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藤吉郎になりて候う 〜異説太閤紀~  作者: 巻神様の下僕
第二章 尾張動乱にて候う
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第四十九話 準備は整いて候う

 弘治三年が明けて、弘治四年を迎えた。


 この年、元号が永緑に変わる。

 後奈良天皇が亡くなり正親町天皇が即位して改元される予定だ。


 実は俺達が上洛した時には既に後奈良天皇は亡くなっていたのだ。

 この時に上洛していた長尾景虎と織田市の寄進によって正親町天皇の即位の目処が立った。

 その為景虎には弾正少弼の位と織田奇妙丸に尾張守の位が与えられた。

 こういう言い方はよくないが織田家にとってとても幸運だったと言えよう。

 そして本来天皇即位の資金を用立てた大名は、その恩恵を受けれない事になる。


 その大名の名は『毛利 元就』だ。


 謀神とも謀聖とも呼ばれる中国地方の覇者だ。

 歴史好きの俺にとっては是非会ってみたい武将の一人だ!

 後、敵に回したくない相手だ。


 今回の即位資金の件はまったくの偶然だ。

 これで恨まれたくはないが多分大丈夫だろう。

 なんせ史実では正親町天皇は三年も即位出来なかったのだ。

 その間誰も即位に資金を出していない、と思う。

 実際は色々と動いて資金を集めたのだろうが、俺も詳しいことは知らない。

 だから、大丈夫だ。


 ……多分。



 年が変わっても俺は古渡城にいた。

 正確にはあの交渉から俺は古渡城に留め置かれていた。

 俺に逃げ出されては困るからだ。

 古渡城にいる間は客将扱いだ。

 贅沢は出来ないがそれなりに遇されていた。


 体のいい軟禁である。


 この軟禁されている間も俺はせっせと文を書いていた。

 平手、佐久間、前田、池田等の市姫派の家臣達にだ。

 当然俺の名前じゃない。

 勝三郎と平手のじい様と次いでに利久の名前で出しておいた。

  俺はそこまで有名じゃないからな。


『信広様を大将に決起する準備を進めている』と文にしたためる。

 平手と池田は当主不在だが動いてくれそうだ。

 佐久間からは当主である『佐久間 右衛門尉 信盛』から直接書状をもらった。

 同じく佐久間盛重からも送られた。


 問題は前田家だ。


 犬千代が居るにも関わらず文には色好い返事が来ない。

 ただ『荒子に来い』と書かれているだけだ。

 前田家に、犬千代に何か有ったのか?


 文を届けたのは蜂須賀党と堀田家の商人だ。

 当然文を受け取ったのも彼らだ。

 俺は彼らに質問したが、前田家に監視がついているわけではないようだ。

 なら何故だ?

 考えてもしかなたい。

 軟禁が解かれたら一度前田家に向かうことにしよう。


 一方留守を任せた小一からも文が届いている。

 小一は読み書きを習って少ししか経っていないが上達が速い。

 本当に小一は優秀だ。

 それを証明するように俺が頼んでいた事を着実に実行してくれた。

 出来た弟だよ、小一。



 そして、年明けから一月が経とうとしていた。


「約束の三月だな」


「左様ですな」


 俺の前に信広がいる。

 今日は約束の日だ。

 三月前よりも人と物の出入りが少なければ税は減る。

 正月が明ければ確かめるのは簡単だ。


 さあ、返事を貰おうか?


「あれを」


 信広は家臣の一人に返答をさせるようだ。


「は、ではこれを」


 家臣は信広の前に書状を持っていく。


 あ、信広が直接言うのね?


「ふむ、確かに人が少なくなっているな」


 よし、そうだろう、そうだろう。


「商人も例年に比べれば減っております。市も活気が有りませぬ」


 家臣が付け加える。


 当然だ。


「藤吉。その方の言う通りであった。信行の行いは織田家を弱らせる。これでは今川、斎藤に遅れを取ろう」


「では?」


「うむ、約定通り我は立とう! そして信行を討つ」


 よっしゃー!


「お力添え、感謝いたします」


 俺は両手をついて頭を下げる。

 思わず笑みがこぼれた。


 そして、さらに幸運な出来事が有った。


 朝廷の使者がやって来たのだ。

 朝廷の使者は織田家に尾張守の授与をしにやって来たのだ。

 しかし、これを信行側は把握していなかった。


 当然だ。俺達は守護職就任と尾張守の授与を報告していない。


 これには信行達もてんやわんやの大騒ぎ。

 さらにまずい事に、いざ尾張守の授与の段になってから奇妙丸様ではなく信行が尾張守を受けようとしたのだ。

 尾張守を受けるのはあくまでも織田家当主の奇妙丸様だ。

 元服前では有るが陣代である市姫様と後見人である信光様の介添えが有れば問題ないとして、朝廷とは話をつけていたのだ。


 それを信行はぶち壊した。


『自分が織田家当主である』と言い張って奇妙丸を出さなかったのだ。

 朝廷側は困惑。

 信行側は朝廷の使者に詰め寄る。

 本来ならこんな無礼は許されないだろうが、ここは京の都ではない。

 もはや権威が守ってくれる場所ではないのだ。


 しかし、朝廷側もそこは海千山千の使者殿だ。

 気分が優れないと席を外してそのまま逃走。

 現在は津島に逗留している。


 この話は即座に尾張中に噂が広まった。


 たとえ関所を設けて人の出入りを監視しても噂を止める事は出来ない。

 なんせ噂を広めているのは朝廷の使者その人なのだから。


「いや~文をもらった時は驚いたが実際にあのような目にあうとは思いもせなんだ」


「ご面倒をお掛けしました。山科様にはご苦労をお掛け致し誠に申し訳なく」


「いやいや、大変面白い物を拝見させてもらいました。ほほほ」


 朝廷の使者は『山科 言継』様だ。


 俺が動けないうちに朝廷の使者が尾張に来ては大変と思い道空殿と小一、寧々に対応を任せたのだ。


 山科卿が年越し後に来ることは分かっていた。

 年内は即位や元号の改元やらで時間が取れなかったのだ。

 それに年明けも忙しく二月に入ってようやく尾張に来られた。

 そして、信行の事を文で知らせたのだが山科卿は『それも一興』とわざわざやって来てこの騒動だ。


「何、織田弾正なる御仁を直接見たくての?」


「如何でしたか?」


 道空は茶を薦めながら尋ねた。


「ふむ、一言で言えば。あれは病んでおるな」


「病ですか。 そのような話は聞いておりませぬが?」


「心の病よ」


 これは後になって道空殿から聞いた話だ。


 今の俺は古渡で決起の準備をしていた。

 信行は朝廷の使者を怒らせたと民は騒いでいる。

 同時に清洲城付近の城や街には商人が寄り付かなくなりますます民は困惑していた。

 そしてそれは尾張内に噂を呼んだ。


『信行様が関所を作って物も人も来んようになった』


『市で売られる物が少のうなった』


『商人も居らんようになった。どうなるんじゃこの尾張は?』


 信行に対する不満は少しずつ増えて行った。


 そして、更なる朗報が舞い降りた。


 織田家馬廻衆の半数近くが罷免されたのだ。

 理由は資金不足だ。

 今まで織田家は資金繰りを津島や熱田の商人に頼って来た。

 しかし、この資金を貸し付けていた津島と熱田の商人が銭を貸し渋りしたのだ。


 理由は守護不入の撤回である。


 守護不入は商人達の自由商売の権利の保証である。

 商売に関して領主は口出ししない、権力を行使しないという約束事だ。

 これは信長が津島と熱田の商人に直接言及している。

 そしてこの守護不入により津島と熱田の商人は更なる発展を遂げていた。


 しかし、信行は守護不入を撤回した。


 これは商人達にケンカを売っているようなものだ。

 いくら織田家が津島や熱田を保護していても、その発展を妨げては意味がない。


 商人達は信行を認めないと決めたようだ。


 今の信行はクーデターを起こした時の明敏さを感じない。

 どこかちぐはぐな感じだ。

 しかしこれで信行はほぼ終わりだ。

 後は兵を上げる口実が有ればいい。


 いや、口実は有る。


 だが、まだ兵を上げるタイミングじゃない。


 まだ、その時じゃない!


お読み頂きありがとうございます。


誤字、脱字、感想等有りましたらよろしくお願いいたします。


応援よろしくお願いします。


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