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藤吉郎になりて候う 〜異説太閤紀~  作者: 巻神様の下僕
第四章 群雄蠢き候う
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第九十話 結婚出来ずに候う

 とある屋敷にて一人の男が居た。


 髪の毛は所々が跳ねている。顔は疲れているように見えてやつれている。しかし、目付きは鋭い。その目は血で滲んでいるかのように赤い。

 その赤い目は目の前の者を噛みつかんばかりに睨んでいた。


「なぜ、あの女は生きている」


 その声は低く、暗く冷たい声だ。


「直接手を下さずとも、織田家が始末」


「そのような言い訳を聞いているのではない。なぜだ」


 おそらく配下であろう者の発言を遮り、再度問いかける。


「配下の者が止めを刺そうとして、邪魔が入りまして」


「そうではない。なぜ、生きているのかと問うた? なぜだ」


 配下の者はここで初めて主人の意を知った。

 そして、冷や汗が流れるを感じた。


「未だ、継続中であります」


「そうか。では、何故晴信は美濃を攻めん?」


 配下は安堵する暇を与えられなかった。


「斎藤山城が健在にて、迂闊に動けないかと?」


「あやつに任せたのは失敗であったか」


 男は歯ぎしりをした後に配下を睨み付ける。


「直ぐに動きまする」


「蝮は長くあるまい。急がずとも良い」


 配下はほっと一息ついた。

 表面には出していないが。


「織田の姫は?」


「側仕えを付けようにも護りが固く、近づけません」


「そうか」


 しばしの静寂が部屋を包む。

 配下の者はこの静寂に耐えきれないのか。

 唾を飲み込む。

 その音は外に漏れだしているほどに大きな音だったかもしれない。


「元康は?」


「は、三河南部の制圧に乗り出しております」


「勝てるか?」


「まず、間違いなく」


「そうか。手間が掛かる小わっぱよ」


 男の顔に笑みが浮かんだ。どうやら男にとって元康は愛しい者のようだ。


「北条は?」


「武蔵を抑えております。景虎とは直接殺り合っておりませぬ」


「景虎か。あれも排除したいものよ」


「あれの周りも草がおります。軒猿という草が」


 男の顔に不満が見て取れる。


「三好はどうか?」


「将軍との和解をした後は、然したる動きは御座いませぬ」


「細川を排除した後に、また義輝が動くと思ったがの」


「将軍と三好の間は表向きは平穏にて」


 男がふっと笑った。


「裏では殺り合っておるのか。そうか、そうか」


 ご機嫌のようだ。


「六角は?」


「仕込みはすでに。後はつつくのみ」


「朝倉は?」


「斎藤と結び、浅井を抱き込むようです」


「侮れんな。朝倉は」


「すでに配下が付いております。如何様にも」


 男はおもむろに立ち上がった。

 配下はこれに驚き少し下がる。


「ふふふ、後は機が熟すのを待つのみよ」


 男は戸を開け放ち庭に出ていった。

 残された配下は一言だけ洩らした。


「狂人よ」



 ※※※※※※



 手柄を立てよ!


 その言葉が俺にずしりとのし掛かる。

 手柄を立てて小六と結婚する。

 小六は一年以上も待っているのだ。これ以上待たせるのは男として申し訳なさすぎる。

 何とかしないといけない。


 しかし、小六と結婚すると何故か一緒に犬千代と寧々も付いてくるそうだ。

 なぜ二人まで俺と結婚する?

 この事はすでに規定路線のようで俺の周りの者は皆知っていた。


 犬千代はともかく寧々は無いと言っていたのに、なぜだ!


 しかも俺には拒否権が無いようだ。おかしい!


 何とも悶々とした気持ちを持ちながら仕事をしている。


 美濃の一件が終わってからここのところ周りは静かになった。

 それに合わせて仕事の量も減った。

 喜ばしい事ではあるが俺の頭の中は先程の事で一杯だ。


 前に勝三郎達と相談したが、あれは愚痴等を言い合った飲み会のようなものだ。そう、あの後当然のように飲むことになった。

 あれはあれで楽しかったが問題解決の糸口にはならない。


 手柄を立てる。さて、どうしたものやら?


「考え事ですか? 藤吉殿」


「へ、ああ、そうですね。貞勝殿」


「良ければ相談に乗りますぞ」


 な、なんと。貞勝殿が相談に乗ってくれると?

 何時もなら仕事一筋の真面目な方が、俺の相談を聞いてくれるなんて!

 ちらと信定を見ると。


「んん、もちろん私も相談に乗りますよ」


 持つべき物は良き同僚だ。

 そして俺は嘘偽り無く話した。


「嫁取りの条件でしたか? 話は聞いていましたが、城持ちに成る程の手柄とは何とも」


「それは我々のような者には辛い条件ですな」


 二人とも俺が小六達と結婚するのは知っているが、その為の条件は知らなかったようだ。

 ちなみに貞勝殿は当然既婚者だ。娘は内蔵助の嫁に成るそうだ。

 俺が嫁取りに苦労しているのに、内蔵助はいとも容易く結婚するという。

 何とも理不尽だ!

 信定殿も結婚している。子供も居る。


 俺の周りで独身者はいないようだ。


 利久?


 あいつ最近どこぞの後家さんに入れあげている。

 近々一緒に成るらしい。

 この前嬉しそうに話していた。

 あれほど一人の女に縛られるのは嫌だと言っていたのにである!


 おかしい。なぜ俺だけこんな苦労しないといけないのか?


 その後は三人で話し合ったが、ろくな意見は出なかった。

 貞勝殿は娘が結婚する話で『娘など持つと悲しい思いをしますぞ!』と愚痴られた。

 信定殿は帰って『子供の顔を見ると疲れが吹っ飛ぶ』と言っていた。


 単なる自慢話を長々と聞かされただけだ。

 何の得にもならなかった。


 そして、帰って自室で考える。


 部屋には蜂須賀党が集めた噂話等をまとめた物や、あっちの世界から持っていた地図とこっちの世界に来て書いた地図を広げていた。

 最も手柄が立てやすいのは美濃だ!

 その為の下調べをしていた。


 あっちの世界での秀吉は美濃取りで出世した。

 なら、こっちでもあっちの世界と同様に手柄を立てられるはずだ!


 でも、あっちとこっちでは大分歴史が違う。


 果たして蝮相手に俺は大きな手柄を立てれるだろうか?


 それとも、蝮を避けて伊勢に向かうか?


 その為には長島をどうにかしないとな?


 課題が沢山有りすぎて目眩がしそうだ。


 果たして俺は一城の主になって結婚出来るだろうか?



 永禄二年 四月某日 右筆 足軽大将 木下 藤吉 書す



第四章 これにて終了です。


誤字、脱字、感想等有りましたらよろしくお願いいたします。


応援よろしくお願いします。


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