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第八話 代筆いたして候う

 やっぱりか~。


 そうじゃないかと思ったんだ。


 信長、死んでたのか。

 会ってみたかったなあ~、現物の信長。

 どんな姿でどんな声してたんだろう。

 やっぱ、怒った時はすげえ怖かったんだろうか?

 妄想は膨らむが死んだ人には会えない。

 すっぱり諦めるが寛容よ。


 なら今の織田の当主は市姫で間違いないのか?


 結論、違う。


 市姫は『陣代』(当主代理)で、当主は三才の奇妙丸様との事。


 ここできたか奇妙丸!

 俺の中では残念長男信忠だ。

 本能寺の時、安土まで逃げてたらちょっとは違った結果になっただろうに。

 そこそこ有能な人物だったのだ。

 だがいかんせん父親があの信長だから色々と比べられて大変だっただろうなあ。

 でも、信長は若くして死んだ。

 この世界では伸び伸び出来るはずだ。

 俺としては信忠には頑張ってもらいたい。

 将来は父親に負けない有能な当主になって欲しい。

 出来れば悪い所は似ないように。


 しかし、市姫が陣代とは他の兄弟はどうしたんだ?


 それを利久に聞こうとした時、外から大きな声が近づいてきた。


「利久、利久は何処だー。そこの者。利久を知らぬか?」


「いえ存じませぬ」


「そうか。む、そこもとは知らぬか?」


「前田様ですか? 見ていませぬ」


「わかった。見かけたら知らせてくれ」


 声の主に心当たりがある。

 心のイケメン、勝三郎だ。

 利久を探して居るのか何で?


 利久を見ると視線を反らした。


「おい利久」


 利久を問い詰めようとすると戸がスパーンと開かれる。


 見事な音だ。

 ドラマ等でよく見るシーンだ。

 俺も一度はやってみたいと思っていた。

 戸を開けたら、こう、ニヤッとして見つけたぞ、みたいなセリフを………


「見つけたぞ利久!」


 ………勝三郎に、先に言われた。



 現在、利久に勝三郎による説教が行われている。


 俺は関係ないので墨を磨り続けている。

 耳は説教の内容を聞いている。


 説教の内容は、どうやら利久は戦後処理の書類作りを逃げ出していたらしい。

 利久の俺の監視は外のみで、城内では監視しないと勝三郎は本人の目の前で話している。


 それは本人の居ない所で話そうよ勝三郎。


 更に説教は続く。


 しかし勝三郎君。

 君も結局サボっているのでは?

 俺が疑問に思っていると利久も反撃する。


「勝三郎。お前も俺を探す口実で逃げてきたのではないか?」


 ふふん、どや! みたいな顔の利久。


 しかし冷静な勝三郎。


「私はちゃんと自分の分は済ましている。それよりもお前の報告待ちの人間が困っているのだ。早くこい!」


 やり返され墓穴を掘る利久。


 かっこわりー。

 後で犬千代に教えてやろう。

 喜んでくれるはずだ色々と。


「俺が書くより他に書かせろ。俺は書き物は苦手だ」


「苦手でも、何でも、早く書け!」


 嫌だ、書け、嫌だ、書け、の押し問答が続く。


 いい加減うるさいので割って入る。


「それほど嫌なら俺が書きましょう。利久は話だけで、内容は俺が書きます」


「おう。それは助かる。そうしよう、な!勝三郎」


「藤吉。その方字が書けるのか?」


「書けますよ。見せましょうか?」


 それならばと利久が懐から紙を取り出す。

 こいつ、最初から自分で書く気が無かったな?

 俺と勝三郎は頭を抱える。


「ほれ藤吉。さっそく書いてくれ」


「はぁ、よこせ。利久。話をしろ。勝三郎殿。間違いが有れば訂正をお願いします」


「よしそれならば。あれは俺が………」


 さっそく話始める利久。

 それを紙に書いていく俺。

 それを見つめる勝三郎。


「その方の字、見やすいというか? 分かりやすいというか?」


「いけませぬか? 書き直せとおっしゃるならそうしますがどうしますか?」


「いや、そのままでよい」


「邪魔するな勝三郎。今、良いところなんだ」


 興がのったか。

 単に調子にのったのか?

 得意顔で話す利久。


 しかし、この書いている内容は本当なのか?


 話半分でも盛りすぎだろう。

 なんだよこの一人で百人相手にしたとか?

 堂々と名乗りを上げて敵将を撃ち取ったとか?

 書いてる側で勝三郎を見るが首を横に振っている。


 嘘かこいつ?

 どうしようもないな。

 さっきの感動を返せよ。


 俺の心中を知ってか知らずか、利久は話を続ける。


 どれだけ時間が経っただろうか?


 書くのに二時間は係ったかも知れない。

 途中、墨と紙が足りなくなるかと思った。


 話している間、墨を受け取りに来た者は勝三郎が取り成して帰していた。


 そして書き終わった後はぐったりとなった。

 利き手の右腕がプルプル震えている。

 正直、疲れた。


 そして久しぶりに書を書いた。


 小さい頃、祖父に教えてもらい下手なりに頑張って書道三段を持っている。

 俺の数少ない自慢だ。

 しかし、これだけの時間書き続けたのは初めてだ。

 途中、追い付かなくなり焦った。

 字も少し汚くなったが何とか書けた。

 祖父が見たら叱られるな。

 利久の奴、調子に乗って早口になりやがって書く俺の身も考えろ。


 勝三郎が字の間違いがないか確認している。

 隣でやりきった感を出している利久。

 殴ったろか、と本気で思った。


「よく書けている。これなら直さなくても大丈夫だ」


「当然だ。俺の話だからな」


 勝三郎と俺が同時に突っ込む。


「これだけ書けるなら代筆を頼もうか。墨を磨るより仕事になるぞ?」


「よろしいのですか?その俺は……」


「監視のことか?」


「それもありますが………」


「大事なものは書かせないよ。簡単な物から任せたい。小者頭には私から話しておく」


「それなら、ありがとうございます。頑張ります」


「うんうん。頑張れよ藤吉」


 再度突っ込まれる利久。


 学習しろ!


 しかし、代筆か?


 思わぬ形で仕事が出来たな。

 ちょっとだけ利久に感謝しよう。


「では、私はこれを持っていく。藤吉。明日から頼むぞ」


「はい。わかりました」


「おう。監視は任しておけ」


 勝三郎が突っ込む。

 俺はため息しか出ない。

 きっと勝三郎と利久はこんな感じなんだろうな。


 どこか楽しそうにも見える。


 気づけば日が傾き始めていた。


 今日の仕事はこれで終わりかな?


 勝三郎が部屋を出てしばらくすると犬千代がやって来る。


「藤吉殿。今日の仕事は終わりです。先ほど勝三郎様から聞きました」


 そうか終わりか。


「勝手に帰って大丈夫でしょうか?小者頭に挨拶した方が良いでしょうか?」


 ちょっと心配で聞いてみる。

 新人だからな。

 勝手に帰ったら怒られるかも?


「大丈夫です。明日からは勝三郎様が藤吉殿を見るそうですから」


「そうなんですか?」


「右筆がどうとか? 良かったですね。小者から近習ですよ!」


「近習!マジかよ?」


「良かったな藤吉。こりゃお祝いしなくちゃな」


 お前は酒が飲みたいだけだろ!

 それよりももう小者は終わり?

 明日から近習?


「本当かよ?」


 …………本音が出た。


「本当ですよ。さぁ、帰って祝いましょう。兄上。酒はダメですよ」


「何でだ犬千代。 せっかくの祝いだぞ」


「飲み過ぎて壁に穴を開けたのを忘れたのですか? 当分禁止です。藤吉殿は飲まれても大丈夫ですよ」


「何でだ。良いだろう藤吉」


 二人の言い合いが耳に遠い。

 昨日も色々有ったが今日も色々有った。

 いきなり出世かよ。


 ………早くない?


 また平手のじい様がうるさいだろうなと思っていた。


 だが、今日はまだ終わっていない。


池田恒興は以後『勝三郎』で通します。


誤字、脱字、感想等有りましたらよろしくお願いいたします。


応援よろしくお願いします。

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