第四話 長屋に住みて候う
私は城の外を歩いている。
今の私の格好は多分麻で出来た服に着替えている。
ザ・下男って格好だ。
服が肌に擦れて痛いのでTシャツを中に着ている。
私の持ち物は全部確かめられたが、何に使うか分からなかったようで全部返してもらった。
ちなみに全て南蛮物ですと説明したら納得してくれた。
そんなんで良いのっと、ツッコミたいが逆にツッコまれるとこちらが困るので黙っている。
あの謁見から小者に抜擢された私は城下に住む事を許された。
そしてあのまま城内にいるのは外聞がよろしくないので城の外に出されたのだ。
まぁ、城の住み心地は悪くなかった。
板張りの屋敷を想像していたが畳張りだったからな。
しかし、私がいるこの戦国時代は何かが違うようだ。
例として『清洲』の地名がそうだ。
昔は『清須』と呼ばれていたはずだ。
でもこの時代では、清洲になっている。
さらに『那古野』の地名も違う。
現代の地名の『名古屋』になっている。
おそらく他にも現代地名になっている所があるのだろう。
何かが違う。
そもそも『信長』が居ないのが不思議だ?
犬千代に信長のことを聞いたが答えてくれなかった。
今度勝三郎に聞いてみるか?
困ったら助けてくれると言っていたように思うから。
しばし考え事をしていたら。
「こちらですよ、藤吉殿」
「あっ、はい」
ちなみに私の名前は『とうきち』ではなく『ふじよし』だ。
しかし、こちらの人達からは『とうきち』と呼ばれている。
何度も『ふじよし』と名乗ったがわかっていますよ『とうきち』さんと言われた。
なぜだ、解せぬ?
直らないものは直らない。
なら考えるだけ無駄か?
そんな木下藤吉こと私の目の前には犬千代がいる。
今は清洲城下を犬千代に案内してもらっているのだ。
「大丈夫ですか?道を覚えていますか?」
優しい言葉をかけてくれる。
嬉しいものだ。
最初会った時は無言で部屋を案内され、無言で食事を出され、無言で厠を案内された。
可愛い顔をしているがこの顔の無言の圧力はかなり心に来る。
しかしそんな彼女も市姫のことになると饒舌だ。
その顔から年頃の娘らしい笑顔が見え、身振り手振りを交えて時には真剣に、時には冗談混じりに話をする姿は大変可愛いらしかった。
ただ、時間を忘れるのと話がループするのは本当に辛かった。
「大丈夫ですよ。分かりやすい目印がありますから」
清洲城までの道のりは簡単だ。
遠くからでも見える『矢倉』に『櫓』というか、それが見えるし道もほぼ一本道だ。
迷えという方が難しい。
「そうですか。では、こちらです」
軽く会釈をして案内を続ける犬千代。
ほんと、可愛いな~。
ほんのりしてしまう。
緊張感がまったくない。
だから、可愛い不意討ちを食らうのだ。
私と犬千代は通りを外れ屋敷が建ち並ぶ通りから、更に離れた場所にある長屋通りに来ていた。
住む場所について既に説明を受けていたので、驚きはなかったが案外小綺麗な所だった。
そして、ある屋敷の前に着く。
犬千代は私に待っているように告げると直ぐ戻りますと言って屋敷の中に入っていき、しばらくして中年の男性と十二、三歳くらいの女の子を連れて出てきた。
「浅野様。こちらが今日から小者になられた藤吉殿です。藤吉殿。こちらはこの一帯の長屋を取り仕切る浅野様です」
「は、はじめまして。よろしくお願いいたします」
私は軽く頭を下げる。
「ほう、その歳で小者とは珍しい。それにちゃんと挨拶も出来る。善きかな、善きかな。私は浅野と申します。下の名前は、小者より上になったら教えましょうて」
「はぁ」
つまり私は名前を教える価値のない人間らしい。
口調は丁寧だがバカにされた感じだ。
まぁ、怒る気もしないがな。うん。
この程度で怒るほど私は小さい男ではないよ。
しかし、小者ってこの歳でやる役職じゃないのか?
少し不安だ。
大丈夫なのかこれから。
「浅野様。では私達は長屋に行きます」
「うん。あ、待て。寧々。一緒に行って案内しなさい」
「はい。父様」
浅野のおっさんの隣の女の子が、私や犬千代の前に立って長屋を案内してくれた。
それにしてもこの女の子の名前が寧々?
浅野の寧々さん?
もしかして『北政所』ですか?
私達を案内してくれている少女があの北政所『寧々』さん。
ま、まさか~。偶然だよ。偶然。
しばらく歩くとある長屋の一つで寧々が止まった。
「こちらです」
寧々は軽く会釈して長屋の戸を開ける。
「どうも、ありがとうございます」
私も会釈して笑顔で返す。
私が中に入ると犬千代と寧々も一緒に入って来る。
長屋の中は入って直ぐ土間になっている。
右手側に釜戸と大きな甕が有った。
土間から一メートル先に障子があり、障子を開けると凡そ六畳ほどの板張りがしてあった。
部屋には押し入れが有り、中には大きな葛籠が入っていた。
その葛籠の中には一回り小さな葛籠が入っている。
そして部屋の先は庭になっていた。
だいたい十メートル四方の庭だ。
かなり広い庭だ。
隣の部屋の庭とは生垣で仕切られている。
うん、想像通りの長屋だな。
多少広いと感じるが悪くない。
庭に出て辺りを見回し。
「うん、悪くない」
そう言って振り替えると目の前に私より大きな男がいた。
歳は二十歳になるか成らないかぐらい。
身長一メートル八十を越えているだろうか。
目がギラギラしていて、私を見下ろしている。
ここに来て初めて私より大きな男に会った。
そして男は両手で私の肩をバンバンと叩くと。
「お前が隣人か。私は前田利久。犬千代共々よろしく頼む」
私は呆気に捕らわれ呆然としていた。
前田利久と名乗った男は何が可笑しいのか大声で笑っている。
男の後ろでは犬千代と寧々が頭を抱えている。
私は少しして正気を取り戻す。
前田利久って言ったか?
これが利久!
病弱で戦働きが出来ず利家に家督を奪っ、じゃない譲った前田利久。
ウソだろ!?
ここに来てから何度目のウソだろうか。
でも今回は犬千代以上に驚いた!!
だって、何か、イメージ的に、こいつ、俺が思っていた人物にそっくりなんだよ。
この男『前田 慶次郎』じゃん!
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