 また、きょとんとした顔になった。

 なんか可愛い爺さんだな。

 ちょっと死んだ祖父に似てる。


「ふははは。そうか、そうか、そうじゃな。確かに呼んだのはわしであったわ。忘れておったわ。ふははは」


 やっぱり祖父に似ている。その笑い声に笑顔が。


「では、やろうかの? わしは強いぞ」


「俺も双六は負けた事ないですからね。奢って貰いますよ」


 一回しかやった事ないけどね。


「ふ、わしに勝とうとは十年、いや二十年早いわ!」


 こうして俺は道三と双六をするはめになった。



 はて、俺は何しにここにやって来たんだっけ?


迷勝負再び?


誤字、脱字、感想等有りましたらよろしくお願いいたします。


応援よろしくお願いします。


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