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藤吉郎になりて候う 〜異説太閤紀~  作者: 巻神様の下僕
第四章 群雄蠢き候う
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第七十三話 家に帰りて候う

まったり四章です。

 弘治から永禄に。


 年号も代わったのでこれからはゆっくりしたい所である。

 しかし、俺達右筆衆にゆっくりとか、まったり等の言葉は存在しない!


 奇妙丸様の尾張守就任イベントを無事終えてもイベントは続いている。

 そう、山科卿の接待イベントだ!

 お使い山科卿は信行のクーデター騒ぎから半年近くも尾張で足止めされていた。

 本来なら京に戻らないといけないのに!


 この人は事の顛末を見届けるまで残ると明言されて津島で豪遊されていたのだ。

 その支払いは当然織田家に押し付けられた。

 帰りに山科卿は『お世話になったでおじゃる』と軽い挨拶をして帰って行った。

 大量の借用書を残して………


 その資金の確保に奔走する右筆衆。

 本来なら勘定方の仕事なのだが、勘定方は勘定方で支払いに四苦八苦している。

 それだけではない。関所の廃止や熱田加藤家に対する支払い等、仕事は山積みだ。


 資金の方は領地没収になった林家から手に入った。

 林家は前々から今川と繋がっていたようでかなりの資金が手に入った。これで財政は立て直せる。後、山科卿の作った借金も。

 そして資金が手に入れば次は資材の確保だ。

 燃やしてしまった大高城の再建や、鳴海城の修復等に資材が必要だ。

 これには津島、熱田両方に依頼を掛けて資材確保をしてもらっている。


 それだけではない!


 先の戦は桶狭間山の近くであった為に『桶狭間合戦』と呼ばれている。

 その桶狭間合戦に勝った織田家に近隣の大名や国人衆に寺社勢力等がひっきりなしに挨拶に現れて、その対応にも追われていた。

 今川に勝つという事がどういう事か分かる出来事だ。


 そしてこれは織田家が近隣諸国に認められた証拠なんだが、それもいいけど誰か代わってー!

 本当にこの三ヶ月間は倒れんるじゃないかと思うことしばしばである。

 しかし何とか持ちこたえた。


 そして俺はやっと家に帰る事が出来る。


 この三ヶ月の間、俺は一切家に帰っていない。

 仕事が忙しかった事もあるがそれだけではない。

 今家には『今川 長得』と『蜂須賀 小六』、『前田 犬千代』に『浅野 寧々』の四人が居る。後おまけで『前田 利久』が。


 今川長得は今川家の姫様で元今川家当主でもある。

 彼女は何らかの取引の末に俺の屋敷に預り処分となった。

 何の取引をしたのかは俺は知らない。

 しかし市姫様が大層ご立腹あそばしたそうである。


 その今川の姫様が俺の屋敷でどのように過ごして居たのか?

 犬千代に聞こうにも城では全然会えず、寧々も同様だ。

 小六は混乱している美濃の様子を調べる為に美濃と尾張を行ったり来たりしている。当然会えていない。

 そのため、たまにやって来る小一に聞く事にした。


 ちなみに小一は足軽組頭となって俺に代わって蜂須賀党三百とそれとは別に二百人の足軽達を統率している。

 まだ二十歳前の小一ではあるが『前野 長康』のフォローもあって何とかやっているようだ。

 出来る弟を持って俺は大変嬉しい!

 その出来る弟の報告によると………


「長姫の世話はおっ母がしてるんだ」


「おっ母が!」


「おっ母は長姫に行儀作法や和歌や詩を習ってんだ」


「行儀作法に、和歌に詩?」


「おっ母は楽しそうにやってるよ。朝日も習ってんだ。とも姉さんは苦手にしてるけどね」


「そ、そうか」


 母様が行儀作法に和歌なんて、………想像出来ない。


「それでおっ母は姫様に何か粗相してないだろうな?」


「それなんだけどさ。おっ母が教えてもらってばっかじゃ悪いってんで」


「悪いってんで?」


「姫様と一緒に畑をいじってんだ」


「のおおおおおおお━━━━━━━」


「兄者! 落ち着いて」


 小一は俺の事を兄さんから兄者と呼ぶようになった。

 それはどうでもいい!

 姫様に農作業だって!


「おま、お前、これが落ち、落ち着いていられるか! 相手は名門今川の姫様なんだぞ! その姫様に農作業なんて、お前これが周りに知れたら」


「兄者! 大丈夫だから。姫様はおっ母と楽しそうにしてるから、無理矢理やってるわけでも、嫌々やってるわけでもないから」


「本当か?」


「本当だよ! とも姉さんや朝日と一緒にやってんだから。後、小六姉さんや犬千代さんに寧々ちゃんもやってるよ。利久さんは嫌々やってるけど」


 母様凄すぎだよ。

 姫様相手に農作業なんてあり得ない。

 それに小六達も付き合わせてるのか。

 利久のやつは嫌々やってんのか?

 あいつ最近城に来ないと思ったら家の屋敷でサボってやがったのか。

 後で勝三郎と一緒に絞めてやろう!


「あ、それでこれ。おっ母から兄者に」


 小一は俺に文を渡す。

 その文には………


「藤吉。仕事大変だろうけど頑張ってな。家の事は心配いらん。おっ母がちゃんと皆の世話をしとるから何も心配せんで仕事に専念してな。体を壊さんようにちゃんと食べて、ちゃんと寝るんだよ。あんたは直ぐに無理するからおっ母心配で心配で。仕事が一段落したら帰っておいで。お前の大好きな『蕎麦がき』作って待ってるからね。おっ母より」(現代語訳)


 おっ母………


 俺は不覚にも涙を流していた。


 その文は拙いながらも暖かみを感じる字で書いてあった。

 多少間違えて訂正した跡が有ったがそれも母様らしいと思った。


 よし、これは俺の宝物だ!


 家に帰ったらあっちの世界の物と一緒に大切に保管しよう!


「ありがとな小一」


「いいって兄者」



 そして、今俺は屋敷の前に立っている。

 門番はいつもの二人だ。


「「お帰りなさい 大将」」


 もう突っ込むつもりもない。だって俺、足軽大将だし。


 門をくぐって直ぐに庭に向かう。

 小一が言ったとおりなら、今頃は皆畑に居る筈だ。


「あ、お兄ちゃん!」


 庭に向かうと真っ先に気づいたのは朝日だった。


「「藤吉様!」」


 そして、頭に手拭いを巻いている犬千代と寧々。


「あなた~」


 俺に気づいて駆け寄って来る小六。

 それをいなしておっ母の所に行く。


「あんた小六にもっと優しくしたらどうだい」「そうだぞ藤吉」


 とも姉さんと弥助さんは相変わらずだ。


「ただいまおっ母」


「お帰り藤吉」


 俺は優しくおっ母を抱き締める。

 土の香りのする髪に顔を埋める。


 ああ、俺は帰って来たんだ。


 俺を迎えてくれる暖かい家族の居る所に………


 そして、新しい家族?がそこにいた。


「お帰りなさい。藤吉」


 土に汚れたその顔に満面の笑みを浮かべた長姫がそこに居た。



お読み頂きありがとうございます。


誤字、脱字、感想等有りましたらよろしくお願いいたします。


応援よろしくお願いします。


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