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藤吉郎になりて候う 〜異説太閤紀~  作者: 巻神様の下僕
第一章 尾張統一にて候う
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第二十七話 墨俣川と長良川

 美濃井ノ口から帰りは長良川を下りながら津島を目指した。


 途中、墨俣周辺を通りあそこに城を建てるのかと思考にふけるも、川下りはあっという間にその場を過ぎていく。


 今、俺達をいかだに乗せて運んでいるのは、先の賭博の一件で味方にした蜂須賀党である。

蜂須賀党と取り交わした契約内容は、堀田家との仲介と織田家(木下 藤吉)に臣従することだ。

 そして俺の隣で地名や国人衆の名前を教えてくれるのはちょっとだけ服装を正した蜂須賀小六である。


 酒屋での一件以来、小六は俺に付きまとっている。

 後から迎えに行くと言ったし、小六は待っているとも言ったはずなのにである。

 小六曰く、津島の堀田家と渡りをつけるまでは一緒に居ると。

 俺が書いた紹介状と証文を小六に渡して俺達は一路清洲に帰るはずだったのだがこうして一緒に居る。


 どうせ津島まで一緒に居るのなら試しに蜂須賀党を使って見ることにした。

 賭博で二千貫も失った蜂須賀党。

 津島の豪商堀田家との紹介料にしては高すぎるだろう。

 それに円滑に契約を結ぶ為には手土産が必要だ。

 そこで井ノ口周辺の商家から米を買い占め、さらに小六達には木材を伐りいかだにして、それに米を乗せて運ぶことにした。

 米は織田家の兵糧に、木材は堀田家の手土産だ。

 しかし蜂須賀党の対応の早い事、早い事。

 あっという間(正確には二日掛かった)に準備を終えた。


 そして俺はいかだが出来る前と出来た後に周辺の地理と地名、この土地周辺の国人衆を小六に教えてもらっている。

 時間は有限だ。

 一時も無駄に出来ない。

 それにいつ美濃斎藤家と戦をするか分からない。

 蜂須賀党を抱え込んだ事で斎藤山城守を怒らせたかもしれない。

 小六の話ではそんな事は起こらないと言ったが一応の警戒は必要だ。

 それから小六に蜂須賀党を使って斎藤山城守の情報を集めるように頼んだ。

 まずは情報だ。

 必要になって調べるよりも先に調べておく。


 『常に備え』をってね。



 美濃井ノ口に向かった時は木曽川を渡ったが、帰りは長良川を利用した。

 この長良川は別名『墨俣川』と言う。

 どっちかというと墨俣川の名前の方が使われているそうだ。

 小六の説明によると二十年近く昔に川の氾濫が有って、近くの村の長良村がその氾濫で沈んだそうだ。

 その支流がそのまま残り沈んだ村の名前を取って、長良川と呼んでいる。

ちなみに村民は避難していて犠牲は少なかったとか。


 小六の説明を聞いて少し、いやかなり驚いた。


 村が無くなるほどの洪水ってどんだけだよ!


 現代でも洪水は酷い被害をもたらすけど村一つはないだろう。

 全くもって今も昔も自然の脅威には勝てない。

 せめてこれからはその脅威を少しでも和らげる方法もしくは工夫が要るだろうが、残念な事に俺はその手の治水に関する知識を持っていない。

 もっとも持っていてもここで再現することはできないだろう。


「もうすぐ津島の近くに着く。陸に寄せるから注意しな」


 小六の言葉に我に帰る。

 考えても実行出来ないので有ればしょうがない。

 今は出来る事をしよう。


「さあ、野郎ども。陸に上がるよ!」


「「「「おー」」」」


 しかし、よく統制されてるな蜂須賀党の面々は。


「お、着いたか。降りるぞ犬千代」


「………どうぞ。お先に」


 ちなみに利久と犬千代も同じいかだに乗っていた。

 利久はそうそうに寝てしまい。

 犬千代は俺と小六の姿を後ろからずっと見ていた。


 ………無言で。


 とっても気まずい。



 陸に上がってからも蜂須賀党の対応は早かった。


 直ぐに津島の堀田家に連絡員を走らせ、堀田家の家人が来てから蜂須賀党の事を説明し、小六と供に堀田道空にいきさつを話した。


 道空は蜂須賀党との売買契約を了承した。


 元々、川並衆を束ねる立場だった蜂須賀党と手を組むのは渡りに船だったらしい。

 二つ返事で済んだ。

 蜂須賀党の持つ美濃での販路は相当魅力的に見えたようだ。

 蜂須賀党の運んだ木材は堀田家が買い取りこれを尾張領内に売り払う。

 結構な額の銭が動いた。

 これで蜂須賀党の件は片付いた。


………はずだった。


「じゃ、小六。ここで」「さぁ、清洲に参りましょうか」


「………えっと、小六さん。ここで」「ぐずぐずしない。早く行くわよ」


 小六が俺の腕を掴んで胸元に寄せる。


 う、柔らかい。


「ちょっとそこの年増さん。契約はここまでのはずです。早くお家にお帰りなさい」


 犬千代が俺と小六の間に割って入る。

 正直助かった。

 だって小六の奴、全然俺から離れないんだもの。


「ああ。誰が年増だってえぇ」


「あら、耳も悪いなんて。年増は大変ですこと」


「あたしはまだ二十代だ!」


「私は十五です!歳もろくに言えないなんて」


「はん、オシメが取れたばかりの小娘が、でしゃばんるじゃないよ」


「む、そんなに眉間に力を入れると小皺になりますわよ。おばはん」


「何だって!」


「なんですか!」


 怖い、怖すぎる。

 なんでこんなことに?


「おい利久」


「さて、俺は先に行くぞ。藤吉」


 利久はとっとと松風に股がり颯爽と駆けていった。


「おま、待て利久」


 俺も後ろを振り向かずに馬を駆けた。


 逃げるが吉だ。



 結局、小六は俺達に着いてきた。


 蜂須賀党は『前野 将右衛門 長康』に任せて。


長良川の呼び名に関する逸話は、作者の創作です。


お読み頂きありがとうございます。


誤字、脱字、感想等有りましたらよろしくお願いいたします。


応援よろしくお願いします。

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[一言] 藤吉、モテて羨ましいネー(棒)
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