第二十一話 賭け事は苦手に候う
先日、レビューをいただきました。
とても、驚いております。
同時にテンションが上がりました。
金が足りない。
どうやっても兵糧を買う金がない。
二万貫を頭の中で配分していた時は十分に足りていたはず。
しかし、相場を考えてなかった。
一貫で二石。
それが普通の相場だ。
しかし今は戦乱の世。
金は有っても米がない。
そもそも貨幣経済が発展したのは物がない代わりに貨幣を使うことで浸透してきたのだ。
そして、現在の尾張の米の相場が一貫で一石と二斗。
必要な米の量が五千石。
約四千二百貫が必要だ。
だが、用意できるのは三千貫が精々。
残りの千二百貫を用意しないといけない。
しかしこれ以上の借金は津島では出来ない。
他に借金しようにも返済できるかわからない。
熱田で借金するという手も考えたが熱田は信行達の息がかかっている。
下手に熱田に借金して信行達に知られるのは不味い。
そこから勘ぐられて岩倉織田家攻めを知られてしまうかもしれない。
そうなると作戦その物を変更しないといけない。
津島からの借金はいつもの事なので良いのだが、どうしたらいい?
困ったら相談する。
ホウレンソウは大事だ。
俺と利久、勝三郎の三人で話し合う。
市姫様に信光様、平手のじい様は動けない。
と言うか準備に追われている。
割りと暇している利久と、上と直接話が出来る勝三郎に話す事にした。
「金が足りない」
嘘偽り無く真っ正直に話す。
こう言う時は回りくどい言い方をしてもしょうがない。
事実だけを話す。
「そうか。いくらだ」
「約二千貫」
勝三郎の問いに即座に返答する。
「二千貫か? それは………」
嘘を言っている訳ではない。
本当の数より多めに言っておけば、後で足りなかったという事になるよりもいい。
こうしている間も相場が上がっているかもしれないのだ。
「俺には妙案がない。他から借りる事も考えたが、尾張内だと足がつく」
「……熱田が使えんか」
勝三郎は俺が言わなくても察してくれた。
俺と勝三郎が、う~ん、う~んと唸っているのに利久は何も言わない。
「おい利久。何か無いのか?」
一人だけ会話に加わらない利久に聞いてみる。
すると利久がニヤっとする。
『あっ、こいつ何かろくでもない事を言うぞ』
俺と勝三郎が互いに顔を見合わせて同じ事を思った。
「古来、金を稼ぐなら賭け事が一番だ」
俺と勝三郎は同時に頭を抱えた。
「古来も何も賭け事で金を稼げるか!」
「そうだ。どうせ摩って終わりだ。ろくでもない」
常識人である俺達二人からダメ出しを食らう利久。
しかし、利久は折れなかった。
「時間が無いのだろう。十日や其処らで二千貫も稼げるか。どうだ?」
ぐ、こいつやけに強気だな。
日頃俺と勝三郎に言いくるめられているから調子に乗ってるな。
「大体、どんな賭け事で二千貫を作るつもりだ」
「それは勿論、双六だ」
…………ダメだこいつ。
俺と勝三郎は開いた口がふさがらない。
「ここ清洲だとあまり大口の賭けが出来ないが、美濃の井ノ口なら最低一口十貫だ。これなら稼げるだろう」
一口十貫。
ばかか、こいつ。
そんな賭けが成立するか?
成立してもほとんど胴元が持っていくに違いない。
聞くだけ無駄だった。
「もういい」
「待て、聞いた事がある。一晩で三千、いや、五千貫当てた奴が要ると」
おい、勝三郎君? 何言ってるの?
「そんなよた」
「そうだ勝三郎!それだ!」
おい、止めろ。
「いけるかもしれない」
それは逝けるだろうな。
「二人供、どうか」
「「これしかない」」
人の話を聞けー!
結局、二人の勢いに押しきられてしまった。
俺と利久、何故か男装した犬千代の三人で美濃井ノ口に向かった。
出発前に堀田家で二千貫の証文を書いてもらった。
一つ百貫の証文、二十枚だ。
現金を持ち歩く訳にはいかない。
それに現金を持っていたら盗んでください、襲ってくださいと言っているようなものだ。
これで井ノ口の商家でも換金できる。
なるべく急いで向かう。
三人とも馬での移動だ。
俺と犬千代が乗る馬はポニーを少し大きくしたものだ。
これは史実に近い。
サラブレッドや道産子みたいな馬は存在しない。
存在しないはず何だが?
利久の馬は道産子みたいだ。
この時代にあるまじき大きさ。
突然変異の化け物馬だ。
その名も『松風』
「ふざけんな利久! お前本当の名前は『慶次郎』だろう。『前田慶次郎利益』って言うんだろう。そうだろ、な!」
「何言ってんだ。お前」
くそ、こいつ慶次郎だよ。絶対そうだ。そうに違いない。
全然納得しないが旅を急ぐ。
ポニー事、馬に乗るのは初めてじゃない。
つい最近も乗っていた。
古戦場跡地を巡っていると馬に乗せてくれる場所もある。
あれに比べるとこの時代の馬は小さい。
俺くらいの背丈が有れば乗り降りも簡単だ。
扱いも慣れたものだ。
しかし、道が悪い。
昔実家の田んぼの手伝いをした時の畦道にそっくりだ。
それより幅は広いが地面むき出し草ぼうぼう。
舗装なんてされてない。
昔の人は、いや、今の人は大変だよ。ほんと。
尾張を統一したら道の舗装を献策するか?
そんな事を考えながら目的地を目指した。
そして仲良し兄妹は。
「犬千代。そんな格好ばかりだと誰も嫁に貰って貰えんぞ」
「大きなお世話です。兄上こそ先日はかよ殿の所にいたとか?」
「おま、何でそれを」
「直接聞きました。嫁にするそうですね」
犬千代は笑顔だが声が冷たい。
「そ、そんな話」 「先方は、両親に話すとか?」
「な、何で、ウソだろう」
顔を蒼白にしている利久。
「フフ、自業自得です兄上。帰ったらどうなるでしょうね?」
「お前、かよに何を言った!」
「さぁ、何でしょうか?」
怖い、怖いよ犬千代。
本当にのんびりした短い旅だった。
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