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第三話 市姫様にお仕え候う その2

「反対でございます!」


  部屋に平手のじい様の声が響く。


「うるさい、じい。少しは声を抑えろ」


「も、申し訳なく」


 平手のじい様が市姫に頭を下げる。

 そして、頭を下げてこちらを睨む。

 そんな顔を向けないでくれ。



 私は今、尾張清洲城に居る。

 言わずと知れた、尾張の要地、信長の居城。

 そこに今、私は居る。

 それだけで感無量だ。


 あの古戦場跡地から数日。


 清洲城の一室を宛がわれ、さらに衣服を与えられた私は姿だけは武士と言えるかも知れない。

 髪形は、そのままにしている。

 月代になんてしたくないから伸びたら縛ろうと思う。


 そんな城での生活は軟禁だ。


 持ち物は勿論、体の隅々まで調べられた。

 何処まで調べられたかは教えないでおこう。

 私の、自尊心の為に。

 私物は取り上げられなかったが移動に制限がかけられ何処に行くにも女性が付いてくる。


 思うに、奥向きの侍女だと思われた。


 おかしいのは名前で何と『犬千代』と名乗ったのだ。


『犬千代』って、前田利家の幼名だよな?


 利家って、女性だったの?

 そんな彼女は一日中私を監視していた。

 やることのない私は彼女から情報を聞き出そうとしたが、城や織田家のことは何一つ話してくれなかった。


 しかし、彼女自身のことは教えてくれた。


 彼女は『前田犬千代』


 荒子前田家の長女。

 兄が三人、長男が利久、後の二人の名前は聞き覚えがない。

 というか、知らない。

 前田家の四番目の子。


 やっぱり利家じゃん!


 何で女性、TSってやつか?


 うーん、わからんもんは、わからん。


 そして、彼女は市姫の侍女の一人で市姫のことを大層慕っている。

 それこそ、自分『犬千代』がどれだけ市姫様を尊敬し憧れているか、朝から晩までとっぷりと日が暮れるまで説明してくれた。


 まるで、信長と利家みたいだ。


 何度も話がループした時は勘弁してくれと思ったが、やることはなかったので美少女と話が出来たのは嬉しかった。


 犬千代は可愛い。

 年は十五ぐらいか?

 顔は小顔で、背も低い。

 でも、出る所は出ている。

 たいへんけっこうな体つきだ。

 実にけしからん。


 それはさておき。


 どうやらこの清洲城主は市姫であるらしいこと、くらいしか分からなかった。



 そして、市姫に呼び出され小者に成らないかと誘われた。


 今の市姫は女性らしい格好をしている。

 時代劇に出てくる小袖姿ではなく、仰々しい姿だ。

 何枚重ねて着ているのと聞いてみたい格好だ。

 でも、戦場姿の市姫も良かったがこの姿も良いものだ。

 髪を縛らず束ねてそのままに。


 うん、これぞ正に奥方と呼べる姿だ。


 多分、まだ未婚だろうけどね。


 それはさておき小者のことだ。


 小者とは私もよくわからないが小姓とも違う側仕えらしい。

 何かの本で読んだことがあったがあまり覚えていない。


 てっきり武士に取り立てるか、金だけ渡して『はい、サヨナラ』と思っていた。


 当然、後者を予想していたが、小者か?


 どうするかと問われたら平手のじい様が怒鳴ったのだ。


「なぜ、反対するじい」


「この者、得体が知れませぬ。他国の間者やもしれませぬぞ。危のうござる」


 最もな意見だ。


「危ないのなら、なぜ私を助ける。殺すならその時出来ただろう」


 うん、そうそう。


「助けた時は、姫様と知らなかったのでは?知らずに助けたのではないですか?」


 犬千代から思わぬ助け船。

 うん、そうね。知らなかったよ私は。


「だが、こやつは得物を持っておらぬ。それでも疑うのか?」


「それこそ、素手で殺せるやも知れませぬ。いや、殺せましょう。私は反対です」


 うん、死に物狂いになれば、やって殺れないことはないと思う。


 それから、一時間近くひたすら二人の問答が続いた。


 正直、暇だよ。

 どうするかなぁ~、これから。

 もし、仕官出来ても平手のじい様がこれじゃあなぁ。


 でも、よそに行ってもね。

 せっかくの縁なんだからそれを生かしたい。

 それにここを離れるのはリスクが高い気がする。

 せっかくの戦国トリップだ。

 史実の秀吉よろしく、成り上がりを体験したい。

 というか、秀吉居るの?


 そんなことを考えていたら犬千代が発言した。


 今、この部屋には五人いる。


 市姫、平手のじい様、私、犬千代、そして、二十歳過ぎと思える若い侍だ。


 私の目の前には市姫が、左側に平手のじい様、右側に若い侍、若い侍の隣に犬千代が座っている。


 若い侍はひたすら無言だ。

 顔色一つ変えていない。

 犬千代が発言しても変えない。


「私は、市姫様に賛同します」


「お主は姫様の言う事には反対せんじゃろう。話にならん」


 うん、そうね。

 平手のじい様の言う通りだと思う。


「平手様。私はこの者と話をしましたがこの者は根は善人だと思われます」


「なぜ、そう思う?」


「私の話を嫌な顔せず、ずっと聞いてくれたのです!」


「なんと!」


 平手のじい様が腰を上げて驚く。


 そんなビックリすることかね?

 たしかにずっと聞いていたよ。

 やることなかったし、それに犬千代可愛いし。


「犬千代の話を、ずっと聞いていたのか?」


 あっ、初めて若い侍が顔色を変えてしかも声を出した。


「それ見ろ、じい。私の見立てに狂いはない」


 市姫が胸を張る。


 たいへんけっこうなお点前です、市姫。


「ぐ、ぐぐぐ」


 平手のじい様の顔が歪む。


 とても悔しそうだ。

 そして、話はそのまま進み。

 私は、市姫の小者に抜擢された。



 その場を後にした時、平手のじい様から舌打ちされた。

 大層な嫌われようだ。

 ちょっとへこむ。


 若い侍からも挨拶された。


「私は『池田 勝三郎 恒興』これからよろしく頼む藤吉」


 なんて清々しい挨拶だ。

 好感度うなぎ登りだよ。


「ありがとうございます。池田様」


「私の事は勝三郎と呼んでくれ。見れば同じ年頃と見えるしな。家中は上の者ばかりでな。それにそなたは姫様の近くに仕える。私とはよく顔を合わせる事になろう。困ったことが有ったら相談にのろう」


「あ、ありがとうございます。勝三郎様」


「勝三郎でいいと申すに。ではな」


 池田勝三郎が軽く頭を下げて去っていく。


 勝三郎、顔は三枚目に見えるが心は二枚目だ。

 頼りになるな。

 しかし、同じ年頃?

 勝三郎は二十歳ぐらいに見えた。


 私は三十路過ぎだ。


 そんなに私は若く見えるのか?

 ちょっと嬉しいな。



 こうして私は織田家に市姫に仕えることになった。


 その後私は私自身の変化を知ることになる。


お読み頂きありがとうございます。


誤字、脱字、感想等有りましたらよろしくお願いいたします。


応援よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言] 前に読んだような気がする…となると、勘十郎信行がなー……。
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