第四十五話 家族集いて候う
一通り泣き晴らすと俺は屋敷を出ようと門まで向かった。
林佐渡め!
心の中は怒りでいっぱいだ。
家族の安否ばかりが思い浮かぶ。
母様は? 小一はどこに? とも姉と弥助さんは? 朝日は? 頭の中でぐるぐるぐるぐると考えるも、怒りの為か考えが纏まらない。
足取り重く門をくぐるとそこで。
「あれ、お兄ちゃん?」
ふと声のする方に顔を向けるとそこに朝日がいた。
「やっぱりお兄ちゃんだ。帰ってきてたんだね」
「朝日!」
俺は朝日の元に走っていた。
着いたと同時に朝日を抱き締めた。
「朝日、朝日、良かった。無事だったんだな?」
「痛いよお兄ちゃん。どうしたの?」
俺は一旦抱き締めるのを止めて朝日の顔を見る。
すると朝日はきょとんとした顔をしている。
「朝日! おっ母は、小一は、とも姉は、何処にいる?」
「えっと、お兄ちゃん。落ち着いて、ね」
「落ち着いていられるか! 何処に居るんだ?」
俺は朝日を揺さぶる。
「お、おち、落ち着いて。いた、痛いから。おに、お兄ちゃん」
「藤吉落ち着け!」
「うわ」
俺が朝日を揺さぶっていると突然俺と朝日をまとめて抱き締める者がいた。
小六だった。
「小六?」
「お帰り。あなた」
そう言うと小六は腕に力を入れて抱き締める。
「痛い、痛いよ。小六姉」
「あ、ああ、ごめんね」
痛がる朝日を見て小六は抱き締めるのを止める。
「小六」「あなた」
小六が潤んだ目で俺を見ている。
「あなた!」
小六が俺に抱きつこうとするが、俺はそれをかわして朝日に再度問いただす。
「朝日、おっ母達は何処だ!」
「あなた~~~」
「小六姉ほっといていいの?」
「いいから何処にいる?」
「えっとね」
俺は朝日から聞いて駆け足でその場に向かう。
朝日の足が遅いのでおぶって走った。
「いいな~~。あたしもおぶって欲しい」
小六の言葉を無視して走る。
そしてその屋敷にたどり着く。
そこには見慣れた二人組が門番として立っていた。
「「お疲れ様です。大将」」
俺を大将呼びする二人組を無視して屋敷の門をくぐる。
玄関口に手を掛けたその時庭先で話し声が聞こえた。
俺は玄関口から手を離し声のする方に向かって走った。
そしてそこには……
「おっ母。ここの土地は硬いから無理だよ」
「何いってんだい。私の若い時はこれくらいの土、わけなく耕せたさね」
「もう母さん。無理言わないでよ。でもこうやって土をいじると落ち着くわね。そうでしょ、あんた?」
「ああ、机で書を書くよりよっぽど良いさ!」
おっ母が居た!
小一が居る。
とも姉と弥助さんが笑っている。
俺はみんなの姿を見ると力が抜けたのか、その場に座り込む。
おぶっていた手を離したので朝日はその場でしりもちをついた。
「痛いよ。お兄ちゃん」
「良かった~~」
「あれ、兄さん」
「どうしたの藤吉?」
小一とおっ母が俺の元に駆け寄ってくる。
「おっ母、良かった。良かった」
俺は泣いていた。
「何泣いてんだい藤吉?」
「良かった~~」
俺は母様に抱きついてわんわんと泣いていた。
「なんて顔だい」
そう言うと母様はそっと抱きしめてくれた。
家族との再会後にこの屋敷『蜂須賀邸』に居る理由を教えてもらった。
そう、この屋敷は小六が織田家に与えられていた屋敷だ。
「突然屋敷に兵がやって来て『屋敷から出ていけ』て言われたんだよ」
小一の説明によると、数日前にいつものように屋敷で手習いをしていると門の辺りが騒がしくなって何事かと向かったら大勢の兵がいたそうだ。
兵達は槍を向けており、その中の兵の一人が屋敷を退去するように勧告したらしい。
訳の分からない小一は説明を求めたが兵達は槍を突きつけて脅す。
そして小一達は屋敷を追い出されたのだ。
その時屋敷の中の家具一式を持ち出そうとした兵達を止めたのが小六だった。
「この屋敷の持ち物は蜂須賀家と前田家の物もある。勝手に持ち出していいもんじゃないんだよ!」
小六の凄んだ声にびびった兵達は明日も確認に来るからそれまでに退去するようにと言って帰って行った。
小六はこの時所用で外に出ていたが、屋敷の警護をしていた一人が知らせに走って何とか間に合ったのだ。
その後話し合った結果、蜂須賀邸に厄介になることになったと。
「藤吉に言われなくてもあたしの家族なんだから当然だよ」
「小六。良くやった!」
俺は小六の行為が嬉しくて抱きついた。
「と、藤吉。まだ日が高いよ。でも、藤吉が良いならあたしは……」
よし、いつもの小六だ。
スキンシップはこれくらいでいいだろう。
小六に抱きつくのを止めると一つ尋ねた。
「寧々はどうしてる?」
そう、もう一人の家族。
寧々をまだ見ていない。
「寧々さんは城からまだ戻って来ないんだよ」
小一が答えてくれた。
小六は拗ねている。
「いつからだ」
「俺達が屋敷を追い出される前の日からだよ」
もう五、六日は経っているそうだ。
いつもなら二、三日すると屋敷に戻っていたらしいからこれはおかしい。
寧々の身にも何か有ったのかもしれない。
とりあえず家族の近況は聞いた。
次は俺の番だ。
「織田家を辞めさせれらた━━━!?」
とも姉の大きな声が部屋中に響いた。
「兄さん本当かい?」
「ああ、本当だ。城に行ったら………」
俺は今日の出来事を説明する。
「なんてこったい。だから残ろうって言ったのに!」
弥助さんが絶叫した。
「うるさいよ。あんた!」
そしてとも姉が弥助さんに突っ込む。
うん、いつもの光景だ。
「どうするんだい藤吉?」
心配そうな顔をする母様。
「夜に話そう。おっ母」
俺は朝日を見る。
そんな俺を見た母様は。
「分かった。そうしようかね」
さすが母様。
俺の意図を察してくれた。
朝日を不安がらせる訳には行かない。
只でさえ兵達に囲まれて怖い思いをさせているのだ。
この先の暗くなるかも知れない話を聞かせる訳には行かない。
その夜屋敷の一室に家族が集まっていた。
朝日が寝付いたのを確認しての集まりだ。
ここに居るのは俺と小一、母様ととも姉に弥助さん、そして小六だ。
小六も俺の家族だからな。
ちょっとこそばゆい感じがするけど。
「さて、これからの事だけど」
長い夜が始まろうとしていた。
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