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藤吉郎になりて候う 〜異説太閤紀~  作者: 巻神様の下僕
第一章 尾張統一にて候う

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第二十二話 賭場に参りて候う

 美濃井ノ口にやって来た。


 ここで美濃の国の俺が知っている事を少し話そう。


 現在の美濃の支配者は『斎藤山城守利政』だ。

 道三とは名乗っていない。

 確か隠居した後に道三になったはずだ。

 今現在は現役バリバリの国主様だ。


 年は六十近い。

 正確な年齢は分かっていない。

 どうやら長良川の戦いは起こっていないようだ。

 まだ、隠居してないから当然か。

 親子仲が良いのか?

 少なくとも表立って対立している訳ではないようだ。

 そんな斎藤家は東は武田、北は越前朝倉、西は浅井、六角、南を織田家に囲まれている。

 武田とは東美濃の遠山家を間に挟んで睨み合い。

 朝倉とは和睦中。

 浅井は眼中になし。

 六角は畿内に目を向けている。

 我が織田家とは婚姻同盟を結んでいた。

 信長が死んだ後、濃姫はそのまま尾張に残った。

 葬儀に使者を派遣してきたが同盟を維持する話は出なかった。

 もしかしたら虎視眈々と尾張を狙っているかもしれない。


 しかし、どうにもな。

 死んでる人が生きてて、生きてた人が死んでるなんて違和感ありありなんだよ。

 信長が死んで狂ったのか?

 その前から狂ったのか?

 おそらく後者だろう。

 史実と違うから先の展開が読めない。

 面白いと思えば面白い。

 当事者でなければな。


 話が逸れたな。


 今いる井ノ口は斎藤山城守の苦心の城下町だ。

 区画がはっきりと分かれ、人の流れがスムーズだ。

 清洲が雑多なイメージなら、井ノ口は落ち着きのある町と言えようか。

 しかし、人の流入は清洲の方が多そうだ。

 清洲より井ノ口の人々の方がのんびりと言うか、余裕が有るように見える。


 これが斎藤山城守の治世か?


 そんな町並みを見渡しながら町を周り宿を取る。

 利久の説明によると賭場は夜からだそうだ。

 その時間が来るまで待つ。


 おそらく強面な人達が沢山居るんだろうな。

 本来ならお留守番をしていたいが、利久一人に行かせる訳にもいかない。

 目を離すと何をするかわからない。

 俺と犬千代も同行する事にした。


 今回の美濃での資金集めは、上の連中には知らせていない。

 勝三郎も後になって冷静さを取り戻したが、もう遅い。

 やる気になった利久を止められなかった。

 仮に市姫様達に説明したらきっと反対される。

 それどころか市姫様も来たがるかもしれないと勝三郎が心配した。

 確かに市姫様だったら嬉々として付いてきたかもしれない。

 市姫様はおてんばな所が有るからな。

 きっと、いや絶対に付いてくるだろう。

 だからこの事は上層部は知らない。

 俺達の行方は勝三郎が上手く誤魔化してくれるだろう。


 多分帰ったら平手のじい様にこっぴどく叱られるだろうが。

 とにかく資金を手に入れる。


 それしかない!



 ※※※※※※※※



 日が暮れて、夜がやって来る。

 現代の夜よりも深い闇が辺りを包む。

 そんな中に一際明るい建物が有った。

 そこに近づくにつれ明るさと喧騒が聞こえてくる。


 『ようこそ、夜の町井ノ口に』


 建物の中に入った時そう聞こえた気がする。


 利久を先頭に俺と犬千代が続く。

 俺の袖を犬千代がそっと掴む。

 少し怯えているのかもしれない。

 袖を掴む手にそっと手を添える。

 ビクッとした後にはにかむ犬千代。

 ちょっと珍しいな。


「大丈夫か、犬千代?」


「へ、平気です」


 声を掛けると犬千代の声は震えていた。


「なんだ犬千代、怖いのか? だから宿に残れと言ったのだ」


「怖く有りません。兄上を野放しに出来ません」


「それには俺も賛成だ。まあ、一人残して何か有ったら大変だ。一緒の方が良い」


「そうかい。じゃあ、大人しく見てろよ。騒ぎを起こすなよ」


 騒ぎを起こすな、利久のセリフじゃないな。


 でも、周りを見ればそれも納得する。

 俺や利久より背が低い者達が俺達の周りを遠巻きにしている。

 場違い感が有るのは俺達だ。

 余計なトラブルは未然に防がないとな。

 絡まれるなんてもっての外だ。


 そんな周りの無遠慮な目を気にすること無く、利久は奥の部屋に向かう。

 まるで以前ここに来たことが有るかのようだ。


「おい、前に来たことが有るのか?」


「おう、有るぜ。信長様のお供でな」


 な、信長だと!


「信長様と来たのか?」


「どういう事です。兄上」


「前に来たときは信長様が婚礼前に斎藤山城に会うと言ってな。それでここに居ることを聞いて皆でやって来たんだ。そんで斎藤山城と会った信長様が双六を一緒にやったんだよ」


 信長は結婚前に道三と会っていたのか?


「その話本当か! 勝三郎は当然知ってるんだろうな?」


「ああ、勝三郎も知ってる」


「もしかして、ここに来たのは」


「斎藤山城守利政に会うためだ」


 なんで、そうなるんだ?


「何で?」


 かろうじてそれだけが言えた。

 ショックがでかすぎる。


「一口十貫って言っただろう。ふふん。それだけの賭け事をする人物は限られてる」


 女を口説く事以外能がないと思っていたのに。


「ほ、本当に」「兄上、悪ふざけが過ぎます」


「まあ、斎藤山城に会えるかも知れないってだけだ」


「何だと!」


 ウソなのか?


「そんな大物も居るかも知れない賭場って事だ。今回は居ないみたいだな」


「藤吉殿。私も市姫様から聞いた事が有ります。信長様が斎藤山城に会ったのは偶然だったと」


「偶然かよ!」


 偶然でも会ってるのか。

 信長と道三は。


 以外な暴露話を聞きながら歩いていく。


「そら、着いたぞ。相手の素性を詮索するなよ。それがここの決まり事だ」


 部屋の前に居る門番みたいな男に金を渡した利久。

 男は何も言わずに戸を開けた。

 そこには既に相手が待っていた。


 女だ。


 女の後ろには男が三人いた。


 てか、デカイ。


 女は俺と同じか、俺より少し大きい。

 髪は長く、後ろに紐で縛っている。

 目付きが鋭い。

 年は三十前か?

 中々の美人だ。

 清洲城の女中でも上位に入るほどの美人だ。

 そして、デカイ。

 何がって、あれがすごいデカイ。

 男者の着物を着ているがそれを押し退けて存在を主張している。

 これは目に毒だ。

 視線がそっちに行ってしまう。


 いでっ。


 犬千代につねられた。


「あんた達が相手かい?」


 おっと、声に艶がある。


「ああ、そうだ」


「良いのかい。ここは高いよ?」


「だから来た。とっとと始めようぜ」


「せっかちだねえ。そんなに早いと女にモテないよ。ぼうや」


 後ろの男達が笑いだす。

 下卑た笑いだ。

 だが、動じない利久。

 慣れてるな。


 しかし、煽るな~。

 それに耳障りの良い声だ。

 おまけにしなを取るポーズ。

 完璧だ。

 是非、今夜お相手をお願いしたい!


 いだっ。


 また犬千代につねられた。


「早くても腕には自信が有るぜ。さぁ、始めよう」


 さすが利久。

 下ネタには下ネタで返す。

 双六の盤の前にどっかと腰を降ろす利久。


「しょうがないねえ。お相手しようか」


 女も腰を降ろす。


 おお、揺れてる、すげえ揺れてる!


 く、これはダメだ。

 見てはいけない。

 見てはいけないのについ、目が行ってしまう。


 ぐあ。


 またまた犬千代につねられた。


 痛い、痛い、ごめんなさい、許して。


 俺達も腰を降ろす。

 向こうの男達も同様だ。


「じゃあ、始めようか」


 利久が賽子を持った。


 いざ、勝負!



 ………俺は見てるだけだけどね。



お読みいただきありがとうございます。


誤字、脱字、感想等有りましたらよろしくお願いいたします。


応援よろしくお願いします。

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[一言] 小六姉さん…。
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