第二百八話 瀬田川撤退戦
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現在、2chRead 対策で本作品「藤吉郎になりて候う」においては、
部分的に本文と後書きを入れ替えると言う対策を実施しております。
読者の方々には、大変ご迷惑をおかけいたしますが、ご理解の程よろしくお願いします。
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法螺貝の音が辺りに響くと、武田が動き出した。
大勢の声が重なりあって法螺貝の音に負けないぐらい響いている。
この煩い音が俺の緊張を増す。
足下が揺れているのかと錯覚する程の音。
気づけば足が震えている。
これが戦場の空気だ。
これに呑まれると平静では居られない。
だから俺は手に持った軍配を握り締める。
そして震える足を軍配で叩く。
痛みを苦笑いで隠す。
さて、殺りますか。
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俺の名前は『鈴木 佐大夫』
木下家鈴木鉄砲隊を預かる男だ。
鉄砲を扱うようになって十数年。
これほど大量の鉄砲を一辺に扱う事が有っただろうか?
今俺達の前には昨日までは味方だった武田勢が襲い掛かって来ている。
俺は藤吉の大将に言われた通りに対処している。
そして武田勢は俺達の柵にたどり着く前にバタバタと倒れていく。
この戦が始まって直ぐに藤吉の大将は何を思ったのか、軍配で自分の足を叩いていた。
その音を聞いて俺は何事かと思い大将を見ると、大将は笑みを浮かべていた。
まるでこれから始まる戦が楽しみで楽しみで仕方ないと言った笑みだ。
俺はそれを見てぶるりと震えた。
この不利な状況であんな笑みを浮かべる奴が居るだろうかと?
実を言えば、俺はこの戦いが始まる前は不味いと思っていた。
相手は三倍以上の敵で、しかも戦い慣れている連中だ。
それにその戦いぶりを俺達は見ている。
武衛屋敷では何とか成ったが今回はどうかと。
しかしそれは、俺の杞憂に終わりそうだ。
目の前の武田勢は竹を何本も集めてそれを一束にし、それを盾にしてこちらに突っ込んでくる。
俺達はそれに目掛けて撃ち込まない。
竹の盾に撃ち込まれているのは鉛の玉じゃない。
火矢だ。
いつの間にか用意した火矢を打ち込み。
竹がパチパチと音を発てて燃える。
そして竹の盾を捨てたところで俺達が種子島を撃つ。
何とも楽な戦だ。
そして、この楽な戦を創ったのが藤吉の大将だ。
俺達とは物が違う。
そう感じる。
これが種子島を使った新しい戦だと俺は思ったね。
俺は藤吉の大将に賭けたのが間違いないなかったと確信した。
武田勢はもう成す術がないだろう。
武衛屋敷で戦った時も感じたが、武田は種子島の戦いに慣れていない。
せっかく用意した竹の盾を生かせていない。
何であんなにちぐはぐなんだ?
種子島の戦いに慣れていないのに種子島の為に用意したと思える竹の盾を持っている。
しかしそれを有効的に活用出来ていない。
武田勢は精強だ。
それは今までの戦い方を見ていれば分かる。
分かるだけに不可解だ。
これならまともに殺った方がましじゃないのか?
何も考えずに遮二無二に向かって来られた方が大変だった筈だ。
竹の盾が有ることが返って足を引っ張っているようだ。
それに比べてこっちは竹の盾の対処をあっさりと思い付き実践している。
この違いは何なんだ?
「やはりそうか」
ふと大将の呟きを聞いた。
『やはりそうか』どう言う意味だ?
藤吉の大将はこうなる事を予想していた。
そしてそれはズバリ当たった。
そう言う意味の言葉なのか?
ふむ、後で聞いておくか。
おっと種子島が熱を持ってそろそろ撃てなくなるな。
「大将、そろそろ休ませないと撃てなくなるぞ」
「分かった。後は散発で良いから撃ってくれ。種子島が撃てなくなったのを覚らせたくない。伝令を呼べ!前田、森隊に伝令だ!」
さすがは藤吉の大将だ。
よく分かってる。
「おい、一番隊と三番隊は撃つのを止めろ。二番隊と四番隊には間を置いて撃たせるんだ。次の一斉射に備えろ。それと無駄玉撃つ奴は許さんぞ!」
ふふふ、これからは種子島が戦の華だ。
刀や槍はもう古いのよ。
それをこの戦いで証明してやるぞ。
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戦いはこちらの一方的な展開に成っていた。
瀬田川の浅瀬の前に陣取った俺達に武田は大軍での攻勢が出来なかった。
少数による突撃はこちらの思うつぼ。
種子島の餌食に有って右往左往するばかり。
それに肝心の竹束は火矢を用いて無力化した。
伊賀者と為俊に命じて用意した火矢はその効力を遺憾無く発揮した。
竹は発火しやすい。
火矢を用いれば簡単にとは行かないが燃える。
それに態々忍びの者達に火矢を用意させたのは彼らが火を点けるのに長けた連中だからだ。
何も用意が出来ていないのに火矢の準備なんて出来ていない。
それなのに為俊は何の問題も無かったように火矢を用意してくれた。
命じた俺が驚くほどの用意周到さだ。
帰ったら褒美をたんまり出そう。
そして思った通りの展開だ。
やはり武田は種子島の戦いに慣れていない。
武衛屋敷での戦いで感じた通りだ。
これが三好等の近畿から西の方の連中なら違っただろう。
西と東では種子島を使った戦いの回数が違う。
そして、戦は経験が物を言う。
経験した事が有るのと無いのでは全然違う。
そう言う意味では武田はこれほど多くの種子島を使った戦いは初めての筈だ。
例え種子島対策で用意した竹束を用いても、それを扱い慣れていなければ話にならない。
信虎が転生者で、種子島の脅威を知っていても他の奴等はそんな事は知らない。
その温度差がこの結果に現れている。
しかしこの後の戦いは厳しい物に成るかも知れない。
この戦いを経験した連中は手強い相手になる。
はぁ、戦う度に相手が強く成るのかと思うと憂鬱だ。
今後も楽な戦いが出来れば良いのに。
しかし、そんな俺の願いは叶わない。
「殿。山中様がこちらに至急知らせたき事が有るとの事です」
伝令がやって来て半兵衛に耳打ちして、それから俺に伝える。
面倒くさいやり取りだ。
しかし、伝令が敵の間者に化けている可能性も有るので用心の為にこんなやり取りをしている。
「通せ」
「は!」
そして為俊がやって来た。
その顔色に変化は無い。
「何か有ったか。為俊?」
まあ何か有ったから来たんだよな。
自分でも何で分かりきった事を聞いているんだと思った。
「は、武田の新手が現れました」
「何?」
武田の新手?
どこからやって来たんだ?
「武田の新手は叡山です。比叡の僧達がこちらに向かっておりまする」
うそー!?
何で叡山が俺達を襲うんだよ?
「それから」
まだ有るのかよ!!
「それから後方より蒲生、進藤らの軍勢が迫っております」
ここで来たのかよ!!
不味い。
進退極まった。
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