第二百九話 悪夢の敗戦
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現在、2chRead 対策で本作品「藤吉郎になりて候う」においては、
部分的に本文と後書きを入れ替えると言う対策を実施しております。
読者の方々には、大変ご迷惑をおかけいたしますが、ご理解の程よろしくお願いします。
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まさか、まさかの包囲陣!?
現在西から武田、北から叡山、東から近江国人衆。
完全に囲まれた。
ここ瀬田で俺は今までにない窮地に立たされていた。
「叡山や蒲生は後どのくらいでここまで来る?」
「二刻、無いかと」
ならまだ対策は取れるな。
「軍議を開く。利久達を呼んでくれ」
「は!」
さて、皆が集まるまでに方針を立てないとな。
まず、ここに残って交戦する。
全滅だな。
間違いない。
囮を使って脱出する。
誰が囮になる?
そいつは生き残れないし、脱出出来るのか?
降伏する。
俺は殺されるが皆は助かるかもしれない。
いよいよとなったら……
いや、駄目だ。
そんな弱気でどうする?
必ず生き残って尾張に帰るんだ!
もちろん皆でだ!
ふぅ、だがどうするか?
「おいおい、なんだ、なんだ。湿気た面しやがって。こんな楽しい戦はまたとないぞ、藤吉」
お前はぶれないな、利久。
「左様です。血が騒ぎますな。ははは」
三左衛門はやや興奮してる。
この人も利久と同じ部類か?
「揃ったな。では…」
「ちょっと待ったー!私を忘れるなー!」
あ、昌景さんを忘れてた。
ちっちゃいから気付かなかった。
「現状を皆に説明しろ。半兵衛」
「はい、分かりました!」
右手をビシッとあげて元気に答える半兵衛。
「……と言うのが、現状です」
「付け加える事は有るか、為俊」
「は?い、いえ。御座いません」
為俊の奴、驚いてる。
それに軍議に参加するのも驚いていたな。
現状を知ってる奴の話を聞かないと始まらないのに、何で一々驚いてるんだ。
「ほうほう。四面楚歌ってやつか」
「お、前田殿は物知りで御座るな」
「兄上は和歌とか詩とかしか、興味がないと思ってました」
「ははは。それに女も、だろ」
「違いねえ」
「あんたら余裕だなぁ~」
「そう言う親父はどうなのさ?」
「一、そいつは言わなくても分かるだろう?」
「むふー。ここは私らの出番だよな?そうだろう、藤吉殿」
何だろうな。
家の奴等は何でこうもいつも通りなんだ。
全然危機感を感じないよ。
「兄者?」
分かってるよ、小一。
「皆分かってると思うが、逃げるぞ」
現状ここに止まると全滅。
降伏も駄目。
なら、逃げるしかない。
「よし、分かった。殿は俺に任せろ!」
「いやいや、それは私の役目ですぞ。利久殿」
「長康。護衛は任せるからねえ。しっかりと藤吉を守るんだよ。いいね!」
「任されましたよ。姉御」
「一、守重。撤収だ。準備しろ」
「「おう」」
「藤吉殿。活路は山縣隊で切り開く。任せろ。こんなのは慣れてる」
いやいや、皆待って。
何勝手に話を進めてるの?
俺を置いて行くなよ。
「では前田、森隊が殿を。昌景殿には敵中突破を。敵の注意を引き付けて下さい。佐大夫殿達は殿(藤吉)と共に退却です。小一殿は殿の影武者として小六さんと囮をお願いします。殿の護衛は私と長康殿で行います。為俊殿はここに有る火薬を使って陣を爆破して下さい。出来ますよね?」
「もちろんです。お任せあれ」
「おい、半兵衛?」
何を言ってるんだ?
皆で逃げるに決まってるだろう。
それなのに勝手に決めるな!
と言いたいのに、声が出ない。
「旦那様。私が付いてます」
「犬千代」
「しょうがないねえ。今回は譲ってやるよ。負け犬ちゃん」
「ふん。続きは尾張で、待ってますからね」
「ああ、分かったよ。藤吉を頼むよ」
「はい」
「じゃあね。藤吉。また、後で」
おい、小六。
待てよ。
待てって!
「兄者。おっ母には絶対帰ってくるって言って置いてよ。頼んだからね」
「小一。お前」
「行ってくるよ。兄者」
小一。
止めろ。
止めてくれ。
「じゃあな。藤吉。あいつには俺は浮気してなかったって伝えくれ。後、帰りが遅くなるってな!」
「藤吉殿。息子達をお願い致します。それでは御免」
「利久。三左衛門」
お、お前ら。
「行くぞ。藤吉殿。時間が無かろう」
ま、待ってくれ昌景さん。
「半兵衛。他に方法が有るだろう?な、そうだよな。お前なら皆で生きて帰れる方策を思い付くよな?」
「ご隠居から何が何でも殿を生きて帰せとの命を受けてます。皆。覚悟は出来てます」
「それは……」
「大丈夫です。殿さえ無事なら何度でも戦えます。今は生き残る事を第一に考えて下さい」
頭の中では、そうすべきだと言っている。
だけど、感情がそれを許さない。
許してくれない!
「待て、待ってくれ!俺も戦う。皆で……」
俺の意識はそこで途切れた。
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長康が藤吉に当て身をして気絶させた。
「まったく、困った大将だ」
「長康殿。殿を」
「分かってる。ところでよ。どこに逃げるんだ?」
「俺らも一緒で良いんだよな。竹中殿」
「半兵衛ちゃん。どうするの?」
「宛は有ります。最近雇ったばかりの人達ですが頼りになります。そうですよね、為俊殿」
「正直申しますと、私よりは腕が立つのが癪ですが、頼りになる御仁です」
「では、行きましょう。為俊殿。前田殿や森殿は必ず」
「は、お任せあれ」
「小一殿と小六さんは?」
「それは心配入りません。昌景殿が居ますから大丈夫です」
「意外だな。普段はあんなに姉御を嫌ってるのによ?」
「喧嘩するなら張り合いが有る相手が良いですから……」
パンパンと半兵衛が手を叩く。
「では皆さん、行動に移りましょう」
「「「おう!」」」
皆が去って為俊が残る。
「皆。木下藤吉が好きなのだな。ふ、それは私も同じか。どうせ仕えるなら仕えがいの有る相手と思ったが……」
「頭領?」
「前田様と森様を助け出せねば、殿に殺されるな。だが、二人が無事ならその時殿はどんな顔を為さるかな?ふふ」
「あの、頭領?」
「行くぞ。我が家の名をこの戦で残す好機ぞ!」
「「はは」」
この瀬田撤退戦において木下藤吉は負けた。
永禄四年 九月某日
木下 藤吉 瀬田にて武田家と戦い 敗北す
右筆 増田 仁右衛門 書す
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これにて九章終了です。
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