第二百三話 武衛屋敷撤退戦
遅くなりました。
信虎を舐めていた訳ではなかったが、まさか竹束を用意していたとは思わなかった。
そして、俺たちを包囲した武田兵は竹束で壁を作ってジリジリと迫る。
「あれは竹か。あんなので種子島をどうにか出来るのか?」
長康の疑問は最もだ。
それに対して佐大夫が答えた。
「前野殿。竹束は結構厄介だ。だが奴らはそれを使い慣れていないみたいだがな」
「そりゃどういうこった?」
長康の問いに守重が答える。
「あんな感じでジリジリ寄ってくるよりも、走って距離を縮められたほうが厄介なんですよ。あれだと全然脅威にならない。あいつら竹束を使ったことがないんじゃないのかな?」
なるほど。
確かに竹束を盾にして走り寄って来られたほうが厄介だ。
種子島は連射が出来ない。
撃った後に一気に距離を詰められて、斬りかかられたら大変だ。
しかし、武田兵は俺達との距離を縮めるのを躊躇っているようだ。
案外武田兵は種子島の対処に慣れていないのかもしれない。
これはチャンスだ!
「佐大夫。囲みを突破するぞ。一点突破だ!」
「分かったぜ。野郎共、構えろ!」
佐大夫が即座に反応する。
「長康後ろを頼むぞ。鉄砲隊は絶対に守れ!」
「了解だ大将! 全員、抜刀!」
長康の号令で蜂須賀党百人が刀を抜いて構える。
武田兵は俺たちと距離を縮めるがその歩みは遅い。
これなら行ける!
「佐大夫!」
「撃てい!」
佐大夫の指示で種子島が火を吹く!
種子島の煙が晴れる前に俺は号令する。
「突っ込め!掛かれ、掛かれい!」
「「「おお!」」」
俺を先頭に武田兵に突っ込む木下隊。
そして種子島が放った煙の向こうに出るとそこには竹がバラバラに散乱して、その周りの兵達は倒れていた。
さらにその後方の兵達は歩みを止めていた。
三度目の種子島による轟音は武田兵を怯えさせる事に成功したようだ。
その怯える武田兵に突っ込む俺達。
「邪魔だ!邪魔だ!どけー!」
俺は棒立ちになっている武田兵を斬りつけ、蹴飛ばして退路を確保する。
俺の隣では半兵衛がしっかりと付いてきている。
それに佐大夫達も種子島を小脇に抱えて俺達に付いて来ている。
よし、行ける!
武田兵の囲みを抜けた俺達は清水寺に進路変更をして走る。
しかし、そんな俺達に武田騎馬隊がやって来た!
武田は史実では騎馬隊で有名だが、実際には馬に乗っている人は少ない。
指揮官クラスの人間が乗っているだけだ。
だから騎馬隊なんて無いと思っていたがこっちでは本当の騎馬隊が有ったのだ!
だが、騎馬の数は少ない。
その数は二百ほどで武田騎馬隊を率いているは馬場民部である。
分かっていたが馬場民部は信虎の手先だった。
「走りながらでは種子島は撃てん。両脇から挟んですり潰せ!」
さすが武田四天王の一人。
的確な指示をだす。
武田騎馬隊は馬場民部の指示に従い二手に別れる。
その素早い行動に敵ながら天晴れと言いたいが必死に逃げている俺達にそんな余裕はない。
「殿。このままでは鉄砲隊に被害が……」
半兵衛の問いに俺は何も答えない。
貴重な種子島とその撃ち手を失うのは非常に痛いが損失を恐れては生き残れない。
ここは目をつぶらなくては。
そう思っていた俺達の目の前に赤い集団がやって来る!
「山縣昌景ここにあり!木下隊を助けるぞ。皆続けえい!」
地獄に仏!
昌景さんが山縣赤備えを引き連れてやって来たのだ!
「く、昌景か! ええい、この裏切り者が!」
「黙れ民部!裏切り者はお前達だ!」
「我らの主は左京大夫様だ。大膳ではない。昌景、そなたの兄飯富は我らに付いておる。お主も左京大夫様に御味方しろ!」
「例え兄上が敵になろうとも仰ぐ旗を変える私ではない!そして私の主は勝様だ!左京大夫でも大膳様でもない。間違えるな民部!」
「く、この小娘が!」
「私はちっちゃいが小娘じゃない!」
馬場民部率いる騎馬隊と昌景さん率いる山縣赤備えが真っ向からぶつかる。
山縣赤備えが武田騎馬隊に真正面からぶつかるなんて正気じゃない。
騎馬と歩兵なんだぞ!
しかもあの小さい昌景さんが先頭なんだ。
例え馬に乗っていても昌景さんの小ささは変わらない。
あれでは昌景さんが最悪吹っ飛ぶぞ!
しかし、両軍正面からぶつかったように見えたがそうではなかったようだ。
馬場民部は正面からぶつかるのは不味いと思ったのか。
衝突を避けようと進路を変えた馬場騎馬隊に山縣隊が勢いを殺さずに突っ込んだ!
「く、正気か昌景!?」
「私が率いる赤備えに避けるとか回り込むなんてない!行け皆のもの!このまま馬場隊を粉砕しろ!」
いや、砕けないだろう?
「殿。援護しますか?」
半兵衛が問いかける。
俺は昌景さん達をチラッと見てから答えた。
「駄目だ。俺達はこのまま逃げる。昌景さんに任せるんだ!」
あの状態で俺達が助けに入ると逆に邪魔になりそうだ。
「分かりました。このまま走ります。皆遅れないように!」
「「「おお」」」
俺達は振り返ることなく走る。
「ま、待てえい。ええい、邪魔するな昌景!」
「さっきはよくもちっちゃいって言ったな!民部ー!」
後ろでギャーギャー何か言っているが俺達のところまでは聞こて来なかった。
なんとか馬場騎馬隊の追撃を振り切った俺達は陣形を整えると昌景さん達を待った。
しばらく待つと昌景さん達山縣赤備えがやって来た。
しかし、その後ろには馬場騎馬隊も付いてきていた。
「こっちです。昌景さん!」
「藤吉殿。すまん」
「いえ、助かりました」
俺達と昌景さんが合流したところで馬場騎馬隊が追うのを止めた。
なぜなら、鈴木鉄砲隊が種子島を構えているからだ。
このまま馬場騎馬隊が追ってきたら種子島の前に全滅するだろう。
なんせ追ってきた騎馬隊の数よりこっちの種子島の数が多いからだ。
その馬場騎馬隊から二騎が前に出てくる。
信虎と馬場民部だ。
「木下藤吉。降伏しろ。今ならば降伏を認めてやる。これが最後の機会だ」
信虎との距離は二百メートル以上は離れている。
種子島を警戒して必要以上に距離を取っているようだ。
これでは狙撃は無理か?
俺は佐大夫と一を見る。
佐大夫が一に何かぼそぼそと言って、一が俺を見て頷いて見せる。
よし、任せたからな。
俺は一歩前に出て信虎に答える。
「断じて断る!」
「ならば次はないぞ。今度会う時は必ず殺す」
遠くからでも信虎の迫力は伝わってくる。
だが、こっちは次を待つなんてしない。
「次はない。今、決着を着ける!」
「何?」
ダーンと銃声がすると信虎が馬から崩れ落ちた。
「お、御屋形様!」
馬場民部が倒れた信虎に慌て近づく。
よし、殺ったか!
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