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藤吉郎になりて候う 〜異説太閤紀~  作者: 巻神様の下僕
第一章 尾張統一にて候う
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第二十四話 賽の目は読めずに候う




 『明智 十兵衛 光秀』


 木下藤吉郎の豊臣秀吉のライバルであり、悪く言えば踏み台になった男。

 目の前に居る男がそうなのか?


「私の顔に何か?」


「あ、いや。凛々しい顔立ちで羨ましいなと」


 いかんな、マジマジと見ていたようだ。

 それにしてもイケメンだな。

 俺は自分で言うのも何だが普通の顔だ。

 いや、普通より劣るかも知れない。

 コンプレックスというほどではないが気にはしている。

 ここに来てから顔の事を誰からも指摘されていないので、ここでは俺の顔は普通なんだろうと思う。

 だが光秀は男の俺が言うのも何だがカッコいい。

 知的なかっこよさというか、眼鏡が合いそうな理知的な顔立ちだ。

 野性味の有る利久とは違ったイケメンだ。


「あなたも中々の面相ですよ」


「そ、そうですか。どうも」


 お世辞だろうが嫌な感じは受けない。

 ごくごく自然な感じで言ってきた。


 うーむ、爽やかイケメンという奴か?


 顔が良くて、口調も優しい、初対面で感じが良い。

 営業をやらせたら沢山契約を取ってきてくれるだろう。

 そんな感じだ。


 でも、なんか好きになれないな。


「じゃ、勝負を続けようか?」


 おっと光秀に気を取られ過ぎた。


 小六姐さんの声で今の状況を思い出した。

 一口五百貫の大勝負。

 普通ならこんな大勝負が成立する訳がない。

 だが向こうは向こうで金が必要なのだろう。

 しかしこっちも負けてやるわけにはいかない。

 本来なら数日に分けて稼ぐつもりだったが、今夜一回こっきりで稼げる。

 余計な時間を使わずに済む。


 頼むぞ犬千代!


 ほとほと他人頼りで申し訳ない思いでいっぱいだが俺はこのゲームでは初心者だ。

 俺がやるより犬千代の方が適任だ。

 それにさっきまで勝っていたし。


 だが俺も盤双六をだいたいではあるが理解出来てきた。

 運任せのしろ物ではなくきちんと考えて石を置かないといけない戦略性の高いゲームだ。

 小六姐さんと犬千代の石の置き方を見れば分かる。

 どちらも、ゴールを狙わず相手の石を妨害することで勝利していた。

 どちらも似たような戦術を使う。

 後は運が勝敗を分けるかもしれない。


「行きます」


「相手になるよ。お嬢ちゃん」


 小六姐さん、面倒だな。

 小六と呼ぼう。

 小六が利久同様に犬千代を挑発する。


「ふ、年増は口数が多いですね?」


「そうかい。なら、たっぷり遊んであげるよ」


 挑発には挑発で返す犬千代。

 やっぱり兄妹だな。

 でも、年増呼ばわりされた小六は笑って返した。


 終始無言でゲームは進む。


 序盤は妨害の為の石並べ、中盤は互いに石を弾いて進ませず。

 そして、終盤。


「これで」


 犬千代が上がり始める。


「お粗末だね」


 しかし小六が妨害する。


 結果は、小六の勝ち。


 中盤は互角だった。

 終盤、犬千代が焦って上がろうとした所を上手く弾かれた。


 小六は強い。


 改めてそう感じる勝負だった。



 その後はプレッシャーに負けたのか犬千代がミスを連発。

 敗けを重ねた。


 そして残り一千貫。


 負ければ残り五百貫。

 これ以上はまずい。

 今回は上に話を通していない。

 下手をすると今回の事に関わった全員が物理的に首を斬られる。


 そんな事になったら……


 俺や利久はともかく、犬千代にまで責任を取らせてはいけない。

 今回は利久が原因だ。

 犬千代は付いてきただけ。

 そんな彼女に責任を押し付ける訳にはいかない。


「犬千代。俺がやる」


「藤吉殿。でも」


「最後は俺がやる。ダメだったら利久に責任を取らせるから」


「………すみません。力になれなくて」


「十分だよ。任せて」


「はい」


 責任は俺が取る!


 ダメなら利久に丸投げしよう。

 言い出しっぺは利久だ。

 上に追及されたら勝三郎と供に利久に全ての責任を押し付けよう。


 よし、これで行こう。



 犬千代を下がらせて小六と対峙する。


「真打ちかい。もっと早く出れば良かったのにねえ。もう終わりだよ」


「主役は最後に美味しい所を持っていくものさ」


「そうかい。ならあんたは端役だよ」


 人生一度は口にしたいセリフを言えた。

 そして、小六にモブ扱いされた。

 分かってるよ自分がモブなのは!

 でも、モブはモブなりにやらなきゃいけないんだよ!


 ふと思った。


 このままやってまぐれで勝っても目標の金額に届かない。

 仮に負けてもすんなり帰してくれるだろうか?

 それに向こうの方が賭け金は上だ。


 もしも賭け金を上乗せされたら……


 俺が書いた証文は一口五百貫の取り交わしと支払いの履行だけだ。

 賭け金の上限を書いていない。


 しまった。完全に抜けてた。


 どうする、どうする。


 ええい、しょうがない。


「最後の勝負にしないか?」


「最後の勝負?」


「このままやってもこちらは賭け金が足りなくなる。だから最後の勝負だ」


「賭け金が足りないのはそっちの都合だろう。こっちは関係ないねえ」


 そう言うだろうと思った。ならば。


「賭け金は俺自身だ。どうだ!」


「ぷ、バカなのかいあんた。自分を賭けるなんて。あんたに一千貫以上の価値が有るのかい?」


「有る」


「ふふ、ふはは、はははは。あんた、バカだねえ。良いよ乗ってやるよ。ただし後悔しないこった」


「ああ大丈夫だ」


 よし、これで大丈夫だ。


 勝負をこの一回で終わらせる。


「藤吉殿」


「大丈夫。任せろ」


「………はい」


 再度証文を書き直した。


 念のためな。


「良いのかい。これで」


 光秀が心配して声を掛けてくれた。


 見た目通りに良い奴だな。


 俺は無言で頷きそして小六を見る。


「先手を譲ってやるよ。おバカさん」


「では、御言葉に甘えて」


 俺は遠慮と言う言葉を知らない。

 譲ってくれるのなら有り難く頂こう。

 謙虚は美徳にあらずってね。


 先手を譲って貰い、いざ、勝負!


 今までの戦いを見ていたのでそれを参考にじっくりと腰をすえて自陣を埋めて行く。


 重要なのは相手の石を上がらせない事。


 そして自分から先に上がらない事。


 自陣の石が少なく相手の石が多いと石を弾かれる回数が増える。

 要は罠で弾かれた石を戻している間に相手に上がられてしまうか。

 全ての石を相手に弾かれてしまうかのどっちかだ。


 だから上がれる賽の目が出ても、わざと上がらないようにする。


 犬千代は上がりを優先して負けた。


 なら俺は、相手の石を全て弾いてしまうくらいの気持ちでやろう。


 しかし、全ては賽の目次第。



「よし、ここだ」


 勝負は後半に入っていた。


 序盤は俺が初心者と気づかない小六が慎重に石を並べていた。

 そこで俺はゴール近くに石を並べた。

 ゴール近くの方が勝負の終わりに近くになると石が溜まりやすくなって石を弾かれ難くなると素人考えでやってみた。


 それがズバリ嵌まった!


「ち、邪魔な石が」


 序盤、中盤を優位に進めていた小六は俺がわざと上がらない事に気づいたが後の祭り。

 石を弾けない上に上がりにくい状況になっていた。


 しかし、俺も状況は一緒だ。

 こっちは石の数も多いので一気に上がってしまいたい欲求に駆られるが我慢する。


 焦れば犬千代と同じ目に合う。


 我慢だ、我慢。


 だが賽の目は俺の期待を裏切った。

 小六の振る賽子は次々に石を上がらせた。


 ヤバい。


 どうする。

 こっちも上がりに切り替えるか?

 でもまだ数が多い。


 どうする、どうする?


「あっ、しまった!」


 ここで俺は痛恨のミスをしてしまう。


 上がれる賽の目が出たのに数え間違えてゴール出来なかった。


「ふふ、あらあら大変だねえ」


 やってしまった!


 一回上がりを損してしまった。

 そして小六は俺のミスを見逃してくれなかった。

 次々と上がっていく小六の石。

 俺も負けじと石を上げていく。

 こうなると一回損をした俺が不利だ。


「くそ、足りない」


 後、少し。

 もう少し早く動けば良かった。

 小六の石は後一つ。

 俺の石は後二つ。


 俺は手を合わせて祈る。

 恥も外聞もない。

 頼む~。

 上がらないでくれー。


「情けないね。神頼みかい。でも、ようやく終わりだよ」


 小六が俺の姿を見て呆れながらも、賽子を振る。


 出目は、……………


「な?」


「やった!」


 小六の石は、上がれなかった。


「でもこっちがまだ有利だよ」


 僅かながら声に張りがない。

 緊張していたのか。


 それよりも俺だ。


 二つ一辺に上がるには偶然を出さないといけない。

 賽子を持つ手が震える。


 落ち着け、大丈夫だ。


 心を落ち着かせる為に深呼吸をする。

 ふと後ろを見れば犬千代が心配そうな顔をしている。


「あ、あの藤吉殿」


 大丈夫だと目で訴えて視線を盤に戻す。


 よし、振るぞ。


「何やってんだ。早く降れよ」


「何って利久お前。あ、止めろ」


 何時から起きて居たのか。

 利久が横から声を掛けて手を賽子に伸ばした。

 反射的に交わしたが思わず賽子を落としてしまう。


 盤に賽子が落ちる。


「バカお前。勝負の最中に何しやがる」


「藤吉がもたもたしてるから俺が振ろうと」


「余計なことすんな!」


「二人とも賽子が」


 犬千代に言われて俺と利久が賽子を見る。


「「ああああああ!!」」


 落ちた賽の目を見てビックリ。


 俺と利久はその場で固まった。


 光秀が盤を覗きこむ。


「ふむ。上がりだな」


「………そんな」


 がっくりと肩を落とす小六。


「よっしゃー!」


 俺は両手を上げてガッツポーズを取った。


 嬉し過ぎる。

 この嬉しさは右筆になった時以来だ。


「藤吉殿」


「犬千代」


「ドキドキしました。でも、良かったです」


 犬千代が俺の両手を持って喜んでくれる。


 良かった、本当に良かった。


 最後の最後で幸運に助けられた。


「いや、さすが藤吉。まさかあんなんで上がるなんてなぁ~」


「さすが藤吉殿です。本当に凄いです。後、兄上。分かってますね」


「う、半分は俺のお蔭だろう」


「ええ、危うく負けかけましたけどね」


「いやー、私もあんな勝ち方は初めて見ました」


「そうだろう、そうだろう」


 利久と犬千代、そして光秀がわいのわいのと盛り上がっている。


 俺は極度の緊張からか座り込んでいた。


 ふと小六を見ると先程までの余裕の態度は何処に行ったのか。

 頭を垂れる元気のない小六の姿が見れた。

 勝負は終わっても払いがまだだ。


 まだ、賭場の夜は終わらない。



お読みいただきありがとうございます。


誤字、脱字、感想等有りましたらよろしくお願いいたします。


応援よろしくお願いします。

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