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藤吉郎になりて候う 〜異説太閤紀~  作者: 巻神様の下僕
第二章 尾張動乱にて候う

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第五十一話 清洲に向かいて候う

 弘治四年 三月某日


「斎藤山城守動く!」


 これを俺は待っていた。


 ごく自然に兵を集めて疑われないようにする為には、外敵が攻めて来るのが理想的だ。

 尾張を攻めて来るのは実質二勢力しかいない。

 美濃斎藤と駿河今川だ。

 ではどちらに攻めて貰えるのが良いのか?


 駿河今川は駄目だ!

 史実同様に最大兵力で攻められてはクーデターを起こす所ではない。

 三万の大軍を相手など出来ない。


 一方で美濃斎藤はどうか?

 こちらが狙い目だ。

 最大動員数は約二万。

 そして周りは敵だらけで兵力を集中出来ない。

 せいぜい出せて一万未満だ。

 これは小六に聞いて確かめさせたから間違いない。


 そこで小六と小一、蜂須賀党と津島商人を使いました。


 斎藤家の家臣達に『尾張は統一されたばかり、そこに陣代や後見人が軟禁されている』という織田家のシークレット情報を少しずつ流したのだ。

 噂の流し方はそれぞれに任せた。

 とにかく今川家よりも早く斎藤家に動いて欲しかった。


 津島の堀田家に厄介になっていた時にさんざん考えた策だ。

 期限は年明けの三月まで。

 今川は田植えを終えて早くとも六月には侵攻して来る。

 これはほぼ間違いない。

 今川家ほどの大大名の戦仕度はかなり時間が掛かるようで、その情報はほぼ筒抜けのようだ。

 年明けから準備をしている事が道空殿の報告で分かった。

 今川家の動きは掴めていた。

 後は斎藤家を動かす方法を考える。


 今川が攻めて来る前に斎藤家を動かす策。

 発案は小六、それに修正案を出したのが俺だ。

 そして小六から斎藤家に関する有力情報が出てきた。

 小六は斎藤家が近々割れると言った。


「斎藤山城は、息子義龍と上手くいっていない。もしかしたら、もしかするかも?」


「なるほど、それは使えるかもしれない」


 史実においては既に斎藤山城は死んでいる。

 義龍による謀叛でだ。

 しかし、こっちの斎藤山城はまだまだ現役だ。

 だがちゃんと火種は残っていたようだ。


 その火種に火を点ける!


 義龍に対する工作は小六に一任した。

 どうやら旧知の仲らしく直接話が出来るらしい。

 しかし義龍の工作は出来たら良いな程度の物だ。

 期待はしていない。

 小六もあまり自信がないと言っていた。


 この斎藤山城の出兵が義龍にどう影響するか分からないが、まずはこちらの予想通りに動いているようだ。

 そして、予想外な事も起きていた。


「斎藤方の兵は一万を超えています」


 な、それは本当か?

 これはヤバいのでは?

 しかし後には引けない。


 俺は荒子から古渡に急いで戻る。

 古渡城では清洲からの出兵依頼が出されていた。

 おそらく同様の知らせが尾張中に出されているはずだ。

 これで大手を振って兵を動かせる。

 ちなみに信広様の軍勢は清洲の防衛を任される事になった。

 信行が兵を連れて出ている隙に清洲を乗っ取るのがこの策の胆だ。


 清洲の人質を解放出来れば後はこっちの物だ。


 津島から小六率いる援軍と合流してそのまま信行勢を追いかけて後ろから不意討ち。

 平手と池田、佐久間と前田の裏切りは約束されているので勝利は疑いようもない ……はずだ。

 その後は全力で斎藤家を迎え撃つ。

 一月ほど粘れば田植えの時期だ。

 斎藤家は戻らざるをえない。

 最悪、城の一つ二つは持っていかれても仕方ない。

 まずは織田家を一つにするのが急務だ。

 今川と戦う為に必要な事だ。



 俺は信広様と供に清洲に向かった。


 信広様とはあの賭けから親しくなった。

 信広様は酒はあまり飲まないようで茶の相手をさせられる事に、そこで織田家の兄弟間の愚痴を聞かされた。


「我は織田家の長子であったから、何かと弟や妹の世話をやらされた」


「それは大変ですね。私も弟や妹がいましたから分かります(相手をしたことはない)」


「そうか! お主もそうか」


「はい(全然相手をしたことはない)」


「ふぅ、信行は小さい頃から母にベッタリでな。いや、母土田御前が信行にベッタリであったな」


「それはまた」


「そしてまた可愛くないのだ信行は。何かにつけては自分は正室の子だと言ってな。我の事は兄弟と認めんと言って拒絶されたのだ」


「そうなのですか?」


「ああ、我は信行の事は好きではない。しかし、信長は違ったな」


「どう違いますか?」


「信長も生意気であったが、筋は通していたな。公では君と臣ではあったが、私事では兄弟であったよ」


「そうですか。仲がよろしかったのですか?」


「いや、仲が良かった訳ではないな。まあ、信行よりはましだったというだけよ。しかし、信長の、あいつの話は面白かった。尾張を自分の物にするにはどうしたら良いかと熱く語っておったよ」


 信長が熱く語っているのを信広はうんうんと頷きながら聞いていたようだ。


「信長が死んで市が陣代になった時は驚いたが。もっと驚いたのは尾張を統一してしまった事だ。まさか市がやってしまうとはな。驚きもしたが同時に笑いもした。信長の見る目の正しさよとな」


 信広様は嬉しそうに話してくれた。


 そして今も清洲に向かう先で信広様と語っている。


「信長が信行では駄目だと言った訳が今回の事で分かった。やはり信長は正しかったのだ。信行に任せては尾張はおしまいよ」


 誠にその通りです。


「藤吉よ。共に市を救い。信行を討とうぞ!」


「はい。私も微力を尽くします」


 決意を新たに清洲に向かう。


 待っていてください市姫様。


 今、お助けしますよ!


 そして清洲に着いた俺達を待っていたのは……



 清洲に残っていた『織田 信行』であった。



お読み頂きありがとうございます。


誤字、脱字、感想等有りましたらよろしくお願いいたします。


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