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藤吉郎になりて候う 〜異説太閤紀~  作者: 巻神様の下僕
第三章 蝮と海道一の弓取り
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第五十七話 市姫の夜這いにて候う

 俺はいつも寝るときは灯を灯したまま寝ている。


 こっちの世界の闇はあっちよりも濃いのだ。


 日が落ちて暗闇が辺りを包むと目が慣れないと一メートル先さえ見えない。

 その代わり灯を灯すと辺り一面を照らしてよく見える。

 こっちに来て明らかに夜目が効くようになっていた。

 しかし、夜の闇はとても怖いのだ。

 これはもう生理的なものかもしれないが我慢できない。

 もっとこの世界に居れば慣れるのかもしれないが、今はどうしても灯りがないと眠れない。

 その為、油の量を減らした灯りを灯して寝ている。

 灯りは俺が寝ている間に消える。


 なんとも贅沢な眠りかただ。


 利久や犬千代に注意されたがこれだけは譲れなかった。

 そして、今日もいつものように灯りを灯して寝ていた。

 そこに予期しない来訪者が現れたのだ。

 来訪者は俺が灯を消すのを忘れて寝ていると思い、俺を起こそうと呼び掛け体を揺すってきた。

 そして俺は来訪者が誰かを確認せずに眠りを邪魔されたと思い、邪険に扱った。


 つまり手で払い除けたのだ。


「きゃ」


 その声は弱々しくか弱い声だったが聞き覚えのある声だった。

 寝ぼけた頭で声の主を検索する。


「う~ん、うん!!」


 俺はガバッと上体を起こして声のする方に顔を向けた。

 そこには、やや体勢を崩してしなをつくっていた女性が居た。

 薄着をしていて体のラインが分かる格好だ。

 乏しい灯りに照らされたその姿は怪しい美しさを俺に見せた。

 足元から腰周りそして胸元を見てから顔を見て、俺は思わず後ずさった。


「ひ、姫様!?」


 俺の目の前に居た侵入者は市姫様だった。


 え、なんで市姫様がここに?


 それにその格好は?


 俺は唾をゴクリと飲み込む。

 市姫様に聞こえるんじゃないかと思うほど大きな音がした思う。


 まさか、その、いやいや、そんなはずは。


 これはまさか、そ、そうなのか!


 よ、よ、「夜這いですか!」


 おわー、まずい。まずい。まずい。


 また声に出してしまった。


「夜這い?」


「いえ、違うんです! いや、違わないか。いや、違うんですよ!ほんとに」


 俺は自分でも何を言っているのか分からない弁解をしていた。

 だってしょうがないだろう。

 薄着の女性が年若い男性の部屋に忍び込んで来たら、そう思うに決まっているじゃないか!


 それに信行の日記に書いて有ったあのくだり。


『市の想い人』って書いて有った、あのくだり!


 会ってもなるべく意識しないように努めていたけど、昼間に会ってあの微笑みを見てしまった。

 話が終わった後にどれだけ動揺した事か。

 あ~~思い出したら顔が赤くなってきた。


 いかん、いかん、いかん。

 しっかりしろ俺!


 市姫様がそんな事するはずないじゃないか。

 姫はまだ十五なんだぞ!

 いや、十五って確かこっちでは結婚適齢期のど真ん中じゃないのか?

 いやいや、そんな事考えるな。

 考えちゃいかん!


「クスクス。そうなんです。夜這いに来たんですよ。と、う、き、ち、様」


 そう言って手を付いて這って来る市姫様。

 俺は壁際まで後退する。


「あ、あの、市姫。これはまずいのでは?」


「何が、まずいのです?」


 そんな艶のある声出さないで!


「今は、その、戦の最中で、これは」


「これは? 何ですか?」


「これは、その、だから」


 そして、遂に市姫様が俺の目の前にやって来た。

 俺は壁際に背を預けこれ以上後ろに下がれない。


 これは、やるしかないのか?

 そうなのか?

 しょうがないよな、これは。

 うん、しょうがない。

 しょうがないんだ!


 俺は覚悟を決めた!


「ひ、姫様。うぶ」


 俺が姫様に抱きつこうとすると姫様の人差し指が俺の唇をふさぐ。


「うふふ、冗談です。冗談」


 俺は体から力が抜けた。


「大人をからかわないでください」


「ごめんなさい。藤吉の反応が面白くて、つい」


 ついで、からかった男が俺で良かったよ。

 他の連中の男だったら今頃市姫様は………


「二度としないでください。そうじゃないと」


「そうじゃないと、何ですか?」


「………何でもないです」


 市姫様の瞳が俺を見ていた。

 その瞳は俺の想いを見透かしているようだった。


「意気地無し」


 ボソッと市姫様が何か言った様だが俺には聞こえなかった。


「それで、何の用ですか? 昼間に話した事の確認ですか。それなら明日でも」


「兄上の、信行兄様の事です」


「信行、様ですか?」


「昼間は五郎兄様や、利久が居ましたから。藤吉は兄上の日記を見ているのでしょう。教えてください。兄上の真意を!」


 市姫様は信行の事が知りたかったようだ。

 何でも信行が死ぬ前に少しだけ話をしたものの、信行はただ謝るだけで話らしい話をしていなかったそうだ。


 なんかホッとしたような、残念なような?


「分かりました。私が知り得た範囲でお教えします」


 俺は市姫様に日記に書かれていた事を教えた。

 土田御前や明らかに教えてまずいと思った事の話はしなかった。


 その日俺と市姫様は夜が明けるまで話をした。


 その事が、その後騒動の元になったのだが俺は逃げるように犬山城を去った。


 思わぬ事で時間を割いてしまった。


 俺は急ぎ目的の場所に向かった。


 勝三郎の待つ『熱田』に



 ※※※※※※※


 熱田の加藤家の屋敷にて二人の人物が向かい合い話をしていた。


 一人は『池田 勝三郎 恒興』


 一人は『加藤 図書助 順盛』


 熱田加藤家は熱田商人の中でも有数な豪商である。

 勝三郎は加藤家に織田家の合力を願いに来ていた。


「では、どうあっても合力願えぬと!」


「我ら加藤家、いや熱田商人は織田家とは商売出来ませぬ」


「織田家は熱田をこれまで手厚く保護してきたのですぞ」


「それは過去の話。私どもは今、明日の話をしているのです」


 熱田は織田家の保護を受けてその勢威を保って来ました。

 津島ほどでは有りませんが、熱田はそれなりに織田家に対して恩があります。

 しかし、先の織田家の内紛の影響が熱田に影を落としたのです。


「織田家はこれからも熱田の保護を約束すると、このように書状も有り申す。それでもですか?」


「池田様。我らはすでに決めておるのですよ」


「決めている? 何をだ!」


「我ら熱田は、今川につき申す」


「バカな!」


 熱田は今川に合力する。


 それは織田家の、藤吉の立てた計画を狂わせるものであった。



タイトル詐欺で申し訳ありません。


誤字、脱字、感想等有りましたらよろしくお願いいたします。


応援よろしくお願いします。


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