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藤吉郎になりて候う 〜異説太閤紀~  作者: 巻神様の下僕
第二章 尾張動乱にて候う
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第四十二話 長尾 弾正少弼 景虎

「これは何事だ。龍?」


「兄上、もうお戻りですか?」


 龍千代に兄上と呼ばれた人物。

 背の高さは俺以上利久未満。

 歳は三十前か?

 顔は中々のイケメンだ。

 体格もがっしりしている。

 この人が『長尾 景虎』か?

 そう言われれば素直に納得してしまうほどの威風を備えている。


 てか怖いよ。

 かなりお怒りのご様子。

 長尾家の人達が二人の間をおろおろしている。

 今まで全く動きを見せなかった面々があたふたしている姿は可笑しかった。


「説明しなさい。龍」


「はぁ、しょうがないわね」


 龍千代は両手を上げて降参のポーズを取り説明し始める。

 一時中断の雰囲気に長尾家の人達がお茶を持ってくる。

 あ、侍女も居たのか。

 お茶を持ってきたのは厳つい男供ではなく、部屋にいなかった侍女の面々だ。


 俺と利久は出された茶を飲み、まったりモード。


「うん、美味しい。どこの茶葉だろう?」


「いやぁ、喉が渇いていたのだ。助かった。ありがとう」


 市姫様と犬千代は龍千代と景虎?を見て動かない。

 あ、何か話してる。


「姫様。あそこをついてはいかがですか?」


「ダメよ犬千代。そこはかわされるわ」


「なら、ここならどうです?」


「そうね。いいわね」


 作戦会議ですか。

 まだやる気なんですね。

 でも向こうはそんな感じしないけどね?


「大体分かった」


「そう、なら再開ね」


「勝負は無しだ」


「む、何故かしら兄上?」


「龍。お前のわがままによその国の者を巻き込むな!」


「わがままなんて」 「わがままでなくてなんだ! 大体お前は昔から……… 」


 そこから長~い説教が始まった。


 手持ち無沙汰な俺と利久には茶菓子まで運ばれた。


「お、これはいけるな!」


「うん旨い。これ何処で買ったんですか?」


 俺は運ばれた茶菓子の事を聞いてみた。

 何でも越後で食べる餅の一つだとか。

 製法を聞いてみたが秘密だと言われた。


 残念だ。

 母様に作ってやりたかったのに。

 今度自分で材料を揃えて作るか?

 帰ったら春先までは戦もなかろう。

 それなら時間も取れるはず。

 食事の改善を進めてみるか。


「分かった。分かりました」


「そうか。ならばこの勝負は中止だ。いいな!」


「それは向こうに尋ねたらどうかしら?」


 どうやら話し合いは終わったみたいだ。

 二人がこちらにやって来る。


「まずは詫びさせてほしい。龍千代が迷惑をかけたみたいだ。すまんこの通りだ」


 おお、向こうから頭を下げさせてしまった。


「いや、こちらも熱くなってしまった。申し訳ない」


 市姫様も頭を下げる。


「そう言ってもらえると助かる。その方も助けてもらったのに迷惑をかけてすまなかった」


「いえいえ私は出しゃばっただけです。何もしていません」


 そうだ! 今回は俺は何もしていない。

 『無実だ! 濡れ衣だ! 横暴だ!』と面と向かって言いたいが止めておこう。

 実害はなかった。

 それで良いじゃないか。


「今回は我々が無理を言った。すまないがこの勝負はなかったことにして欲しいのだが、どうだろうか?」


 おお、向こうから折れてくれた。

 俺は歓迎ですよ市姫様。


「こちらに異存はない」


 よし、これで俺は織田家の家臣のままだ。


「と言う訳だ。いいな龍」


「はぁ、分かりました兄上」


 龍千代も折れてくれた。

 良かった。


「それではおいとましてよろしいか? その…… 」


「名は名乗らぬ方が宜しかろう。いずれ改めて表の場にて伺おう」


「そちらがよろしければ、そうさせて貰おう」


「うむ。こちらの方々に土産を持たせよ。私はこれで失礼する。では、いずれ」


「またお会いしましょう」


 景虎は私達に一礼して龍千代の側に寄って一言、二言声をかけて去っていった。


「兄上め。余計な事を」

 

 景虎が去った後、舌打ちするように言う龍千代。


「ではこれで失礼するぞ。龍千代殿」


 勝ち誇った顔で言う市姫様。

 あんまり煽らないで欲しい。

 また蒸し返されたらたまらない。


「待て。藤吉と少し話をさせろ。まだちゃんと礼を言っていない」


「礼など別に」


「櫛と簪の礼を言っていない」


 龍千代は少しだけ小さな声で恥ずかしそうに言った。


 別に良いのにしょうがないな。


「早くしろ藤吉」


 市姫様の許可は貰った。

 しかし、姫様。

 そんな恨めしそうな顔しないでください。

 可愛いですけどね

「可愛いですけどね」


「な、何を言っている。早く行け」


 またやってしまった。


「はぁ、兄上が来る前に終わらせるつもりだったのに、残念だわ」


「そうですか」


「藤吉。私の側に来なさい。その方があなたの為よ」


 真剣な顔で俺の顔を覗きこむ龍千代。

 その真っ直ぐな瞳は俺を捕らえて離さない。


 近い、近い、近い。

 ほんの少しだけ俺が顔を近づけたらキスしてしまえるほどの近さだ。

 そして後ろから凄い視線を感じる。


 正直に言えば、このまま龍千代について行きたい自分がいる。


 これほど強く求められたは初めての経験だ。

 織田家での俺は巻き込まれた形で仕官した。

 もちろん仕官したのは自分の意思でだ。

 それを後悔したりはしない。


 でも龍千代は俺を欲しいと言ってくれた。

 こんな美少女、いや美人に求められて揺れない男はいないだろう。


 俺は龍千代の視線から顔を背ける。

 背けたその先に市姫様がいて犬千代がいて、利久がいる。

 市姫様は怒っているのか顔を真っ赤にしている。

 犬千代は両手を組んで心配そうにこっちを見ている。

 利久はニヤニヤとこっちを見ている。

 よし、利久は後で殴ろう。


 そして龍千代に顔を向ける。


 答えは決まっているのだ。


「お断りします。俺には帰る場所が、家族が待っていますから」


「前にも言ったが」


 俺は龍千代の口に指先を当てた。


「今の俺の家族はあそこにいます。裏切れません」


 龍千代に当てていた指先を離す。


「そうか。きっと後悔するぞ」


「それでも、いいです」


 俺は龍千代に頭を下げて家族の元に向かう。


 さあ、帰ろう。尾張に。



 ※※※※※※※



「行ったのか」


「ええ」


「振られたな」


「まだ、振られてません」


「強がりを」


「私は諦めない。必ず手に入れるわ」


「それほどの男か? そうは見えないが」


「政景兄上は私の瞳を直視出来ますか?」


「ふむ、今なら出来るな。まさか……」


「藤吉は私から眼をそらしませんでした。初めてです。そんな男は」


「いや、しかしだな」


「ふふ、藤吉。必ず私の物にしてみせるわ」



 さらなる闘志を燃やす『長尾 龍千代』こと『長尾 景虎』であった。




お読み頂きありがとうございます。


誤字、脱字、感想等有りましたらよろしくお願いいたします。


応援よろしくお願いします。


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― 新着の感想 ―
[一言] そうかなって思って違うかってなったけれどやっぱり長尾 景虎だったのか!
[一言] 羨ましいような、そうでもないようなw
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