第三十一話 恩賞を貰いて候う
岩倉織田家を降した事で織田家の尾張統一は加速した。
上尾張四郡の他の反抗勢力に対して一気に攻勢を仕掛けたのだ。
ここで活躍したのが佐久間盛重。
浮野の戦いでは戦いに慣れていない素人集団を率いて苦労したが、その後は周辺勢力を難なく降伏させて行った。
そして俺はその戦に同行させられた。
岩倉城を攻略し降伏した兵や物資の数の確認を終えると、休む暇もなく盛重の遠征隊に連れ去られたのだ。
誰か超過勤務手当をください。
いや、長期休暇をください。
お願いします。
倒れるまで働かせる気ですか?
そんな弱音を吐きたい所だったが連戦連勝を続ける部隊に居ると、兵の士気は異常に盛り上がりそれに付き合う俺も異常なテンションで仕事をしていた。
「おら、次の報告をしやがれ!」
「二番槍は、〇〇〇です」
「そいつはこの前の戦いで怪我した奴だぞ。嘘つくな」
「嘘では有りません。奴は怪我をしてましたが勝手に付いて来て勝手に戦ったのです」
「ふざけんな! 俺がどれだけ苦労して人員の配置に時間を掛けたと思っていやがる。そいつ連れてこい! いや、連れてこなくていい。 死んでこいと命令してやれ!」
「は、死ぬ気で槍を振るうように言ってきます」
この時の俺はおかしくなっていた。
後で思い返すと何であんな事を言ったのか、よく覚えていなかった。
この遠征は十日ばかり掛かった。
だが収穫も大きかった。
これでほぼ尾張全域を抑える事になった。
市姫様は尾張を統一したのだ。
まだ信行の問題が残っているが大した影響力を持っていないので、とりあえず無視している。
遠からず向こうから何らかのリアクションがあるだろう。
その時に対処すればいい。
焦ってこっちから動く必要はない。
そして遠征から帰った俺を待っていたのは、いつも通りの書の山だった。
くそ、ふざけんな。
何で俺の所に持ってくんだよ!
他にも人は居るだろ。
何で俺だけが。
いい加減俺以外の右筆を増やそうよ。
そんなこんなで三日間掛けて何とか書の山との格闘に勝利する事が出来た。
……勝利って何だよ?
俺が書の山と格闘している間に先の戦いの論功行賞が行われた。
まず、岩倉織田家の織田信安は追放処分となった。
そして岩倉織田家は弾正忠織田家に吸収され織田信安の息子信賢は親族衆に加わった。
岩倉城は廃棄してそこから出た資材は清洲城の改修に使われる事になった。
そして、軍功第一は佐久間盛重が。
第二に前田利久が選ばれた。
第三は『丹羽 五郎左 長秀』が選ばれた。
そうあの時気になってた五郎左って、丹羽長秀だったのだ。
織田家四天王の一人『米五郎左』だよ。
何で気づかなかったのか?
戦場にいて頭が回っていなかったのかも知れない。
ちなみに信光様はこの論功行賞の場にはいない。
自分の城に戻って信行を監視している。
本当なら岩倉城を信光様が治める予定だったのだけれど、斎藤山城守を刺激しない為に城を破棄することになったとか?
それに織田家の直轄領が増えるので部下に恩賞を与えやすくなると信光様自身が固辞したのだ。
さすがお人好しな信光様だ。
そしてこの論功行賞では俺は何も貰っていない。
当然と言えば当然なんだが。
俺がやったことは全体の方針を指摘してそれを達成する為の方法を考えた訳で、……これって評価されないのか?
そこを市姫様に聞いてみたい。
俺ってかなり優遇されてるのか?
それともこき使われているのか。
分からない。
だが、とりあえずの目標はクリアされた。
次をどうするか、だな。
そしてある日市姫様に呼び出される。
「藤吉。今の長屋は狭いだろう。屋敷を与える」
「は?」
「屋敷を与えると言った。嬉しくないのか?」
「は、いえ。嬉しいです。慎んでお受けいたします」
「うむ」
満面の笑みを浮かべる市姫様。
これって俺に対する恩賞だよな?
…………屋敷持ちか。
家賃とか発生しないよな?
市姫様から屋敷の場所を教えてもらい喜び勇んでその場所に向かった。
「おう藤吉。遅かったな。荷物を運ぶの手伝え」
「何で利久が?」
「兄上。これはどこに置きますか?」
犬千代の声?
「犬千代ちゃん。お茶の用意出来たよ。小六さんもどうですか?」
え、寧々。
それに小六?
「ああ、ありがとうね寧々。 あらあなた。引っ越しはもうすぐ終わりますからね」
………俺の家じゃないのかよ。
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