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藤吉郎になりて候う 〜異説太閤紀~  作者: 巻神様の下僕
第八章 家老になりて候う
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第百八十三話 新しき者、古き者

 織田家で処分される予定の者達を取り込む。


 難しいようで実は簡単だ。


 彼らは織田家や俺に不満を持っている。

 彼らの多くは古参だ。

 信秀の前の信定の代に働いてた連中で林達と同様に保守的な考えを持つ者達だ。


 要するに古い。


 頭の中は古き良き時代。

 年功序列を重んじ土地に執着する。

 新しい流れに乗り遅れた連中なのだ。

 そして、新しい流れに乗れた者達に嫉妬して妬み増悪する。

 これら不満を持つ連中は危ない。


 信虎が喜んで勧誘しそうな連中だ。


 しかし、時代に乗れないのは本人達であって、次代の連中は違う。


「お連れの者達と話が出来ました。彼らは殿の話を聞きたいそうです。どうされますか?」


 仁右衛門は良い仕事をしてくれる。


「殿。〇〇家の嫡男〇〇様は当主のやり方に不満を持っておるそうです」


 弥兵衛は相手に取り入るのが上手いな。


 俺が取り込むのは現在の当主ではない。

 次代の当主を取り込むのだ!


 仁右衛門達の集めた情報を元に派閥連中に動いてもらう。

 俺が動くと目立つからな。

 こういう時に派閥を使うのだ。

 それとこれは振り分けも兼ねている。

 この働きで派閥の序列を決めると言っている。

 どいつも目の色変えて張り切っている。


 槍働きだけが出世の糸口ではない。

 調略の一つも出来ないと今の世の中渡っては行けない。

 それを皆に分からせないとな。


「俺は、そんな事出来ん」


 中には不得手な奴もいる。

 内蔵助がそうだ。


「話をするだけで良いさ。悩み事を聞いてやるだけでも違うぞ。お前だって話したい経験談だって有るだろう?」


「そ、それは…… ある」


「ならそれを話せば良いさ。無理に誘う必要はない。とにかく話をする。まずはそこからだ」


「あ、ああ。分かった」


 ふふ、扱いやすくなったもんだ。

 あのチンピラ内蔵助が俺に相談してくるんだから世の中分からんね。

 まあ、失敗しても良いさ。

 何事も経験、経験。

 それは俺にも言えることだがね。


 俺は丹羽長秀に会っていた。


「御家老が毎日私などに会いに来るとは、お忙しいのではありませぬか?」


「なになに。丹羽五郎左に会うのに忙しいなどと言ってはおれん。こうして会って話すのを楽しみにしていたのだ」


「私と話すのを楽しみに? それはまた」


「何も嘘をついておらん。浮野以来話をする機会を待っていたが、中々忙しくてな。だが今は優秀な者達が増えて私も時間が取れるようになった。だからこうして五郎左殿と話せると言うことだ」


「浮野とはまた懐かしい」


「五郎左殿の出世の始まりでしたな?」


 浮野の戦いで丹羽五郎左は存在感を記した。

 その後は確実に仕事をこなし無難に出世している。

 右筆である俺はそれを記録しているのだ。

 知らない訳がない。


「お耳汚しを。なれど私は木下様に付く気にはなれません」


「何もそのような話をしに来た訳ではない。実は五郎左殿を見込んで頼みたい事が有るのだ」


「頼みたい事? 何でしょうか?」


「清洲城三の丸の石垣補修だ。五郎左殿は城の縄張りに詳しいと聞いた。引き受けて貰えないか?」


 五郎左は史実で安土城の普請を手掛けている。

 石垣補修なんてわけないさ。


「木下様の者達で良いのではないのですか?」


「それでは佐久間様達から何か言われる。五郎左殿が適任なのだ」


 仕事は独り占めしたら行けない。

 分けられるところは分けないとな。

 それにこれは丹羽派に出世の糸口を与える良い機会だ。

 これを受けないのは派閥の長としてどうかと思うぞ?


「分かりました。お請けしましょう」


「おお、それは良かった。五郎左殿なら間違いあるまい。良かった、良かった。ははは」


 露骨過ぎるがこれくらいは社交辞令だ。

 それにこれで補修の話をしにまた会える口実が出来た。

 色々と恩を売っておこう。

 そして五郎左を引き込むのだ。


 ふふ、ふはは、はははー。



 引き込み計画は順調だ。


 既に八割の連中を抱き込んだ。

 借金に悩む連中には銭を貸し付け。

 領地の揉め事に悩む者には知恵を与えて(過去の判例を教える)。

 その後は穏便に隠居してもらい新当主が俺に頭を下げにやって来る。


 順調過ぎて怖いくらいだ。


 そしてその他の二割の連中は強引に隠居して貰った。


 以前、仁右衛門が持って来た資料に計算の合わない物が有った。

 パッと見では分からないが幾つもの資料を見て来た俺には分かる。

 贈賄と収賄の疑惑がそこには有った。


 俺が右筆で働き始めた時に有った小者頭達の収賄に似ていたのだ。

 北伊勢を与えられた者達は織田家の者に代わって税を集めて一旦織田家に納める。

 そして織田家は税を確認した後、再度分配するのだ。

 これは直轄領の代官が不足していたので、それを北伊勢で功の有った者達に任せたのだ。


 多少自分達の懐に修めるのには目を瞑る。


 それは代官職を与えられた者達の特権だ。

 しかし、多少を過ぎるとそれは駄目だ。

 明らかにやり過ぎた行為は罰しないと行けない。


 俺は裏取りを小六に任せて証拠を集めた。


 証拠は簡単に出てきた。

 それを俺は市姫と信光様に見せた。


「ふぅ、藤吉は優秀だな」


「お褒めに預り光栄です」


 いやー、もっと誉めてくれてもいいのよ。


「私の計画が台無しだ」


 市姫はブー垂れていた。


 あ、やっぱりそうだったのね。

 以前春までに粛正すると言っていたからそうだと思った。

 でも、これ以上の粛正は必要ない。

 それに粛正しなくても使い潰せば良いのだ。

 戦と小賢しいことしか出来ない連中だ。

 せいぜい戦場では肉壁になって貰おう。


 俺は市姫に説明した。


 消すことだけが改善にはならない。

 気に食わないから排除していたら、そのうち人が寄り付かなくなる。

 それは駄目だ。

 絶対に駄目だ。


「では、どう使うのだ?」


 信光様の問いに俺は答えた。


「せいぜい利用しましょう。どうせ武田の手の者が接触してるでしょうから」


 俺の予想は当たった。


 隠居させた者達の中に武田に内通していた者達が居たのだ。

 表向きは老齢を理由に隠居させ、新当主には十分に言い含めて武田との関係を続けさせた。

 囮として使うのだ。


 まぁ、おそらく二度と接触はして来ないだろうがこちらから連絡を入れて撹乱させる事くらいは出来るだろう。


 対武田に対して使えるカードは一枚でも多く欲しい。


 それにしても信虎の手は思ったより織田家の内部に伸びている。

 これは気を引き締めた方が良さそうだ。

 いつの間にか体制をひっくり返されたら目も当てられない。



 取り込みに三ヶ月ほど時間を掛けた。

 そろそろ戦シーズンが始まる。

 その前に取り込みが終わってほっとしていた。


 俺は長島城の屋敷でのんびりと茶を飲んでいた。


「春だな」


「春だのう」


「そろそろ動くと思う」


「そうだのう」


「霜台からは準備は出来ていると連絡が有った」


「そうか。いよいよお主も官位持ちか」


「それもあるが、武田の事もある」


「そうだのう」


 ずずずと茶を飲む道三。

 何を呑気な。


「まだ足りない気がする」


「準備しても足りないと思うのはよく有ることよ。足りない時にどう動くか。それが大事よ」


「失敗した人の言葉は重いな。忠告ありがとう」


「ふむ、軽口が言えるなら大丈夫じゃな」


「ああ」


 俺は温くなった茶を喉に流し込む。


 そこへ足音が近づいてくる。

 小姓の仕事が板に付いてきた八郎だ。


「殿。清洲から使いが来ております。武田から使者が参ったと」


「そうか」


 いよいよその日が来たか。


 武田上洛の為の使者がやって来たのだ。


お読み頂きありがとうございます。


誤字、脱字、感想等有りましたらよろしくお願いいたします。


応援よろしくお願いします。

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