第七十八話 凶作になりて候う
知多半島統一により織田家の尾張支配はより強固になった。
今回の水野家討伐は織田家に対する裏切りによる報復ではあるが、世は戦国である。
油断した方が悪いのだ。
水野忠次が織田家に対する裏切りを告白していれば討伐軍等出さなかった。
まさに自業自得である。
そして林美作の処刑と水野家討伐により織田家を裏切る事でどうなるかという見せしめが出来た。
織田家の家中の引き締めも同時に出来た。
一挙両得、いや領地も増えたから三得か?
それに伴って右筆である俺達の仕事もまた増えた。
林家と水野家は断絶。
その領地は一時織田家の直轄領になった。
桶狭間合戦で得た領地は山口教継に褒美として与えられた。
山口親子の更なる忠誠に期待したい。
そして領地引き渡しが終わってやっと一息ついた所で今度はその知多半島の処理である。
正直、休まる暇がない。
「休み欲しい~な~」
「藤吉殿。手が止まってますぞ」
「貞勝殿もそう思いませぬか?」
「考えるより手を動かした方が良いですよ。藤吉殿」
「そうは言いますけどね。信定殿。この量を見て下さいよ!」
信定が城に戻って久しぶりに三人で処理に当たっているが明らかに俺が処理する書が多い。
貞勝殿は俺の半分以下、そして信定は更に半分。
これは明らかにおかしい?
「まぁ藤吉殿なら出来ますよ。ええ、本当に」
そう言って目を反らす貞勝殿。そして返事もせずこっちを見ようともしない信定。
「くそ、くそ、くそー。絶対増員を嘆願するぞ! 絶対だ!」
いつ終わるか分からない事後処理に俺は追われていた。
家にはまだ帰れそうにない。
ブラックだ。ブラック過ぎる!
この事後処理が終わったのは夏が過ぎて秋になろうとしていた。
いよいよ収穫の時期が迫ろうとしていたが外に出ていない俺にはそんな事を気にする余裕もなかった。
だから、気づかなかったのだあるイベントを。
そのイベントは『凶作』だ!
田植えからろくに外に出ていなかった俺は数字の処理に追われていてそれを処理する事だけしか頭になかった。
多少物の値段が上がったな、と感じただけで凶作の予兆に気づいてはいなかった。
何せ外の気候すら気にする余裕もなかったからな。
そして、凶作が起きるという事は何が起きやすくなるかというと。
戦が起きやすくなるのだ。
何故に戦が起きるのか?
それは、食べ物を獲るためだ!
極論になってしまうが、これがほぼ真実だ!
食べる物がない。隣に食べる物が有る。
自分たちに無い物を他人から奪う。
実にシンプルだ。
飢饉、凶作になると食べる物が減る。
減った食べ物を獲る為に戦を起こす。
戦を起こす事で更に食べ物が減る。
有る意味では悪循環のように感じるが勝ってしまえば実入りは大きい。負ければ凋落の一途をたどる。
織田家は今川に勝ったが、今川は食い扶持を減らす事が出来て逆にラッキーだったかもしれない。
勝った織田家は領地は増えたが領地に加えて大量の人を得た。
この大量の人を食わせないといけない。
更に戦勝の噂を聞き付けた難民が大量に尾張に向けてやって来たのだ。
俺は凶作になるなんて予想もせずに数字に従って処理してしまった。
このままでは尾張の民が飢えてしまう。
何か考えないと!
俺がそんな事を考えている間もあちこちで戦が起きていた。
まずは武田と今川がぶつかった!
甲斐の虎『武田 晴信』と駿河今川はなんと長姫の祖母『寿桂尼』が戦ったのだ。
結果は今川方の勝利!
攻める晴信に対して寿桂尼は兵を集中運用でこれに対応。
何度も何度も攻める武田方、それを攻める場所を初めから知っているかのように兵を動かし跳ね返す今川方。
武田方は遂には根負けしたのか兵を退いた。
被害は攻めた武田方が多い。
寿桂尼の貫禄勝ちだ。
長姫に言わせると当然の結果だと言っていた。
事実、寿桂尼の戦績はほぼ負け無しである。
しかし、防衛は得意ではあるが攻勢は苦手のようで領土侵攻は何度か失敗している。
今川寿桂尼は完璧ではないが敵に回したくないものだ。
もう遅いだろうが。
そして、近くでは三河松平と三河遠江の今川が戦った。
これは両者引き分けに終わった。
攻勢に出た松平に対して今川は反撃し逆に侵攻する事態に発展。
しかし松平はこれを何とか撃退するも再侵攻する余力がなく結果引き分けに終わった。
だが端から見たら松平の敗けだろう。
攻めたのに攻められたら世話はないよな?
田畑を荒らされた三河松平は苦しくなっただろう。
再侵攻はいつになるやら?
更に越後の『長尾 景虎』が関東に出兵している。
こちらは破竹の勢いで侵攻して近隣国を蹂躙している。
龍千代さんも従軍しているのか?
龍千代さんと言えば、堀田家から龍千代さんの文が来ていた。
内容はあえて言うまい。 ……ただ再会するのが怖い。
だから、なるべく当たり障りの無いように文を書いて預けた。
何卒お怒りをお静め下さい!
兄上である景虎様にもよろしくと書いておいた。
妹可愛さで戦国最強の男に睨まれたくない。
だがこれで東国は軒並み米等の食料品が不足するだろう。
戦によって田畑が荒れるのだ。
例年並みの収穫は望めないだろう。
まったくどこもかしこも戦、戦、戦ばかりだ。
少しは静かに出来ないものか?
だがこれで東国で飢饉が起こるのは最早決定事項だ。
早めに食料の確保に走らないといけない。
まずは堀田家と加藤家に連絡を取ろう。
両家を介して他国で米を買い漁るのだ。
そして、買い漁った米の一部を東国の飢饉にあった国に高値で売り捌くのだ!
元々尾張は米が沢山取れる。
不作、凶作、飢饉でも何とかなるだろう。
過信は出来ないが、余った米くらい売っても良いだろう。
軍資金はいくらあっても足りないのだ。
勘定方にも連絡をしないとな。
平手のじい様に相談しないでやると後がうるさいしな。
まだ、大規模な戦を起こすには米も銭も足りない。
頼むからこっちの準備が整うまでどこも攻めてこないでくれ!
そう俺が願っていた所にある報告がやって来た。
その報告は小六からの物でその内容は……
『墨俣にて城が出来た。蝮が病に倒れた』
のおおおお━━ 俺の出世イベントが━━!
藤吉は龍千代の正体を知りません。
誤字、脱字、感想等有りましたらよろしくお願いいたします。
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