第八十話 墨俣合戦の顛末
墨俣築城イベントは無くなったが、代わりに『竹中 半兵衛 重治』が早くも現れた。
秀吉を支えた名軍師と言われるが実際はどんな武将かはよく分かっていない。
その知謀で戦を勝利に導き剣の腕前は一流で婦人のような容貌をしていたと云われている。
そして、史実では井ノ口城(稲葉山城)を二十人足らずで攻略し、一年近く城を維持したと言う実績がある。
その後、紆余曲折あって織田家に仕官して秀吉の与力につけられた。
与力とは現代では本社勤務の人が子会社に出向させられるようなものだ。
これらの事を踏まえて確かなことは小六と供に秀吉に仕えて若くして亡くなった人物と言う事だ。
果たしてこの世界で彼は俺に味方してくれるだろうか?
俺が久しぶりの休暇を取っている間に小六が美濃から帰って来た。
彼女に詳しい事を聞かなければいけない。
小六の話によると。
この墨俣合戦は規模は小さかったが美濃の国情においては重要な合戦になった。
まず両者の兵の数が少なかった。
収穫前とあってか両者合わせても六千も満たない。
そして、派手にぶつかり合う事もなく睨み合いであった事。
更に十日あまりで両者が兵を退いた事でそれほど重要な戦とは思われなかった事だ。
俺も小六の報告がなかったら全く気にしなかっただろう。
結果として斎藤山城こと『道三』は本拠地である井ノ口を失った。
だが井ノ口落城の話はまだ巷の話に出て来ていない。
これは何故だろうか?
小六にもっと詳しく調べてもらおう。
竹中重治の事も。
その後道三は加納城に退いている。
また討死したのは『斎藤 龍重』ではなく弟の『斎藤 喜平次 龍定』であった。
兄の龍重を逃がすために代わりに討たれたようだ。
どうも誤情報が入り乱れているようだ。
これでは道三が病に倒れたなんて情報も嘘かもしれない。
そして、井ノ口城を落とした義龍側は?
井ノ口城は義龍側の『安藤 守就』がいる。
西美濃において有名な人物だ。
義龍は一旦大垣城に戻っている。
そして墨俣城はまだ築かれていないようだ。
よっしゃ、セーフ!
まだ墨俣築城イベントは残っているようだ。
でももう意味がないかもしれないけどな。
しかし、美濃はゴタゴタが続いている。
このゴタゴタを突いて織田家の勢力を広げたい所だけれど、今年は大きな戦は出来そうもない。
今年の尾張は凶作だ。ついでに美濃もどうやら凶作のようだ。
近隣国も凶作のようで大きな軍を出すことは出来ない。
しかし、小規模の軍なら出せるだろう。
つまり乱取り目当ての戦だ。
だが、乱取りによって得た銭や食料は一時しのぎにしかならない。
来年その土地の収穫は見込めないのだから。
しかし、目先の利益の為に各地の土豪、国人達は兵を出すのだ。
自分達の首を自分で絞めていると気づかずに。
今年の織田家は他家に出兵はしない事が決まっている。
去年立て続けに大きな戦を起こして財政は火の車。
おまけに今年は前半に斎藤、今川の襲来に知多半島の水野家の討伐等もあって後始末が大変なのだ。
この状態で他国に侵攻等出来ない。
少なくとも来年の田植えが終わるまでは織田家は静かにしている事になっている。
しかし、織田家が静かにしていても近隣諸国は争い続けるだろうがな?
「ねぇ藤吉。私頑張ったでしょう?」
話が一通り終わると小六は俺にしなだれかかる。
「え、ああ。よく頑張った。えらい、えらい」
俺は小六の頭を撫でてやる。
「もう、子供扱いなんて」
そう言って怒る小六だがまんざらでもないのか顔は笑顔だ。
これはもしかしてチャンスか?
今、屋敷には俺と小六しかいない!
母様ととも姉さんと弥助さんは買い物に出ている。
朝日と寧々、長姫は蜂須賀屋敷で蜂須賀党の面々に読み書きを教えに行っている。
小一は長康と兵の訓練をしている。
犬千代は城に勤めている。利久も一緒だ。
つまりこれは千載一遇なのでは?
「こ、小六」 「何、藤吉?」
小六が上目遣いで俺の顔を覗きこむ。
改めて見ると小六は美人だ。
俺にはもったいないくらいの美人だ。
その小六が目を潤ませて俺を見ているのだ。
きっと期待に胸を膨らませて!
その小六の期待に俺も答えなくては!
「小六」 「藤吉」
俺は小六に口づけしようと小六の肩を掴み顔を近づける。
よし、イケる!
ドカ、ドカ、ドカ、スパーン。
「やっぱり居ましたわ! わたくしをのけ者にするなんてあんまりですわ!」
「ぐあ」 「くそ、邪魔するんじゃないよ!」
やって来たのは長姫だった。
くっそー、後もうちょっとだったのに!
「さぁ、藤吉。お話は終わったのでしょう。今度はわたくしとお話致しましょう?」
長姫が俺ににじり寄ってくる。
「駄目だ!藤吉はまだ私と話をしているんだ!」
「何をおっしゃっているのやら小六さんは? どう見てもすでに終わってらっしゃるじゃないですか」
「ああ!」 「ええ!」
睨み合う小六と長姫。
……今回も駄目だった。
※※※※※※
加納城の一室にて、病床の道三と跡継ぎの龍重が話し合っていた。
「このままでは終われん」
「……父上」
「義龍め。よき家臣がいるものよ。それに比べて……」
「申し訳ございませぬ」
「よさぬか。既に終わった事よ。上に立つものは常に次を見据えぬばな?」
「は、心得ました」
「うむ。今回はしてやられたが、次はあるまい」
「直ぐに兵を動かしまするか?」
「そうよな。次の一手はこちらが指そうぞ」
「では、例の手にて?」
「義龍よ。まだまだわしが上じゃと教えてやろうぞ。龍重。よく学ぶが良い」
「は、父上の教えしかと!」
斎藤道三の目の光は未だ衰えてはいなかった。
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