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藤吉郎になりて候う 〜異説太閤紀~  作者: 巻神様の下僕
第四章 群雄蠢き候う
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第七十四話 美濃の三竦み

 さて家に帰ったのは家族に会いに来ただけじゃない。


 といっても家に帰って来るのは当たり前だよな?

 ずっと城に居たから城が自分の家みたいになっている。


 これはおかしい! 労働の改善を要求しよう! よし、次の目通りの時に直訴しよう!


 そんな事を考えながら自室で人を待っていた。

 待っていたのは小六と小一の二人と話をするためだ。

 この二人は俺が今川と戦っていた時に『斎藤 義龍』を煽動して謀叛を起こさせた。

 その為、その時の様子を報告させた。

 この事を知っているのは俺と小六と小一、それに津島の『堀田 道空』しか知らない。

 桶狭間合戦で一緒だった勝三郎も知らない。


 そもそもこの策は信行のクーデターの時に保険として仕掛けていた物だからだ。

 まさか本当に火が点いて爆発するとは思っていなかった。

 だが、そのお蔭で今川との戦いに勝てた。

 まさに義龍様々だ。


 では、小六達の話を聞こうか?



 小六達は井ノ口城で直接義龍と会って話をしたらしい。

 会ったのは小六で小一は城下で噂を流していた。

 小六は義龍に『斎藤 山城守 利政』が義龍の弟『斎藤 孫四郎 龍重』に後を継がせる筈だと迫った。

 元々義龍は斎藤山城との仲が良くなかった為にこの話を信じた。

 いや、信じたかったのかもしれない。

 それに弟の斎藤龍重も兄義龍を軽んじる態度を見せていた為にこの話の信憑性に拍車をかけていた。

 さらに小一の街中の噂がより効力を増していた。


 こうして、義龍は前々から斎藤山城に協力的でない国人衆に連絡を取り決起したのだ!


 ここまでは俺の予想通りに事が運んでいた。

 ここまでは……


 決起した義龍は井ノ口城(稲葉山城)に籠城して斎藤山城を迎え撃った。

 これに斎藤山城は井ノ口城を包囲して動かなかった。


 この時義龍側 五千 斎藤山城側 八千


 斎藤山城の兵が減っているのは方々に使いを出していた為だ。

 義龍側は味方の西美濃国人衆を待っており、斎藤山城は東美濃の遠山家の援軍を待っていた。


 先に援軍が現れたのは義龍側だった。

『稲葉 良通』に率いられた西美濃衆三千あまりがやって来た。

 これで数の上では互角であったが斎藤山城に慌てた様子はない。


 しかし、斎藤山城側の援軍は結局現れなかった。

 この時には東美濃の遠山家は武田に服属していた。


 長期戦を嫌ったのか斎藤山城は井ノ口城を強襲する。

 井ノ口城の裏手から兵が雪崩れ込んだ為に城は落ちた。

 義龍は間一髪で逃げ出しそのまま西美濃に逃れた。

 西美濃に逃れた義龍は居城を大垣に構えている。


 井ノ口城を取り戻した斎藤山城だが東の遠山家がどう出るか分からない為に追撃出来なかった。

 噂ではこの時斎藤山城は血を吐いたと伝わっている。

 この噂は小六達も知っているがデマかもしれないと言った。


 敵を油断させる為の噂かもしれないが本当だったら……


 この後犬山城の『織田 信清』が斎藤山城に寝返っている。

 もしかしたら信清は斎藤山城が攻めて来たときに寝返る手筈だったのかもしれない。

 織田家の兵が引いてしばらくして寝返ったので多分そうだろう。


 やはり油断出来ないな蝮は!


 大体の話はこれで終わりだ。

 今や美濃は三つに別れている。

 この事を近隣諸国はどう見ているのか?


 だが、今の俺は一介の足軽大将だ。

 何か決める決定権が有るわけではない。

 精々上の無茶振りを注意する事しか出来ない。


 俺が織田家の当主ならどうするだろうか?

 義龍と結んで斎藤山城を攻める。

 それとも斎藤山城と交渉して犬山城を返してもらって義龍を一緒に攻めるか。

 いや両方が戦って疲弊した所を美味しく頂くのはどうだろう。



 ……アホらし。こんな事考えても一緒だな。


 やっぱり上を目指さないとな!


 とりあえずは何かしら大きな手柄を立てて領地なり貰わないと話にならない。


 その為には……


「じゃあ兄者。おいらはこれで失礼するよ。おやすみ」


「あ、ああ。おやすみ小一」


 考え事をしていたら小一が去って行った。

 そうだな。今日はもう遅いから寝ようかな。


「小六。もう遅いからそろそろ寝ようと思うんだが」


「やっと二人きりになれたわねぇ」


 そう言うと小六は俺に体を預けてくる。


「ちょっ小六」


「あたし、もう我慢出来ないの。いいでしょう」


 小六の胸が俺の体に押し付けられる。


 う、凶悪過ぎる! このままでは! しかし、これはかの有名な据え膳食わぬは男の恥なのでは?


「こ、小六」 「藤吉」


 俺は意を決して小六の肩を両手で抱き小六の顔を自分の方に向ける。そして………


 スパーンと戸が開けられる。


「な、何?」「ちっ」


「小六さん話が違います!」「そうです!お話だけのはずです!」


「え、えと、その、小六姉さんは卑怯だと思います」


 そこには仁王立ちする二人の女性とその後ろから控えめに顔を出している女性がいた。

 長姫と犬千代、寧々の三人だ。


「そもそも小一さんと一緒だから遠慮したのです。それなのに」


「おかしいと思ったんです。畑で会った時にいつもならしつこく食らいついていたのに」


「小六姉さんは寧々に嘘を付いたんですか?」


「ふ、うるさいねぇ。あたしは機会が有ればそれを掴み取るのさ!」


 あ、小六の奴開き直った!


「きー。小六さんその態度は」「あたし達を差し置いて」


「小六姉さんはそんな人だったんですね」


「あー、もう、うるさい。うるさい!」


「うるさいのはお前らだー!」


「あんたが一番うるさいよ!」


 ポカッと頭を叩かれた。振り向くとそこに。


「あんた達今何刻だとおもってんだい!いいから早く部屋に帰っておやすみ!」


「「「「はい!」」」」


 母様の号令に四人はそれぞれの部屋に戻って行った。早いなあいつら?


「あ、あのおっ母?」


「藤吉も疲れてるだろ? 早く休みな」


「……はい」



 この屋敷で母様に逆らえる者はいない。



お読み頂きありがとうございます。


誤字、脱字、感想等有りましたらよろしくお願いいたします。


応援よろしくお願いします。


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