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藤吉郎になりて候う 〜異説太閤紀~  作者: 巻神様の下僕
第三章 蝮と海道一の弓取り
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第五十九話 交渉事は得意にて候う

 俺と勝三郎は加藤家に来ていた。


 目の前には『加藤 図書助 順盛』が居る。


『熱田は今川に合力する』

 加藤順盛は開口一番、そう告げた。

 ここでの交渉事は上役である勝三郎の役目だ。

 俺はあくまでも補佐役に徹しないといけない。

 勝三郎に話をさせて俺が交渉の取っ掛かりを見つける。

 役割分担をはっきりしておく事は大事な事だ。

 特に話を聞いてくれない交渉相手とは。


 しかし、俺が想像していた感じとは違っていた。


 てっきり門前払いを食らうのかと思っていたが、そうではなかった。

 意外にもすんなり中に通したし、待たせる事なく会ってももらえた。

 まあ、最初から断り文句を言われるのは想定していたのでそれはいい。

 だが、話をする場を設けてもらったと言う事は少なくともこちらの話を聞く気は有ると言う事だ。


 これなら行ける!


 俺はそう思った。

 だが、勝三郎と順盛の話は平行線をたどっていた。


「何度も言いました通り、織田家に合力する事は出来ませぬ」


「我ら織田家が今川に勝てぬと、言いたいのか!」


「有り体に言えば、そう言う事ですな」


 違った。

 端から話にならなかった。


 ふぅ、これは容易じゃないな。


 順盛の判断は正しい。

 織田家に味方しても今の状態では今川を押し返す事は出来ない。

 よほどの幸運が続かないと無理だ。

 まずは斎藤をこちらがほぼ無傷で追い払い。

 そして今川を鳴海近くで押し止めて要るうちに、その無傷の兵力で援軍に来てもらいそのまま野戦決戦に持ち込む。

 その野戦で織田家はある程度の犠牲を払って今川を撃退する。


 うん、無理だ。


 つらつらと勝利条件を上げてみたものの、到底達成出来るとは思えない。

 しかし、織田家が生き延びる為にはその条件を整える準備をしないといけない。

 俺と勝三郎の役目は今川の足止めだ。

 その為に熱田の力が必要なんだ。

 いっその事俺の策を話してみるか?

 いやいや、話をして断られた上に今川にこの策の内容を伝えられたら俺達はおしまいだ。

 だが、この策はそもそも熱田の力を借りないと成立しない。

 まあ、物は熱田でなくても用意は出来るのだが、俺達が必要なのは『熱田の物』である必要があるのだ。


 さて、どうするか?


「今川に合力しても、織田家の時より酷くなる可能性もあるのではないのか?」


「今川様は左様な事はないと約束してくれました。すでに禁制(銭)を支払う用意も出来ておりますれば」


 禁制を支払う?


 そうか、まだ禁制を支払うまでは行っていないのか。

 なるほど、順盛の考えが分かった!

 順盛はギリギリまで織田家と今川家を天秤に掛けているのだ。

 俺達と話をしているのは織田家が勝った場合の保護以上の何かを引き出す為だ。

 なるほど商人として抜け目がない。

 しかし俺達の手札は従来の保護と関所撤廃に守護不入の約束だけだ。


 他の手札はない。


「津島は堀田家を中心に我らに協力してくれる。それは我らが勝てると思っているからだ。そこに熱田の協力が有れば勝利は約束されたも同然」


「津島の堀田家が協力しようと我らには関係ござりませぬ。それに堀田家は我らの商売敵。今川様が勝てば堀田家は大損どころか。御家をなくしましょうぞ。ハハハ」


 ダメか~~。


 勝三郎の説得方法は間違っていない。

 曖昧な答えを出すよりもハッキリとした内容を伝えるのが一番分かりやすいし、納得も得やすい。

 しかし、商売敵か。

 津島と熱田は織田家の傘下に入って保護されてきたが、津島の方が熱田よりも活気があったな。


 加藤家と堀田家は商売敵。


 織田家が勝った場合は熱田加藤家は冷遇はされないだろうけど、今まで通り。

 対して堀田家は更に繁栄していくだろう。

 今川が勝った場合は逆になる。

 最悪堀田家は無くなってしまうのかもしれない。


 そうだ、堀田家が無くなったら俺の借金も消えるな!


 信行のクーデター以後は銭が無かったから、堀田家から借銭してたんだよな。

 後で平手のじい様に言って払ってもらうつもりだったけど、織田家が消えたら借金が残ると思っていたけど、堀田家も無くなるならそれも良いな。

 でもその場合、俺は死んでるんだろうな。


 しかし、商売敵か?


 待てよ。

 確か駿河に有名な豪商が居たような……

 う~ん思い出せない。

 分からない時は聞くのが早いな!

 順盛なら知っているだろう。


「順盛殿。私から一つ聞きたい事が有るのですが?」


「うん、何ですかな?」


「今川の御用聞きの商人は何と言いましたかね?」


「今川の商人? ……友野でしょうか」


 あ、思い出した!

 そうだよ、確か友野って名前だった。


「そうでした。友野、友野、友野何でしたかな?」


「友野二郎兵衛ですな」


「そう、そう、友野二郎兵衛」


「その友野が何でしょうか?」


「いや、その友野二郎兵衛は今川の御用聞きでしょう。ならば今川が尾張を取ると、当然友野もこの尾張の商人を束ねる事になるのではないかと?」


「それは、……そうでしょうな」


「であれば、友野は加藤家にとって商売敵と言えますな」


「それは無論の事。何が言いたいのですかな?」


「友野は今川の御用聞き。その友野にとって既存の尾張の商人は邪魔でしょう。私なら………」


「私なら、何です?」


「皆まで言わなくても分かりましょう」


 ここまで言って分からない筈がない。

 順盛は黙りこみ、考えこんでいる。


『おい、藤吉。どういう事だ』


 小声で話かける勝三郎に俺は答えた。


『つまり、加藤家も堀田家と同じになるという事だ』


『そうなのか?』


『そうだよ』


 勝三郎はいまいち分かっていないようだ。

 まあ、武士の考え方なら簡単に切った張ったすればいいからな。

 いまいち理解出来ないのかもしれない。


「木下殿は我らが堀田と同じになると言いたいのですかな?」


 ほら、もうわかってる。


「加藤家は熱田の豪商です。どうなるかなど」


「……そうでしたな。どうやらそれを失念しておりました。今回の事で堀田家に勝てると思い、周りを見るのを疎かにしていたようですな」


「で、あるならば」


「仕方ありませんな。どうやら織田家に張るしかないようですな」


 よっしゃー!


 熱田の豪商加藤順盛は俺達織田家に合力する事を約束してくれた。

 もちろん、ちゃんと証文を書いて貰った。

 これで加藤家は俺達と一蓮托生だ。


「して、合力するにして兵だけとはいきますまい。我らに何を用意せよと」


 さすがに名の有る豪商は話が早い。


 俺はさっそく『それ』を用意してもらえるように頼む。


「これを用意すればよろしいので?」


 順盛は多少呆れていたが直ぐに用意すると約束してくれた。


 良し! これで第一段階はクリアだ!


お読み頂きありがとうございます。


誤字、脱字、感想等有りましたらよろしくお願いいたします。


応援よろしくお願いします。

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