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藤吉郎になりて候う 〜異説太閤紀~  作者: 巻神様の下僕
第三章 蝮と海道一の弓取り
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第六十一話 謀を仕掛け候う

 なんで酒宴なんてやってんのよ?


 バカなの、ねえバカなの義元さん?


 いやいや、こっちにとっては願ったり叶ったりだ!

 貴重な時間を稼ぐ事が出来た。

 これは感謝こそすれバカにするのは筋違いだ。


 ありがとう、バカな義元さん!


 さてと、とにかく義元の本隊は岡崎でゆっくりしている。

 それなら俺達は準備万端調えてオモテナシをしようじゃないか。

 どうやら義元の本隊は止まっているが、先発隊は沓掛城の近くに来ているそうだ。

 その数約三千。

 ちょうどいい数だ。

 多すぎず少なすぎず、手を出したくなる数だ。

 今川勢の全体の十分の一の数。


 これを俺達は『殲滅』する!


 とは言ってもそれは策が上手くいったらの話だ。

 だが初戦を勝利で飾るのは士気を保つ為には必要だ。

 上手く先発隊を叩いて義元の本隊を引きずり込み援軍を待つ。

 俺達の基本方針。

 それを行う為には『織田兵強し』のイメージを植え付けなくてはならない。

 どんな形であれ今川勢を倒す。

 それが大事だ!


 さあ、第二段階だ。


 俺は山口教吉と大高城に向かった。

 連れて行く兵は百もいない。

 その代わり大量の荷物を運んでいる。

 荷物は熱田加藤家から運んでもらった物だ。

 この策の絶対に必要な肝の部分だ。


「鳴海城城主山口教継の息子教吉だ。開門願いたい」


 教吉の声に大高城の城門が開かれる。

 なんで簡単に城門が開いたのかって、それはね。

『山口親子は今川に寝返ります』との文を大高城に届けたのさ。

 その後文のやり取りを何度かして、こうして直接大高城に挨拶する運びになったのだ。


 この大高城の城主は朝比奈何とかさんだ。

 よく知らない名前なので覚えなかった。

 それに俺の知っている朝比奈さんは『朝比奈 泰朝』だ。

 今川家の重臣でおそらく今回の戦にもついて来ているはずだ。

 その朝比奈さんじゃないので大した事ないだろう。


 その証拠にこうして俺達を無造作に城に入れてくれるのだから。

 上がバカだと下もバカになるらしい。

 仕込みが楽に出来て俺達は助かる。


 教吉は朝比奈さんと話をしている。


「よくぞ参られた。治部様もお喜びなさるでしょう」


「返事が遅れたこと、誠に申し訳なく」


「何の何の、突然の出兵で我らも混乱しておりました。あなた方も聞かされてなかったはず。さぞ混乱なされたでしょう」


「正直申し上げて、我らを信用なさっていないのかと思いましたが、治部様の直接の文を頂きその疑念は晴れもうした。これよりは我ら今川の将として働かん」


「それは誠に頼もしい。して今回持参なさった荷は何ですかな?」


「実は内応するにあたって手柄の一つでもと思い、熱田の加藤家を調略致しましてな」


「なんと! 加藤家を」


「これは加藤家よりの品でして『酒』をお持ちしたのです」


「おお、これはこれは」


「これから遠路駿河から参った皆々様を歓待するのに必要かと思いまして、鳴海は敵の前ですから大高で飲むのが宜しかろうと」


「確かに。明日には先発隊がこちらに参りますからな。その時にお出ししましょう。何、治部様も戦の前の酒宴はお許しなさっております」


「左様ですか。それは良かった」


 本当に良かったよ!


 やっぱりバカな上役の下はバカなんだな。

 本当なら沓掛まで持っていこうかと思っていたが、これならこの大高で足止めが出来そうだ。


 俺達は荷を下ろしてさっさと大高を出ていった。

 そして何名かは城を見張る為に残した。



 そして、翌日には今川勢の先発隊が大高城に入った。

 斥候に残した者の報告によると先発隊の将は『岡部 元信』だった。

 この岡部は今川では有名な武将だ。

 着実に命令をこなし武勇を持ち、また忠義の人で知られている。

 史実では桶狭間で義元が討たれた後も、義元の首を取り返す為に戦い続けた人だ。


 俺は先発隊を率いていたのは『松平 元康』だと思っていた。

 元康は後の『徳川 家康』だ。

 出来ればこの機会に殺しておきたい人物だが、違うのならしょうがない。

 今回の生け贄は岡部さんだ。


 更に斥候の報告によると先発隊は大量の荷を運んでいた。

 おそらく兵糧だろう。

 史実でも大高に兵糧を運び入れている。

 ほぼ間違いないだろう。


 良し! ここまでは予測通りだ。


 兵糧を運び入れた先発隊を大高城ごと攻め落とす!

 先発隊を倒し更に兵糧を奪い取るかもしくは焼き払ってしまえば、後は時間が何とかしてくれる。


 俺と勝三郎は連れてきた兵二千をもって大高城に夜襲を仕掛けた。

 斥候の報告では大高城は酒宴をしており、今はグースカ寝ている。

 見張りも少ない。

 これなら上手くいく。

 俺達はなるべく音をたてないように大高城城門に向かった。

 深夜の中、月の光と城の篝火を頼りに城に取り付く。


 勝三郎の合図で塀を乗り越え城内に入る。

 大高城の堀と塀はそれほど高低差はなかったので梯子を掛けて一気に城内に突入する。


 するとそこには…… 兵の姿はなかった。


 グースカ寝ているはずの兵達がいないのだ。

 この大高城はそれほど大きな城ではない。

 元々の守備兵を合わせると四千の兵がいるはずだ。

 そして四千の兵が全て城の屋敷で寝泊まりはできない。

 あぶれた兵達が城内で寝ているはずなのに、その兵がいないのだ!


「しまった! 罠だ!」


 勝三郎の声に俺も自分達の置かれた状況を理解した。

 そして突然、太鼓の音が響くと城門が開かれる。

 そこから今川の兵が入ってくる。


 俺は今川を嵌めたはずが、自分達が今川に嵌められたのを知った。


お読み頂きありがとうございます。


誤字、脱字、感想等有りましたらよろしくお願いいたします。


応援よろしくお願いします。


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