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第六話 若返りて候う

「な、なんだ、なんだ。どうした!?」


 自分の顔を見て絶叫した私に利久と犬千代が近寄ってくる。


「あ、いや、何でもない。何でも」


 私は直ぐに何事もないように顔を洗い始める。


「何でもなくないだろうが、どうした?」


「そうです。びっくりして心の臓がバクバクしてます」


 犬千代が自分の胸の辺りを両手で押さえている。


「ぷ、ぷふ、心の臓とか。ぷぷ、何をオナゴらしいことを。ぶははは」


 利久は犬千代を見て笑い出した。


「何ですか兄上!犬千代は女です」


 それを聞いて利久は更に大きな声で笑っている。


「ぶは、ぶひゃひゃひゃ、女ときたか。日頃はオナゴ扱いするなと言うお前が、女とな。だ、ダメじゃ、もうお腹が、ぶふ、ぶははは」


「あ、に、う、えー」


 耳元を真っ赤にした犬千代が利久に詰め寄る。


「い、いかん。稽古の続きじゃ、続きをせんと」


 そう言うと利久は脱兎の如く庭に逃げ出した。


 おーい、私を置いていくなー。


 一連の流れに着いていけなかった私に犬千代がそそと近寄る。


「まったく兄上は。それはそうと藤吉殿。大丈夫ですか? あのような大きな声を出して?」


 近くで小首を傾げ右手を添えたその佇まいはたいへん可愛いらしい。


「いや、その。そう!蜘蛛を見ましてびっくりしたのです。実は私は蜘蛛が苦手なのです。利久には内緒ですよ」


 人差し指を口元に持ってきてナイショのポーズを取る。

 すると犬千代も私と同じようなポーズを取り小声で返す。


「まぁ、分かりました。兄上には内緒にします」


 笑顔を向ける犬千代。

 その顔はいたずらっ子のように見えた。


「おーい、飯まだかー。腹減ったぞ~」


 庭で様子を伺っていたのか利久は?


 妹の機嫌が直ったのを見越して声をかける利久。

 中々の策士だな。


「もうすぐ出来ます。兄上。椀を出してください」


「ほいきた」


 犬千代の返事に即座に反応する利久。

 そして私の近くに来たとき小声で囁く。


「後で訳を聞かせろよ」


 さっと隣を通る利久に私が振り返ると彼はニヤニヤと私を見ていた。

 なんとも捕らえ所のない御仁だ。

 そして、三人仲良く朝食を摂ったのだった。



 朝食を摂り私は後片付けを犬千代としていた。


 頭の中はなぜ自分の顔が若返っているのかということでいっぱいであった。


 顔だけか? 体も若くなっているんじゃないのか?

 それに、一体いつからだ?

 この数日の間か?

 それならこの数日長い時間私と一緒にいた犬千代が気づくだろう。


 私は犬千代をじーっと見つめる。


「な、何ですか。何か付いてますか?」


 顔を赤らめる犬千代、……可愛い。


「いや、可愛いなと思って」


「へ、は、あ、あの、あの」


 狼狽える犬千代はますます可愛い。

 は、思ったことを口走っていた。


 犬千代は顔を赤らめてそそくさと出ていった。


 ぺこりと頭を下げる犬千代、……可愛い。


 さて、一人になった所で一旦整理しようか。

 何せ昨日は利久がうるさくて考え事が出来なかったからな。

 昨日、利久が気がついた後はそのまま私の部屋に泊まったのだ。


 『何処から来た。どこの生まれだ。親は。兄弟は。俺と兄弟にならんか?』等、最後らへんは何を言っているんだと思った。

 酒も飲んでないのに酔っているんじゃないかと思った。


 とりあえず曖昧に答えていた。


 城でも聴かれたのだが。


 まず、生まれは尾張の何処かということにした。

 物心つく前に尾張を離れたとし親が行商をしていたことにする。

 最近、両親を流行り病で亡くし生まれ故郷の尾張に帰ってきたと苦しい言い訳をした。

 持っていた荷物や衣服に靴は親が南蛮と取引して手に入れたことにした。

 詳しいことは自分も知らないと言ってある。

 これも苦しい嘘だ。


 ひとまずこんな感じにしてみた。

 うるさく聞かれるとボロが出るかもと思っていたが、あまり詮索されることはなかった。


 ただ一つを除いて。


 それは歳を聞かれて答えたときだ。


 三十路過ぎだと答えると羨ましそうな顔と、何を言っているんだと言う顔をされた。

 市姫からは若いなと言われ犬千代からはそう見えないと、利久には嘘をつくなと怒鳴られた。


 ちなみに利久と私はため口だ。


 よそよそしい口調や殿だの様だの付けられると背中が痒くなるそうだ。

 それならばと私も硬い口調は苦手だ。

 芝居は好きだが四六時中はきつい。


 私と利久は友人に成ったのだ。


 この時代この世界での初めての友人だ。


 大事にしようと思う。

 しかし、イビキがうるさい。

 明日からは口に何か詰め込もうと思う。


 それはさておき。


 確か勝三郎も私と同じ歳ぐらいと言っていた。

 若返りは城に入る前か?

 ならこちらに来た時からなのか?


 うーん、う~ん、わからん!


 考えてもわからんもんはわからん。


 しょうがない。

 歳は見た目に合わせよう。

 その方が良いだろう。

 変に拘るより良いだろう。


 それに物は考えようだ。

 思いがけず若くなったのだ。

 儲けもんと考えよう。


「おう、行くぞ藤吉」


「さ、城に向かいましょう。藤吉殿」


 私が思考していると利久と犬千代が戸を開けて声をかけてくる。


「おわ、突然開けるな。びっくりする」


「何言ってやがる。何度も呼んだぞ。なぁ?」


「何度も呼んでません。一度だけです」


 犬千代に確認を取る利久。


 本当の事を言う犬千代と狼狽える利久。


「ば、ばか。そこは合わせろ犬千代」


「ばかは兄上です。さ、ばかな兄上は置いて行きましょう、藤吉殿」


 私の手を取り歩き出す犬千代。


「おま、待て待て犬千代。置いて行くな。藤吉。俺も連れてけ」


 慌て追いかけてくる利久。


 この二人のおかげで悩みが薄れる。

 本当にありがたい。

 さぁ、いざ清洲城に。


 初仕事が待っている!


お読み頂きありがとうございます。


誤字、脱字、感想等有りましたらよろしくお願いいたします。


応援よろしくお願いします。

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