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藤吉郎になりて候う 〜異説太閤紀~  作者: 巻神様の下僕
第八章 家老になりて候う
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第百八十一話 決心致し候う

 年始の大評定が終わると派閥はもう一度集まって方針の達成に向けて話し合う。


 でもこれは上が下の面倒を見る為の話し合いだ。


 例えば内蔵助は池田、平手家などから借金があるので今年は幾ら返せるのか確認している。

 そして俺は佐々家の保証人になってやるのだ。

 内蔵助が年内の返納に滞る時は俺が立て替えることになる。


 こうして佐々家は俺の木下家にも借りを作るのでより俺の派閥に取り込まれるのだ。


 こうした流れで森家も俺の世話になることが決まっている。

 森可成は武勇優れ内政もこなせる人物だが、いかんせん今まで頼った人達が悪かった。

 林は負け組で佐久間は独自戦力が多い。

 活躍してもあまり目立ったなかったのだ。

 それに借金も持っている。


 これからは俺が上手く使ってやろう。

 そのうち木下家の与力にしてあげるよ。

 家も使える与力が多いと助かるんだ。


 え、銭は大丈夫かだって?


 ふ、今の木下家は銭が余っているのさ。

 長島の地形上、人が集まりやすく物も出たり入ったりしている。

 そこに商機を求めて商人が集まり物が集まり人が集まる。


 さらに今の長島は建設ラッシュだ!


 どんどん新しい建物が建てられさらに道も整備している。

 商人からの税だけでうはうはなのだよ。

 道三から資産表を見せてもらった時は笑いが止まらなかった。


 それに尾張一帯は好景気だ。


 今なら何をやっても上手くいく。

 失敗しようがない。

 だから宗易達堺の商人も俺と手を組みたかったのだ。

 彼らは俺と組んで十分な見返りを貰っているし、俺も貰っている。

 これに乗れない奴は馬鹿か間抜けだ。


 そして俺の目の前の連中はその馬鹿で間抜けな連中だ。


 彼らは自分達が持っている物が銭に化けるのを知らない。

 いや、知ろうともしていない。

 織田家が商人を抱き込んだことで大きくなったのを見ているのにも関わらず、彼らは変わっていない。

 武略に頼り土地に縛られて生活している。


 俺からすれば哀れな連中だ。


 だが、こんな連中でも数が集まると馬鹿に出来ない。

 そこそこ銭や米を貸し付けてやった。

 いずれそれが俺を助けると信じての投資だ。


 まぁ俺を裏切ったら尾張一帯、いや、近畿中部地方の商人連中を敵に回すことになる。

 そんな馬鹿なことはしないだろう。


 俺の派閥支配は順調に進んでいった。



 でだ、今の俺の目下重要問題は『犬姫』だ。


 彼女は年始の行事が終わってもまだ長島に滞在している。

 小一からヘルプと叫ばれているが俺でもどうしようもない。

 だって彼女『ヤンデレ』なんだもの。


 長姫の文に寄ると犬姫は小一にべったりくっついている。

 そして小一が女中と話している姿を見かけると柱に爪の跡が残るそうだ。

 嫉妬深いだけかと思ったがそうではない。

 小一にそっと近づくとぶつぶつと何か言って、そっと離れる。

 すると小一が慌てて犬姫を追いかける。

 追いかけられる犬姫はとても幸せそうな顔をしていたそうだ。


 俺はその文を見ながら織田家の連中がなぜ犬姫を放っているのか理解した。

 そして俺が織田家一門に好意的に迎えられたことも理解した。


 犬姫を押し付けられたのだ!


 良かったなー、八郎。

 お前が食らうはずだった被害を小一が受けているぞ。

 感謝して我が木下家に奉公するように。

 そして佐治家は木下家の傘下にするのが決定した。


 俺が決めた!


 小一には悪いが犬姫はお前に任せるよ。

 雑音は俺が責任持って黙らせるから安心しろ。

 今の俺達ならそれが出来ると確信した。



 今回の大評定を終えて俺は自信を持った。


 大評定前の俺の織田家の立ち位置が漠然として分からなかったが大評定を終えた今はよく分かった。

 今の俺に歯向かえる者は織田家には存在して居なかったのだ。


 俺はどうやら自分を過小評価していたようだ。


 いつの間にか俺の存在が織田家を飲み込み始めているのに気付かなかった。

 それに俺を面と向かって批判する連中は居なくなっていた。

 そして誰もが俺の顔色を伺っているのだ。


 可笑しなものだ。


 俺が恐れていたように彼らも俺を恐れていたのだ。

 今の俺は織田家の新参家老ではなかった。

 織田家の重臣中の重臣に成っていたのだ。

 これも平手のじい様が勇退したからだとは思うが、遅かれ早かれこうなって居たのかもしれない。


 後は市姫との婚儀が成立すれば晴れて俺は織田家一門に迎えられる。

 そしていずれは織田家を飲み込むだろう。

 俺を抑えられるのは市姫だけなのだから。


 問題は奇妙丸様だ。


 織田家の当主は奇妙丸様で市姫ではない。

 これは先々の話になるが俺の子供に娘が出来たら奇妙丸様に嫁がせるのはどうだろうか?

 そうして奇妙丸様と織田家を取り込む。


 上手くいく可能性はある。


 織田家乗っ取り。


 本気で考えるか?



 以前、道三や長姫に言われていたがその時は織田家家臣達を見ていなかった。

 それに自信もなかった。

 だが今は違う。


 俺が思ったよりも織田家家臣は弱かった。

 両佐久間や勝三郎、監物や左近は別格だが、それ以外はそれほど脅威ではなかった。

 それに織田家一門が俺を脅威とは見ていないことも分かった。

 脅威というよりは俺に頼りたい気持ちが強いようだ。


 それは突然大きくなった織田家に皆戸惑いが隠せないからだと市姫は言った。


 織田家のプライベートな宴席で俺と市姫は二人で飲んでいた。


「ふ、叔父上や親戚連中は怖いのだそうだ」


「怖い?」


「だってそうだろう。織田家は三十年前は守護代の家臣だった。それが今は二国を治める守護様だ。この変化に皆は付いてこれないのだ」


 市姫は寂しそうに言った。


「でも今の織田家が有るのは皆が頑張った結果でしょう。それは信光様だってそうでしょう。それが怖いなんて?」


 市姫はそれを聞いて驚いた顔をした。

 あれ、俺なんか変なこと言ったのか?


「お前は本当に分かっていないのか? 本当に今の状態が織田家が望んだことだと思っているのか?」


 織田家が望んだ?


「尾張統一は織田家の望んだことですよね?」


「違う。それは父上と兄上が望んだことだ」


 あれ?


「それに美濃は誰も望んでなかった。伊勢は家臣達が望んだことだ。織田家が欲した訳ではない」


 え、え、何それ?


 今は戦国だよ。

 隙を見せれば噛みつかれるのが当たり前の世の中だ。

 身を守る為に周囲を取り込むのは当たり前じゃないのか?


「尾張が豊か過ぎるのだ。それを織田家は知りすぎてしまった」


 あ、そうか!


 尾張はこの戦国では珍しいほど豊かな場所だ。

 尾張一国でほとんど賄えてしまうほど豊かだ。

 他国を侵す必要性がない。


 そうだよ。

 尾張を取ってしまえばそれで終わってもおかしくないんだ。

 信長のような長期的ビジョンを持っている者が珍しいんだ。


「納得しました」


「さすが私の藤吉だ。今の織田家はただ流されているだけだ。そしてそれはこれからも続く。なぁ藤吉。私はどうしたら良いんだろうか?」


 答えは簡単だが、これは棘の道だ。

 お勧めは出来ない。

 もっと安易な道もある。

 だがそんな物はくそ食らえだ!


「俺に付いてきてくれますか?」


 俺は初めて市姫に要求した。

 思えば俺は彼女に頼られたことは有っても頼ったことはない…… よな?


 市姫の目に潤いが見える。


「付いて、行きたい」


「なら、付いてこい。俺が全部背負ってやる」


「うん、うん。貴方に付いていくわ」


 市姫が俺を抱き締める。

 俺も市姫を優しく抱き締める。


 俺は彼女を抱き締めながら改めて知った。


 市姫の体が思ったよりも小さいということ。

 そしてそんな小さな体に重荷を背負わせていた自分が居たこと。

 そんな自分に腹が立ったこと。


 そしてそれは…… ある決意を決める切っ掛けになった。


 俺が織田家を乗っとると決めた日だった。


とうとう本気になりました。


誤字、脱字、感想等有りましたらよろしくお願いいたします。


応援よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 自分の派閥員を馬鹿扱いは、悲しいですね 案外、派閥員側もすぐ慢心する馬鹿って冷めた目でみてたりして(笑)
[一言] 史実のように、豊臣秀吉を名乗ることになるんかな?それとも、織田秀吉?
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