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藤吉郎になりて候う 〜異説太閤紀~  作者: 巻神様の下僕
第一章 尾張統一にて候う
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第二十八話 勝家の密書

 やっと清洲に戻ってこれた。


 戻って来たことを寧々に知らせて、さっそく城に向かう。

 小六は寧々と一緒にお留守番だ。

 寧々には悪いが小六のお守りを頼む。

 そして小六には俺達が城から帰って来た後の食事を頼む。


「分かった。旨い食事を作るのも、つ、妻の務めだからな」


「え、利久様。この方と夫婦に成られたのですか? では、かや殿はどうなさるので?」


「あー、しまった。かや殿は城か。寧々?」


「城に居ると思います」


「よし、城に急ぐぞ。藤吉行くぞ」


「いや待て。何か今大事な事を聞い」「さぁ、行きましょう」


 俺は利久と犬千代に両脇を抱え込まれながら引き摺られて行った。


「いってらっしゃい。あなたー」


「あ、いってらっしゃいませ。藤吉殿」


 ………不安だ。



  ※※※※※※※



 城に着き自分の部屋に入るとやっぱりと言うか当たり前のように山となった書が積まれていた。

 城を離れること数日。

 誰も処理してくれなかったようだ。


 勝三郎め説得出来なかったのか?


 居ない相手を罵倒してもしょうがない。

 さっそく書の山の処理に取りかかる。

 ちなみに利久はかやという侍女を探しに、犬千代は市姫様に報告に向かった。


 しばらく書とにらめっこしていると聞き慣れた足音が近づいてきた。

 そして戸が勢いよく開かれる。

 今や勝三郎の十八番だ。


「戻ったか藤吉」


「ただいま戻りましてございます。勝三郎様」


 俺は勝三郎の前に手を着き深々と頭を下げる。


「返事よりも首尾はどうなった。首尾は?」


 俺はニヤリと笑みを浮かべる。


「そうか。上手く行ったか」


 勝三郎は胸に手をやり大きく息を吸い込み、そして吐いた。


「そちらはどうですか?」


「うむ、こちらは…………」


 勝三郎の話によると兵は揃い、武具の用意も整ったと。

 しかし、勝三郎の顔は晴れない。


「兵糧は堀田家から運び込まれます。人足の手配が必要ですね。そちらをお任せしてもよろしいですか?」


「うむ、構わん。その、………藤吉?」


「何ですか?」


 勝三郎が俺の前に座り近づく。

 額と額が触れあうほど近い。

 そして小さな声で囁く


「柴田から書が届いた」


「柴田から?」


 信行側の柴田からの書状か?

 寝返りか。

 それとも史実通りに密告か。


 俺の織田家構想の中に柴田勝家は入っていない。

 そもそも勝家は主君を売った裏切り者だ。

 しかも信行殺害に関与もしている。

 俺が信長なら絶対に重用したりしない。

 こういう人間は昇り調子の時は良いが、下り調子になると態度を変える。

 史実では信行殺害以後は織田家の忠臣として重きを成したが、本当の忠臣なら信長に信行を殺させるはずがない。

 信行と供に頭を剃って僧になると言っても良いはずだ。

 主君が間違った道を行くなら諫めて頭を下げるくらいしてもいい。


 しかし、勝家は何もしなかった。


 それどころか信行を裏切り積極的にその殺害に協力した。

 さっきも言ったが俺なら勝家を用いない。

 だが、信長は勝家を使い続けた。

 おそらく信長は自分が生きている間は勝家が織田家を自分を裏切らないだろうと踏んだのだろう。

 実際にそうだった。

 だが、今は違う。

 今の織田家は市姫様が当主だ。

 信長じゃない。


「これがそうだ」


「拝見しても?」


「構わん。まだ市姫様にも見せていない。平手様と協議してお主の意見を聞きたいのだ」


 市姫様に見せていない。

 俺の意見を?

 ずいぶんと扱いが重くなったな。


 俺は首を縦に降り勝家の密書を呼んだ。


 なんだ、これ?


 これは、その、あれだ、恋文か?


「勝三郎様?」


「意見を聞かせてくれ」


 話にならん。

「話にならん」


 また声に出てた。


「そうだろうな」


「そもそもなぜ恋文なのです?」


「おそらく、信行様だろう」


「はあ~」


 勝三郎と平手のじい様の考えによると。

 信行は市姫様と勝家を夫婦にしてしまおうと考えているらしい。

 そもそも陣代である市姫様の婚姻に関しては慎重にならなければならない。

 市姫様と婚姻した相手は織田家の当主の後見人、もしくは陣代に次ぐ権力を持つ事になる。

 信行は自身の家臣である勝家を使って織田家の当主に成るつもりなのだと。


 しかし、これは違うだろう。


 俺が見た信行ならこんな事で当主になろうと思っていない。

 それどころか信行は既に自分が当主だと思っているのではないのか?

 おそらく当主として妹の相手に勝家を推しているのではないのか。


「勝三郎様」「様は要らん」


「ごほん、勝三郎。市姫様に確認してみては?」


「それはどういう」


 俺は自論を説明する。


「それは、……有りうるかもしれん」


 勝三郎も俺の意見に合点が行ったようだ。


「ならば直ぐに市姫様に会おう。付いてこい藤吉」


「付いていくのは行くのは良いが。勝三郎?」


「なんだ?」


「ちゃんと説明したんだよな?」


 勝三郎はすっくと立ち上がると。


「では、行くぞ」


 俺の顔を見ることなくすたすたと歩いて行った。


「おい待て、勝三郎」


「様をつけろ!」


「さっき要らないって言っただろうが」


 俺は直ぐに立ち上がり勝三郎の後を追った。


 勝三郎の奴、説得に失敗したか?


「おい勝三郎」


「様をつけろと言った!」


 このやりとりは市姫様の所まで続いた。


「ごめん」


 勝三郎は戸の前で膝を着き中の返事を待った。

 俺の時は何の断りもなく開ける癖に。


「どなたです?」


「勝三郎です」


 しばらくして返事が帰って来る。


「どうぞお入りください」


 あ、今気づいた。

 この声犬千代だ。

 中に入ると市姫様と犬千代が部屋にいた。


「藤吉も一緒でしたか」


「はい。私も市姫様に報告がございますので」


「美濃での一件ですか?」


 あれ、何か怒ってる?


「はい」


「いいでしょう。そこに」


 俺と勝三郎は市姫様と対面して座る。

 犬千代は市姫様の隣だ。


 珍しいな。

 と言うか初めて見るな。

 犬千代が市姫様の隣に座るなんて?

 こうして見ると美少女が二人。

 絵になるな。


「それで要件は? 美濃の事は犬千代から聞きましたけど、藤吉からも詳しく聞きたいのですが」


「先にこの勝三郎からお話します」


 そして勝三郎は勝家の件を切り出した。

 俺と勝三郎、そして平手のじい様の考えも一緒に話す。

 じっと聞く市姫様。


「………ということですが市姫様にお聞きしても?」


「はぁ、やはりそうですか。犬千代。あれを」


 市姫様がそう言うと犬千代は文箱の中から幾つかの書を出した。


「いずれも兄、信行の書状です」


「見てもよろしいので?」


「むろん」


 勝三郎から先に見て後から俺も見る。


 やっぱりかー。


 書状の内容は『早く陣代を自分に譲り誰か良き家臣と夫婦に成っては』という内容だ。

 しかも、日が立つにつれ内容が変わっている。


 陣代を譲りがいつの間にか自分が陣代に成ったのだからに変わり。

 良き家臣の所が最後には勝家に嫁げとなっている。

 妄想もここまで来ると凄いな。


「これは余りにも………」


 勝三郎がしかめっ面をしている。

 いつもはニコニコポーカーフェイスの勝三郎がだ。


「ふう、呆れますよね」


 市姫様は呆れ顔だ。

 疲れているように見える。

 俺の報告は後でもいいかな?

 犬千代が説明してるなら別にいいだろう。


「姫様、私の報告は後日書面にて」


「今、話しなさい」


 おう、何か語尾がきつくない。


「勝三郎。平手を連れて来てください。きっととても心配してるだろうから」


「は、はい」


 勝三郎は答えるとそそくさと部屋を出て行った。

 何か市姫様がすげえいい笑顔なんですけど。

 ちょっと勝三郎君逃げないで。


「さぁ、話しなさい」


 市姫様がにじり寄る。


 後ずさる俺。


 な、なんで。


 俺は軍資金と兵糧を工面しただけだよ。

 確かに報告しなかったけどさ。

 それは勝三郎が説明するからって。


「さぁ、藤吉。話しなさい。『蜂須賀 小六』の事を」


 え、小六の事?


 犬千代を見ると視線をそらされた。


「さぁ藤吉。さぁ」


 声は優しいが、目が怖い。


 なんでなんだよー




 その後、洗いざらい話した藤吉は市姫様と途中から加わった平手政秀からその日遅くまで説教をくらった。


お読み頂きありがとうございます。


誤字、脱字、感想等有りましたらよろしくお願いいたします。


応援よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言] まあ、軍資金稼ぎに美濃へ行ったかと思えば、色っぽい姉さん(蜂須賀小六)を連れて帰ってきたんだもんねw
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