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藤吉郎になりて候う 〜異説太閤紀~  作者: 巻神様の下僕
第九章 武田家上洛にて候う
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第百九十五話 六角旧臣のお願いにて候う

 観音寺城に入った晴信は六角氏を亡ぼしたことを宣言。

 それを周囲に知らせると共に南近江と西近江で未だ臣従していない国人衆に決断を迫った。


 京都の出入口に当たる瀬田方面の国人衆は未だ旗色を鮮明にしていないし、南近江の三雲氏は甲賀で独立を保っている。

 不思議だったのは三雲氏だ。

 三雲氏は六角の重臣だと思っていたが、実はそうではなかったのだ。

 三雲氏は独立した国人衆で六角とは同盟関係に近い関係で有ったようだ。

 これは降伏してきた六角の重臣達も同様で彼らは独立した国人衆の集まりで、それを纏めていたのが六角という訳だ。


 しかし、六角の力が衰えると彼らは新たな庇護者を選んだ。

 それが武田だ。

 武田の力が弱くなれば彼らはまた新たな庇護者を選ぶのだろう。


 そして、晴信は降伏してきた国人衆に人質を差し出させた。

 人質達は美濃井ノ口に送られる。

 これで彼らの裏切りを抑制するのだ。

 しかし、人質を差し出さしてもその人質を見捨てる事もあるので絶対ではない。

 結局、裏切られたくなければ勝ち続けなければならないのだ。


 今の武田は勢力を伸ばし勝ち続けている。

 だがそれは果たしてどこまで続くのか?

 そして俺は虎視眈々と牙を剥くその時を待っている。


 そんな俺に武田に臣従した『蒲生 定秀』と『後藤 賢豊』がやって来た。


「我らに代わり義賢殿と義治殿を弔い頂きありがとうございます。改めてお礼申し上げる」


 蒲生定秀が言い二人頭を下げる。


「いや、なに、あのままでは忍びなかっただけで、礼を言われるような事ではない」


 実は観音寺攻めが終わった後に六角親子を埋葬したのは俺だった。

 晴信に親子の遺体をどうするのかと聞いたら、お前が埋葬しろと言われた。

 なんで俺がと問い返すと二人の首の供養をしたそうな顔をしていたではないかと言われたのだ。


 図星だった。


 栄華を誇った六角の当主親子を見て哀れに思ったからだ。

 彼らに同情したのは明日は我が身と思ったのかもしれない。

 そんな俺を晴信は気づいていたのだ。


 そして晴信が恐ろしいと思った瞬間でも有った。


「我らは裏切り者にて、埋葬を執り行うことが出来ず申し訳なく思っておったところです。そこに木下殿が、本当にありがとうございまする」


 六角の重臣であり独立した国人衆である二人が頭を下げている。


 二人とも六角親子を裏切ったことを後悔しているのだろうか?

 いや、それはないな。

 長年仕えたとは言え、近年の六角当主義治は重臣達をないがしろにしていたと聞く。

 彼らからしたら先に裏切ったのは六角親子と思ったかも知れない。


 蒲生定秀と後藤賢豊はその後六角親子の思い出話をしてくれた。


 義賢に対してはすまないとの思いは強かったようで、逆に義治は突き放した感じだった。

 そして、近年の横暴なやり方にこの二人と進藤を加えた三人で何度も諫言していたそうだ。

 しかし、態度を改めない二人に三人は徐々に心が離れて行った。


 そこに平井が武田に寝返りの話を持ってきた。


 平井は浅井賢政(長政)に嫁を出して突き返された経緯がある。

 平井の娘は義賢の養女となってから嫁に出されたのだが、これが送り返されたことを受けて義治は平井と娘を責めた。

 更に悪いことに先の佐和山での敗戦も有って、平井は六角での立場を無くしていたのだ。

 そこに武田の調略の手がやって来た。


 平井は熟慮した結果、この手を掴んだ。


 そして進藤、蒲生、後藤の三人に話を持ってきたのだ。

 それぞれ独りずつ話を持っていき四人集まったところで答えは出た。

 全ては義治の身から出た錆だ。


 いや、息子の暴走を止めず見て見ぬふりをした義賢と父上のように振る舞いたかった義治、この二人が悪い。


 俺も友貞や佐大夫、長康達に愛想をつかされなように気をつけないと行けない。

 六角親子の姿は未来の俺かも知れないのだから。


 そして二人はいつの間にか話を三雲氏に変えていた。

 切り出したのは蒲生定秀。


「三雲対馬守は我らとは袂を別れたとは言え、このままでは討伐の憂き目に会うでしょう。しかし、我らが話をしても頑なになって聞いて貰えぬのです」


 ああ、分かった。

 この流れはあれだ。

 そして後藤賢豊が続く。


「そこで木下殿。貴殿ならば対馬守も話を聞くのではないかと思うです。この通りです。我らに代わって三雲対馬守と会ってやっては貰えませぬか?」


 ですよねー。

 そうくると思いました。


「しかし、その、私は瀬田攻めを申し付けられそうなのですが?」


 晴信から瀬田攻めを行うという話を聞いている。

 信繁は俺にやらせたいらしく、晴信に俺を売り込んでいる。

 全く良い迷惑だ。

 今回の上洛では俺は木下隊の皆には犠牲を出さないと誓っている。


 手伝い戦で命を落とすなんて冗談じゃない!


 俺達はただの人数稼ぎでしかないのだ。

 それなのに瀬田攻めに参加しろとはこれ如何にだ。

 まぁ晴信に言われてものらりくらりとかわすつもりだ。

 別に問題ない。


「瀬田攻めに関しては我らがやりまする。なのでどうか対馬守をお願いいたしまする」


 蒲生定秀が俺に迫る。


 ふむ、瀬田攻めを代わってくれるのならこの話を受けても良いような気がする。

 失敗しても別に俺に被害は無いだろう。

 いや、向こうに行ったら捕まる可能性も?

 下手したら殺されるかも知れない!


「いやいや、私にはその話荷が重すぎます。進藤殿や平井殿では駄目ですか?」


 すると後藤賢豊が苦い顔をしながら話す。


「かの者達と対馬守は、その、仲が良くないのです。それに彼らは討伐の話を大膳様からされているそうです」


 ああ、これは晴信の奴が俺に行けと言っているようだ。


 おそらく二人を寄越したのは晴信だ。

 俺に六角親子の葬儀をやらせて六角旧臣達の心を掴ませる。

 そうすることで話をしやすくする。

 自分でやらないのは自分がやっても効果があまりないからと思っているのだろう。

 そんな事はないと思うが、晴信はそう考えた。

 案外以前も似たような事が有ったのかも知れない。

 その時の経験が有るから俺にやらせたのかも知れない。


 どこまで見えてるんだあの男!


「「どうか、どうか、お願いいたしまする」」


 結局断れなかった。


 俺は二人の熱意に負けて『三雲 対馬守 定持』の説得をする事にした。

 その代わり六角旧臣の四人は瀬田攻めを晴信に命じられた。

 そして俺は晴信から正式に三雲対馬守の調略を任された。


「甲賀を治める三雲対馬守は厄介だ。藤吉。頼むぞ」


 けっ、始めから自分で言えば良いものを。

 やっぱり晴信を好きになれない。

 だが、また一つ学んだと思おう。


 そして信繁が俺に近づき囁く。


「美濃で稲葉、氏家を調略した手腕。見せて貰おうか?」


 この二人、似てないようで似ているのかも知れない。

 俺をムカつかせる才能が天下一品だ。


 良いだろう見せてやるよ!


 俺の調略の腕をな!


 でも今回は自信ないな。


 だって俺、三雲対馬守定持なんて全然知らないんだよ!


お読み頂きありがとうございます。


誤字、脱字、感想等有りましたらよろしくお願いいたします。


応援よろしくお願いします。

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