第十九話 金子を用立てて候う
この話は、書き直すかもしれません。
市姫様の無茶振りから一夜が開けた。
俺達は今、津島に来ている。
俺こと木下藤吉、前田利久、前田犬千代、池田恒興の四人だ。
本当は内蔵助も来るはずだったが利久が嘘の合流場所を教え、さらに時間も変えて集まった。
今頃は待ちぼうけを食らっているはずだ。
利久曰く『内蔵助が居ると厄介事を起こす』と。
勝三郎も同じ意見で最後まで内蔵助が付いてくるのを反対していた。
反対されても内蔵助が付いてくると強情を張ったのは、犬千代と俺が一緒だかららしい。
新参の俺と想い人の犬千代が気になって気になってしょうがなかったのだろう。
しかし、しょうがない。
内蔵助はお呼びではないのだ。
だが、津島の町の入り口でお呼びでない二人と出会った。
男装姿の市姫様と、最近は苦虫を噛み潰した顔がトレードマークに成りつつある平手政秀の二人だ。
「たまには城の外に出ないとな」
「いくら行っても聞かんのだ。そなた達護衛を頼むぞ。わしは城に戻らねばならん」
平手のじい様は俺達に護衛の任を任せ、離れた所に居たお付きの者達と共に帰って行った。
呆気にとられた俺とは違い他の三人は平常運転だった。
「よし、では行くぞ」
「姫様。いえ、若様。お供いたします」
「は~、しっかし、本当に来るとは思わなかった。内蔵助を連れて来なくて良かった」
「まったく、どうしてこう似なくていい所ばかりそっくりなのか。いいですか、ここでは………」
犬千代は市姫の後ろに周り。利久は前に回り込み笑顔で周囲を見渡し、勝三郎は市姫の右隣に移動し説教を始めた。
俺は三人の対応の速さに付いて行けなかった。
「ほれ、何をしている。藤吉行くぞ」
市姫様に声をかけられ慌てて市姫様の左隣に移動した。
これで良いんだよな。
護衛だから護衛対象の四方を囲むんだったか?
「こうしていると、兄上と共に町を歩いていたのを思い出す」
「そう言えば、そうですね。よく信長様と町を歩いたのを思い出します。姫、若様はよく疲れたと言って私や信長様に背負われておいででしたから」
そうなの?
信長が市姫様をおぶっていたのか。勝三郎。
それは見てみたかった。
「何時の話だ。藤吉、昔の話だからな、昔の」
顔を真っ赤にして両の手をブンブンさせる市姫様は大変可愛らしかった。
「そうだな。犬千代もよく俺がおぶってやったな」
「そうですね。酔いつぶれた兄上を私と勝三郎殿で運んでいましたね。逆さにして、足を持って」
逆さにして足を持たれて運ばれる利久。
想像するだに実に情けない。
「ぶふ」
「笑うな藤吉。昔の」
「半年前の話だったな。よく覚えている。あれは重かった」
誤魔化そうとした利久だったが勝三郎が直ぐ様否定した。
「くくく、兄上に置いて行けと、言われていましたね」
先ほど真っ赤にしていた市姫様は、いつも通りのいたずらっ子のような笑顔を見せていた。
そうして目的の場所まで昔話をしながら和気あいあいと歩いていた。
ではなぜ、ここ津島に来たのかと言うと。
金を借りにきたのだ。
そう、借金だよ、借金。
何をするにも金が無くては何も出来ない。
兵を整えるのにも武具を買うのにも兵糧を揃えるのにも金はいくら有っても足らないのだ。
そして今清洲の金蔵に金は無い。
金がないなら金を持ってる奴から借りればいい。
そして津島は織田家が支配下に置いている町の中で最も金を持っている町だ。
津島の支配権を持っているのは史実と同じだ。
そして、協力を仰ぐのは津島の豪商『堀田家』だ。
史実でも堀田家は織田家に協力している。
何としても金を出させないとな!
そう意気込んで行ったのだが。
俺達は堀田家の当主『堀田 道空 正龍』と体面した。
正龍は、物腰柔らかな印象を受ける。
眼差しも穏やかだ。
そして、少しふっくらとしている。
決して太っているとは言っては行けない。
通り一辺な挨拶を済ませ本題を切り出す。
しかし、こちらが本題を伝える前にいくつかの書状を正龍はこちらに差し出す。
「こちらが以前信長公の残した借書に御座りまする」
「兄上の借書?」
『借書』について簡単に説明すると。
まず、市姫が堀田家に金を借ります。
この時市姫が借用書を書きます。
これが借書です。
この借書を書いた人の名前が返済能力があるのか、無いのかによって借書に価値が決まります。
堀田家は、市姫の借書を売り払う事が出来ます。
例えば、堀田さんが市姫の借書を信行さんに売り払います。
信行さんはその借書を持って市姫に返済を迫ります。
でも市姫はお金を持っていないので借金を払えません。
そこで借書に書かれている金額に相当する物を要求するのです。
この場合、信行さんが欲しいのは家督ですから『家督を自分に売れ』と言って来るかもしれません。
現実的では有りませんが。
現在的には土地を要求するでしょう。
もしくは今度収穫される米を要求するとか。
物か、土地か、銭等と交換されるのです。
ここで問題なのは、借金を返済しなくてはならない市姫様の資産が問題です。
返済能力の有無です。
それに信用も。
信用が無くては借書は価値を持ちません。
そして今、信長の借書が出てきました。
信長の借書は織田家の借書です。
織田家の借書は市姫様の借書です。
つまり。
「これを元に、銭をお貸しいたしまする」
呆気ないほどに金貸しは済んだ。
こちらが要求するはずだった金額を大幅に越えていた。
全ては信長の残した遺産だった。
信長は清洲織田家織田信友を攻める為に借書をしていた。
この借書が信長が死んだ後に暴落。
紙くず同然の物になってしまった。
しかし、堀田家はある情報からこの借書を回収する。
その後赤塚の戦いに勝ったことで市姫様に借金返済の信用が証明され
織田家の借書、信長の借書に高値がついたのである。
そして事前に出来レースの情報を流したのは『織田信光』。
全て、信長の策謀であった。
さらにこの借書を売り払った時期を調べれば反信長勢力がわかるのだ。
案の定、林兄弟と柴田は信行が信長に会う前に借書を売り払っていた。
裏事情を知っていた勝三郎の説明を聞いて信長の偉大さが、死が惜しまれる。
信長は自分の死後をどれだけ見えていたのだろう。
兄信長の残した遺産を見て、市姫様はただ、涙するだけだった。
うまく表現出来たか、分かりません。
ちょっと、いや、かなり勉強不足で、申し訳ありません。
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