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第二百十七話 動き出す戦場

 来ぬか。


 長島を囲って既に三月が流れた。

 それでも木下藤吉は現れぬ。

 これ以上待っても現れぬのならしょうがない。


 長島を落とし織田家を潰す。


 これで木下藤吉が現れても誰も味方する者はいなくなる。

 あやつの強みは人を惹き付ける力。

 それが無ければただの子利口な男と言うだけ。

 わしの敵ではない。


 瀬田の戦いの後、傷を負ったわしは馬場と内藤に軍を任せた。

 動けぬわしに代わって二人はよく働いてくれた。

 それに山本勘助。

 あやつは次郎と四郎を捕らえた。


 わしに刃向かうかと思っておったが、太郎亡き今敵わぬと見たようだ。


 次郎と四郎は井ノ口に押し込めた。

 この長島攻めが終わった後に会う。

 次郎も木下の末路を知ればわしに刃向かうことも無かろう。

 そうすれば後は次郎に任せて、わしは再び隠居に戻る。


 久しぶりの戦は体に堪える。


 この鎧の重みは今のわしにはきつい。

 ふ、おかしなものよ。

 昔は鎧の重さ等感じなかったのだがな。

 これも歳を取ったからか。


 二度目の生を受けて既に六十近く。

 残りの寿命も近い。

 後十数年は有るとは思うが、それも確かとは思えん。

 もしかしたら後数年かも知れん。

 残された生で何が出来るか?


 織田を潰し津(港)を得る。

 そして今川を押し潰す。

 三河の小僧はその後にどうするか決めるか?

 あの小僧は上手く踊ってくれたが、今はもう必要有るまい。

 惜しいとは思うが、一揆ごときに手こずるようではな。


 甲斐信濃飛騨美濃尾張三河遠江駿河、それに南近江か。


 これだけの領地を得れば武田の天下は磐石よ。

 太郎は情に走りがちではあるが、補佐する者が優秀で有れば問題あるまい。

 次郎は堅実な男。

 後を任せても大事ない。


 そうなればゆっくりしよう。


 ここ数年はいささか走り回り過ぎた。

 それに疲れもした。

 甲斐に戻り湯治でも楽しむか。


「申し上げます。志摩水軍が到着したようです」


「そうか。来たか。これで終わりだな」


 伝令を受けたのは馬場。

 わしは天幕の奥に居る。


「失礼致しまする。御屋形さま。先ほど志摩水軍がやって来たようです」


「うむ。聞いておった。後は任せる。内藤と計り長島を落とせ」


「は、お任せを」


 ようやく来たか。

 これで長島は落とせる。

 馬場と内藤なら問題ない。

 わしが出ていく必要もない。

 これで終わりじゃな。


 後は木下の残党を如何するか?

 それに木下藤吉本人は?


 木下藤吉が伊賀に居るのは確認済み。

 手の者を放って確認させたが、伊賀内部の戦に巻き込まれたと報告を受けた。

 しかし、その後の行方が分からぬ。


 こちらに向かって居るのかどうか?


 だが問題あるまい。

 木下藤吉がここに現れても既に遅い。

 長島は落ちる。

 それに現れても馬場が対処しよう。

 秋山に任せてもよかろう。

 何の問題にもならん。


 それにしても織田市には呆れたわ。


 よもや木下を見捨てるとは思わなんだ。

 あれほど執着を見せておきながら、木下を助けんとはな。

 それとも家臣達に止められたか?

 だがその判断は間違いよ。


 わしがあやつの立場であったなら、時間を稼ぎ防備を固める。

 長島に我らを通した後に背後を襲い強襲する。

 そして長島の兵とで我らを挟撃して終わりよ。


 織田市は判断を誤った。


 わしを討つ好機を逃したのだ。

 これが太郎(晴信)や信長であったなら危うかったであろう。

 それに長得で有ればこの好機を逃す筈が有るまい。


 それに比べれば織田市はいささか期待外れであったな。


 ふぅ、おかしなものよ。

 手強い敵を欲するとはどうかしておる。

 これも木下藤吉のせいか。


 もしかしてわしはあやつに期待しておったのか?


 華々しい戦を期待してわしはあやつを待っておったのか?


 ふむ、そうかもしれんな。

 木下藤吉に今川長得、織田市には煮え湯を飲まされた。

 それを思えば今の状況は出来すぎておる。

 あやつらなら何か仕掛けておっても不思議ではないと思っておった。

 しかしどうやらそれもない。

 木下藤吉と離した結果かも知れん。


 今や小娘二人恐れるに足らず。


 後は吉報を待つか。


「も、申し上げます! 志摩水軍が、志摩水軍が」


「何を慌ておる。はっきり申せ」


「は、志摩水軍が襲われておりまする」


「何を申しておる。佐治はこちらに向かってはおるまい。それに服部の船はまだ出て来ておらぬ筈。どこの船が襲っておるのだ!」


「そ、それが見た事のない船でして……」


 来おったか。


「案内せよ」


「お、御屋形さま」


「早うせい」


「は、馬引けい!」


 佐治が動いておったか?

 やはり自前の水軍を持たぬでは話にならんか。

 草達(忍び)も船の動きは見れぬからな。


 ふふふ、木下藤吉。ようやく現れおったか。


「な、なんだあの、船は?」


「あれが船? あのような大きな船が有るのか!?」


 な、なんじゃあの船は!?


 百艘近い船が見える中に一際大きな船が見える。

 その船は周りの船を蹴散らしてこっちに向かってきおる。

 それに火矢を射かけられても物ともせん。

 そしてその船より発せられる轟音。

 その轟音がする度に周りの船が沈みおる。


 ま、まさか。あれは鉄の船か?


 直接見た事はないが信長が九鬼に作らせた船に鉄の船が有ったのを覚えておる。

 あれがそうなのか?

 遠目でもその異様さが分かる。


「お、御屋形さま」


「戦はこうでなくてはな」


 ふふふ、血が騒ぐわ。

 よもやあのような物が有るとは思わなんだ。

 だが、それがどうした。

 所詮は船よ。

 地に立つ我らにはどうしようもあるまい。


「筒を奴に向けよ。あれは動きが遅い。狙いは外すまい」


「は、筒を用意せい!」


 ふふ、伊勢より参るとは思ったが船で来るとは思わなんだ。

 だが、この筒の前にはいなかる船も無力よ。

 これで止めをくれようぞ。


「も、申し上げます。津島から織田の兵と思われる軍勢がやって来ております。その数一万余り」


「織田が動いた。今さら。原と秋山をぶつけい」


 虎胤に虎繁ならば蹴散らせよう。

 織田の弱兵など物の数では有るまい。


「申し上げます。桑名よりも兵が来ております。その数、数千余り」


 そうか、そうか。そう来たか。


 ふふふ、木下藤吉では有るまい。

 これは長得だな?

 よかろう。相手に取って不足無し。


「馬場行くぞ」


「は。しかし、我らで対処出来ますれば」


「我らを侮った者共がどうなるか。見せねばな」


「は、ならばお供付かまつりまする」


 ははは、これぞ戦よ!


 このゾクゾクとした感じこそ生きていると感じるわ!


お読み頂きありがとうございます。


誤字、脱字など有りましたらよろしくお願いいたします。


応援よろしくお願いします。


感想くださりますよう切にお願い致します。

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