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藤吉郎になりて候う 〜異説太閤紀~  作者: 巻神様の下僕
第四章 群雄蠢き候う
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第八十六話 美少女と子狸

 市姫様が元康と会見する?


 その為に俺に戻ってくるようにとの連絡が有った。

 何故に俺が戻らないといけないのか?

 外交に関する右筆は俺の先生でもある『明院 利政』様が担当している。

 それに信光様や平手のじい様が居るから俺の出番はないはずだ。

 もしかして、平手のじい様や先生に何か有ったのか?


「え、平手のじじいに何か? いや別に何もなかったな」


「本当かよ?」


「疑り深い奴だな? 本当に何もないよ。それより清洲に戻ろうぜ。もう出るんだろ?」


「明日だ。明日。まだ帰る準備が出来てないからな」


「そうか、そうか。じゃあ今夜は付き合え」


「え!」


「なんだ。帰ったら長姫達にチクるぞ」


「く、なんて卑怯な」


 結局その日は俺と利久、小一と長康の四人で飲んだ。

 俺が逃げ出さないようにガッチリと固められた。

 長康の奴、俺の味方じゃないのかよ?


「すまん。大将。利久の兄貴には逆らえないんだ」


 く、ここにも利久の犠牲者が!


 そして俺は男四人で飲み明かす事になった。

 これはこれで楽しいんだけどな?

 小六と犬千代は互いに牽制しあって夜を供にしたようだ。


 俺の春はまだ遠いようだ。



 急いで城に戻ると市姫様達が会見場所の笠寺に向かう所だった。

 なんだ、俺は必要なかったじゃないか?

 そう思っていたら勝三郎がやって来た。


「良かった。間に合ったな」


「勝三郎。俺も同行しないといけないのか?」


「当たり前だ!なんせ姫様達の要望だからな」


「姫様、達?」


 見れば織田家の紋の入った専用の輿が二つ見えた。


「なんで二つあるんだ?」


「市姫様と長姫の物だ」


「え、なんで長姫が一緒なんだよ?」


「それは道すがら説明する。さぁ行くぞ」


「お、おい。勝三郎」


 ろくに休憩する暇も無く、俺は姫様ご一行に強引に連れ去られた。

 道中で今回の会見の内容を教えてもらった。


 今回の会見は松平家からの要望であった。

 前年の文による同盟締結を改めて正式に行う為である。

 その為に元康自らが尾張の笠寺に直接乗り込んで来るのだ。

 なんとも低姿勢な事である。

 今回はこちらが出迎える形になるために先乗りして色々と準備しないといけない。

 その為に長姫が用意された。

 長姫は会見に参加する為の条件として俺の同行を願った。

 それは市姫様も同様のようだ。


 なんで俺が一緒に居ないといけないんだ?


 今回の会見で元康と、将来の『徳川 家康』と会えるのは歴史好きにとっては嬉しいイベントではある。

 将来の敵になるだろう人物を知るいい機会だ。

 だが、右筆としての俺の仕事は外交担当じゃない。

 先生の仕事を奪うようで申し訳ない。


 まぁ、それは建前だ。


 本当は早く帰って犬山の決済処理をしたいのだ。

 時間が経てば経つほど俺の仕事が増えるのだ。

 正直言って元康なんかと会っている暇なんてないんだよ!俺には。


 ああ、帰ったらまた城に缶詰にされるのか?


 なんて憂鬱なんだ。


「どうした? そんな辛気くさい顔して。空はこんなに晴れていい陽気じゃないか」


 笑顔でそんな事を言うのは利久だった。


「そうですよ藤吉様。こんな天気のいい日は珍しいですよ?」


 心配そうな顔をして俺に近づく犬千代。

 なんか距離感が近いな? 気のせいか?


「負け犬ちゃん。藤吉から離れな。負け犬根性が移るじゃないか」


 そして、俺の隣にはさも当然のように小六がいた。

 今の俺は両手に花だ。

 そんな俺を周りの人達はジト目で見ている。


『なんて羨ましい奴だ!』

『そこを俺と変われ!』

『見せつけやがって、馬に蹴らてしまえ!』


 皆の心の声が聞こえて来るようだ。


 そしてそんな俺達を冷たい目で見ている者がいる。

 輿に乗っていた二人だ。

 市姫様と長姫は輿から降りて馬に乗っている。

『なんで態々用意した輿に乗らないで馬に乗ってんだよ!』と言ってやりたい。

 途中までは輿に乗っていたのだが、小休止を取った後に急に二人供に馬に乗りたいと言い出したのだ。


 二人の我が儘はお目付け役の勝三郎に止められるはずもなく、結局馬に乗る事になった。

 輿には何故かお付きの侍女が乗っている。

 侍女達は恐れ多いと辞退したが、二人の姫の強引な説得によって無理やり乗せられたのだ。


 本当に何やってんのかね。この二人は?


 ちなみに俺達も馬に乗っている。

 そして、次の小休止の後に俺は二人の姫様に挟まれる事になった。


「見ろ藤吉。あの鳥は美しいな」 「はぁ、そうですね」


「藤吉。あの花は何と言うのかしら?」 「さぁ、存じませぬ」


「藤吉」「藤吉」


 さっきから二人の姫様に話し掛けられているが俺の心は上の空だ。

 なんだよこれは?


 そしてそんな俺達を遠巻きに見ている者達がいる。


 利久は相変わらずニヤニヤとして、勝三郎は『私は何も見ていない』とポーカーフェイスで、小六と犬千代は羨ましいそうに見ている。

 そしてお付きの者達が怪訝そうな顔を向けている。


 これは良くないよ。絶対に良くない。


「あの……、お二方?」


「し、黙ってそのまま聞いて欲しい」


「藤吉。元康の事をどれだけ知っている?」


 先ほどまで笑顔だった二人が突然真面目な顔をして俺に問い掛ける。

 真剣な眼差しに変わった事で俺はちょっと驚いたが直ぐに切り替えた。


「えっと、松平元康ですか?」


 俺は長姫の問いに素直に答える。

 こっちの世界の家康こと元康は史実とあまり変わりがない。

 幼少の頃に今川の人質になるはずが織田家の人質になり、その後人質交換で今川の人質になった。

 その後は今川家で準一門格で遇されている。

 長姫が家督を継いだ時に嫁を貰っている。

 歴史好きには有名なあの『築山』殿だ。


 長姫の話によると元康の嫁になるのは自分だったそうだ。

 聞いてびっくりだ!

 更にびっくりなのは長姫は元康が大嫌いだそうだ。

 それは市姫様も同様のようだ。


 何でも元康は普段は何事も不真面目で、本気で何かに打ち込む事をしないそうだ。

 その代わり何をやってもそつなくこなすので周りは何かと注意しずらい。

 いわゆる天才肌なのだろう。

 周りが必死にやっている事を元康は難なくこなしてしまう。

 元康が真剣にならないはずだ。

 そしてそんな才気溢れる元康を寿桂尼と雪斎は高く評価していたそうだ。


 だが、そんな元康を長姫は嫌っていた。

 そして市姫様も嫌っている。


 理由を聞いてみたが二人の答えは……


「「会えば分かる!」」 だった。



 そして、笠寺に着いた俺達が松平一行を迎え寺の境内でいざ会見となった。


 現れた十代の若者は多少太っていた。

 顔はイケメンではなく愛嬌のある顔だ。

 相手に好印象を与える顔だ。

 あれに警戒心を抱くのは難しいだろう。

 現に俺も彼にはなんか親近感が湧いてくる。


 そんな彼の第一声は……


「会いたかったよお市ちゃ~ん」


 そう言って市姫様に抱きつこうとして、逆に市姫様に殴られた。


 こいつが松平元康。後の『徳川 家康』なのか?


お読み頂きありがとうございます。


誤字、脱字、感謝等有りましたらよろしくお願いいたします。


応援よろしくお願いします。

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[一言] 随分と馴れ馴れしいクソ狸だな?(嫌悪)
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