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藤吉郎になりて候う 〜異説太閤紀~  作者: 巻神様の下僕
第九章 武田家上洛にて候う
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第百九十三話 いつもの団欒にて候う

 ……失敗した。


 信繁との歓談で俺は信繁から敵視もしくはライバル視されてしまった。

 おそらく晴信はこうなる事を見越して俺に話をしたのだ。

 自分の迂闊さが恨めしい。


 これからはもっと慎重に行動しなくては!


 しかしそれも晴信の予想通りなのだろう。

 その日から小休止を取る度に信繁自らやって来て俺に説教して来やがる。

 正直うざい。


「いいですかな。そもそも木下殿は……」


「ああ、はい、はい。分かりました。分かりましたから」


「いや、分かっていない。だからですね」


 こいつ暇なの?

 毎回毎回やって来てはああだこうだとしつこいんだよ!

 それに半兵衛や一、守重達は距離を取ってとばっちりを受けなようにしてるから誰も援護してくれない。


「ああ、やっと帰りましたね」


「俺、しつこい奴嫌いだよ」


「あはは、しつこいのは一の方だろう。って止めろ。銃身をこっち向けんな!」


 こ、こいつら。


「君子危うきに近寄らず。という事です」


「あれは相手するの大変だものねえ。くわばらくわばら」


 犬千代、小六、どこ行ってたの?

 そんな当たり前の事言ってないで助けろよ!

 どいつもこいつも頼りにならん。


 はぁ、どうもよろしくないな。


 それに肝心の信虎はどこに居るんだ?

 あの男、この遠征軍の何処にも居ないらしい。

 蜂須賀党が本隊や前衛を見て回ったがそれらしい人物は見つからなかった。


 何処に居るんだ?


「父は京に居る」


 ぶほっ、げほ、げほ。


「きょ、京だと!」


 大休止を取って食事をしていると信繁がやって来た。

 しょうがないので一緒に食事を取っている時に何気なく聞いてみた。

 すると答えがこれだ。


「うむ。お、この香の物は上手いな。それにこの汁物。具が多い。木下隊は食事が旨いと評判を聞いていたが本当だったな。これからは毎回御相伴に預かるかな?」


 本当に何でもないように答えやがった。

 それに慣れすぎだ。

 あ、それは母様が漬けたやつだ。

 美味しいに決まっている。

 汁物は犬千代が俺のために作ってくれたんだ。

 もっと感謝して食べろ!


「美味しい。やっぱりなか母様の漬けた物はどれも美味しいですね」


「そうですね。勝様。やっぱりなか様のように美味しい香の物を作れないと嫁に行けないんでしょうか?」


 あれ、あの二人いつの間に母様を敬称呼び?


「それは違うと思います。私は幸運にも藤吉様。いえ、旦那様に出逢えました。やっぱりそういう方とは出逢うべくして出逢うものなのですよ。そもそも、私と旦那様が出逢ったのは……」


 あ、犬千代の長話が始まった。

 あれは長いんだよなぁ~。


「藤吉はね。あたしに会うなり『お前が欲しい』って言ってくれたんだよ。それを聞いた時に胸が熱くなってね。それはもう天にも昇る気持ちさねえ。ああ、思い出したら胸が疼いてくる。はぁ」


「ふむふむ。なるほど勉強になります」


「ああ、良いなあ。俺も小六姉さんのような告白を受けて見たいなぁ~」


 あれは告白じゃないぞ。

 小六が勝手に勘違いしただけだ。


「え、一はあれが良いのか? そ、そうか。こんど俺もやってみるか」


「おう、守重。一よりも先ずは俺の許可を取りやがれ」


「そ、それは?」


 おーいお前ら俺も仲間に入れろよ。

 なんで距離取って食べてるんだよ。

 男同士向かい合って食べる食事なんて俺は嫌だよ。

 いつものように皆で食べようよ!


「小一は来年辺り犬姫とそうなるのか?」


「な、何言ってるんですか。弥助兄さん。そんな事ありえませんよ!」


「がははは、それはどうかな?あの姫さんの事だから無理矢理押し掛けて来るかも知れないぞ」


「ぶるぶる。止めてください。利久さんまで」


「まぁあれだ。藤吉の大将も姉さんを貰ったし、小一も嫁を貰ってもおかしくないだろう?」


「身分差が有りすぎますよ!」


「それはこれからの働き次第でしょう。この上洛で木下様の名は更に高まります。それを支える小一殿の名も高まると言うもの。無論それは我らも同じですがな」


「ああ、森さんとこまた子供出来たって言ってたな。なぁ子宝ってどうやったら授かるんだ。俺も頑張ってるんだけど中々出来なくてな。やっぱり相性とか有るのかな?」


「そ、それはどうでしょうか?私も妻も意識してやっている訳ではないので、何と言って良いのか?」


 三佐衛門も大分家の雰囲気に慣れたな。


「ははは、弥助さんはともさんと相性は良いと思うぞ。あんなに仲の良い夫婦は見たことないな」


「お、それは俺も思ってた。あのどつきあいは夫婦の年期を感じるねえ。俺も家内には何度もどつかれたもんさ?」


 そうだな。

 あの人あれで結構手が早いもんな。


「それは利久さんが遊びまくってるからでしょう。聞いてますよ。また家の女中に手を出したんでしょう。おっ母が怒ってましたよ」


 何!それは聞いてないぞ!


「あ、あれは合意の上だ。俺はちゃんと文を送って返事の有った者にしか夜這ってないぞ」


「か~モテる男は違うねえ~。ま、俺は一人で十分だけどな。そうなると藤吉の大将と利久の兄貴は似た者同士ってことになるな。何せ周りは女ばっかりだもんな」


「そうだよなぁ~。なんで藤吉はあんなにモテるんだ?ちょっとは俺にも分けて欲しいぜ」


「あ、そんな事言うんだ弥助兄さん。帰ったらとも姉に言ってやろう」


「わ、馬鹿止めろ。俺を殺す気か!」


「「「ははは」」」


 良いなあ。

 楽しそうだなぁ~。

 俺もそっち行きたい。


「ここは暖かいな」


「え、ああそうですね。もうすぐ夏ですからね」


「ふっ。いや、そうじゃない。尾張者がそうなのか知らないがここは暖かい。我ら武田の者とは違うと思ったのだ。それに勝のあの顔。私は初めて見たよ。あんなに楽しそうにしている勝を見たことがない」


「そうなんですか?家はいつもこんな感じですよ。食事くらい楽しく食べたいじゃないですか。甲斐というか。武田は違うのですか?」


「違うな。甲斐では食べるということは生きるということだ。食事に楽しさなど感じんよ。それに話ながら笑って食べるなどないな」


「は~それは大変ですね。私が甲斐に生まれていたら、そうなってるんでしょうかね?」


「お前はそうはならないと思うな」


「そうですか?」


 いつの間にお前呼びになったんだよ!

 まぁ、信繁のほうが歳は上だし、お前って呼ばれてもおかしくないけどさ。

 やっぱり礼儀は必要だと思うんだよね!


「そうだ。ずっとお前を見てきたがお前が甲斐に居たとしても、きっとこんなふうに暖かい食事をしていると思う。ふ、私は何を言っているのか」


 あ、やっぱり観察してたのね。

 俺が信繁を見ていたように信繁も俺を見ていたようだ。

 それにしても武田はつまらないところなのかな?

 食事くらい楽しく取りたいじゃないか!


 俺の楽しみは食事と睡眠だよ。


 それに最近は少しずつ食事の改善をしているのだ。

 堺に居た時に酒を見つけたが見つけたのは酒だけじゃないんだよ。

 醤油が有ったんだよ!

 それも紀伊で作ってるって知って佐大夫に取り寄せて貰ったんだ。

 もちろん職人も呼んで長島で造らせてる。

 本当に少しずつ食事が良くなってるんだよ。


 そのうちオーブンやら蒸し器やら作らせるつもりだ。

 オーブンは南蛮人から蒸し器は中国人から教えて貰うつもりだ。

 だって俺そんな知識ないからね。


 それに布団だ。


 まずは羽毛布団を作らせてる。

 長島じゃ水鳥が多いから羽を集めるのは苦労しない。

 母様には暖かくして寝てもらいたいから急いで作らせた。

 結構、いやかなり喜んで貰えたから作らせた甲斐があったよ!


 それもこれも長島領主に成れたからやれた事なんだけどね。

 少しずつ生活環境の改善を進めて行くつもりだ。


 でも今は上洛だ!



 予定通りに不破の関を通り東近江に入った。

 いよいよ六角との決戦が近づいている。

 勘助の言う通りなら余裕で終わる予定だが果たして予定通りに行くものなのか?


 武田織田連合軍は六角の居城『観音寺城』に向かっていた。


お読み頂きありがとうございます。


誤字、脱字、感想等有りましたらよろしくお願いいたします。


応援よろしくお願いします。

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