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藤吉郎になりて候う 〜異説太閤紀~  作者: 巻神様の下僕
第八章 家老になりて候う

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第百八十話 派閥の役割にて候う

 こうして派閥で集まるのには訳がある。


 それは派閥の方針や目的を皆で共有して協力するのが目的だ。


 例えば直近では新年の大評定だ。

 この大評定では今年一年の織田家の方針が話し合われる。

 その時に各派閥が積極的に意見具申するのだ。

 自分たちにとって有利に成るような方針に持っていく為に。


 そしてこの大評定での方針が決まれば家臣達はその方針の達成の為に動くのだ。



 では俺達木下派が有利な方針とは何か?

 それは積極的攻勢による侵略路線だ。


 平手派時代は市姫を積極的に支持するだけの派閥だった。

 当時は市姫と信行の二つ勢力に別れていた織田家。

 当主を支えるのが派閥の役割だったのだ。


 しかし今は織田家は市姫を頂点に纏まっている。


 そして派閥の役割も変わっていく。

 当主を支持する派閥から、主家に意見する派閥に変わってきているのだ。

 平手派は市姫を支えるだけの派閥では居られなくなったのだ。

 平手派から木下派に変わった事で今までとは違うと周囲にアピールする目的もある。


 しかし根っこの部分は変わらない。

 市姫を支持し織田家を支えるのは変わらない。

 そこに派閥の利益が絡まるように動くのだ。


 今の木下派は若い連中が集まったイケイケ集団だ。

 戦に寄る手柄を一番に欲している。

 停滞や現状維持など論外だ。


 その為現在。

 木下派の議論は沸騰している。


「今すぐにも北畠に攻め込むべし!」


「関家など潰してしまえば良いではないか。六角はもう終わりよ」


「いっそ六角に攻め込むのは?」


「おお、それはいい。南近江に伊賀、それに南伊勢の平定ですな。これは腕が鳴りますわい」


 皆さん好き勝手言ってます。


 これには俺だけではなく勝三郎と監物も頭を抱えている。

 これら上記の意見は身分低き者や他国の者達の意見だ。

 それに対して俺や勝三郎ら侍大将クラスの者達は黙っている。


 黙っているのには訳がある。


 彼らの話は近視眼的な考え方で現実的ではないのだ。

 その為今は彼らの想いを吐き出させるだけ吐き出させるのがいいのだ。

 その後に俺達上の者が現状を教えて冷や水をぶっかけるのだ。

 これで鎮火すればよし。

 しないので有ればその者のやる気を買うのも有りだ。


 そしてその後、勝三郎の大音声が部屋に木霊する。


 勝三郎ってこんなに声が出るのか?


 俺もびっくりしたが周りはもっとびっくりしていた。

 しかし左近だけは笑っていた。

 あいついつも勝三郎の大音声を聞いているのか?


 勝三郎による冷や水をぶっかけられた連中はしゅんとしてしまった。

 そこにすかさず監物が常識論を持っていく。


 監物は現実的な考えを懇切丁寧に説明している。

 それを大半の連中はウンウンと聞いている。

 俺は監物の話を聞いていない者達をチェックする。


 監物の話が終わると今度は俺の出番だ。


 監物の話を聞いていない者達に意見を聞く。

 その者達はその者達独自の考えを披露する。

 中々為になる話をする者もいるが、何を話しているのか分からない者もいる。


 しかし周りと違う考えを持っている者達は貴重だ。


 俺は彼らを褒め称え別室で詳しく聞きたいと部屋の移動を促す。

 俺は勝三郎と監物にこの場を任せると彼らと別室で話をした。

 彼らが後に木下派の中心を担っていくのだ。


 ただこうした話し合いは大評定が始まるまで何度も行われる。



 そして昼間は話し合いが夜は宴会が行われる。


 夜の部は他の派閥との意見のすり合わせをしている。

 こちらの方針と向こうの方針に違いは有っても、全部が全部違う訳ではない。

 協力出来るところは協力し、妥協するところは妥協する。

 一つの派閥が突出する事のないように調整するのだ。


 そうしないと一つだけ浮いた派閥は他所の派閥に総攻撃を食らって意見が通らなくなってしまう可能性がある。


 何時の世も根回しは大切なのだ。


 そして俺は宴席で両佐久間を相手にしていた。


「ふむ、やはり北畠攻めは必要か」


「長野家が動いてますので今年中には方がつくでしょう」


 伊勢半国は今年でなんとかなるでしょ。


「では、今度の遠征は木下派が中心で宜しいか?」


「いえ、大将は大学助様か、織田家の誰かが大将が宜しいでしょう。下は我らが出します」


 方針は俺達が上を纏めるのは佐久間派が理想なのよ。


「うーむ、それは困るな。木下殿が大将では駄目なのか?」


「私は長島の領地を治めるのに手一杯です。一軍を率いるなどとてもとても」


 これ以上の手柄は必要ない。

 俺は対武田に全力を注ぐ。

 手柄を欲している下連中をお願いしたい。


「ふ、武田が気になるか?」


 おっと大学助様はお見通しか。


「武田の動向は注視しませんと。それと私が動けないのは本当ですよ」


 家はまだ兵を出す余裕がない。

 これは本当だ。


「では、喜六郎様(秀隆)と三十郎様(信包)の初陣を兼ねるのはどうか? その後は五郎様(信広)に大将になって頂くのが良かろう」


「補佐は大学助様と勝三郎では?」


「うむ、悪くない」


 ほ、これで話を進めそうだ。


「待て待て、それでは私の負担が多い。半助。お前が行ったらどうだ」


「私は筆頭家老だ。おいそれと戦場に出るわけには行かぬ」


「最近食べ過ぎて馬にも乗れんか?」


「え、そうなんですか?」


「ば、馬鹿者。馬ぐらい乗れるわ!」


「「「ははは」」」


 トップ会談はこうして穏やかに行われる。

 これが大評定になると違うんだけどね。


 下の連中はこんなに穏やかではない。

 酒が入っているので殴る蹴るが当たり前だ。

 口論が白熱しすぎて手が出てしまうのだ。


 それを治めるのも上の役目だ。


「やめんか!」


「うるせー。てめえみたいな成り上がりが偉そうにするな!」


「家は代々織田家に仕えているのだ。ぽっと出の奴がしゃしゃり出てくるな!」


 ぐ、言葉の刃が心に刺さる。

 人が気にしているのをグサグサとえぐりやがって!


「お前ら、ちょっとこっち来ようか?」


「お前確か俺らの派閥だよな? なのに大将に対する口の聞き方が出来てないな。あっちでたっぷり聞いてやるよ。お、れ、が」


 利久と内蔵助が現れて暴れていた二人をがっちりキャッチ。

 薄暗いどこかに消えていった。


 え、俺の出番は?

 俺のお仕置きタイムはどこだよ!


 こうして大評定までの時間は過ぎて行った。



 ちなみに織田家のプライベートな宴席にも俺は出席している。

 そこには市姫初め織田家一門が揃っていた。

 そこで信光様が市姫の懐妊を発表して、俺が紹介される。

 不思議な事に織田家の面々は俺を蔑むことはしなかった。

 それどころかとても喜んでくれた。


 特に喜六朗と三十郎は新しい兄上ですねと俺を兄上呼びする始末。

 なんとも恥ずかしい想いをした。


 それから久しぶりに奇妙丸様に会えた。


「明けましておめでとうございます。奇妙丸様」


「うん。おめでとう藤吉。叔母上をよろしく頼みます」


「は、仰せのままに」


「藤吉は私の叔父になるのですよね? これからも会いに来てくれますか?」


「もちろんにございます」


「外の話を聞かせてください。藤吉は色々なところに行っているのでしょう。奇妙は城から出たことがないから、城の外を知りたいのです」


「はは、お任せくださいませ」


「ずるいぞ奇妙。俺も頼む藤吉兄上」


「わ、私もお願いします兄上」


 喜六朗と三十郎に迫られて焦った。

 この二人美男子なんだよ。

 ちょっと違う世界に目覚めそうで怖い。


 それに奇妙丸様とは初めて時間をかけて話した。

 いつもは軽い挨拶だけだからな。

 それにしても大人しい子供だ。


 でも好奇心はそれなりにある。


 これからだろうな奇妙丸様は。



 そして大評定が行われた。


 俺は打ち合わせ通りに両佐久間と舌戦を繰り広げる。


「今、北畠を攻めずにいつ攻めるのです!」


「黙れ、この青二才が! 政のなんたるかも知らん小僧が、偉そうなことを抜かすな!」


「その青二才に尻に火を点けられているのはどなたかな?」


「ははは。面白い。戦ではなく個人の武勇を競うか?」


「ははは。大学助殿。それは匹夫の勇ですぞ。大将はどっしりと構えるものにて」


「どっしり構えるならば外に討って出る必要はあるまい。向こうが出てくるまで待てば良い」


「待てば好機を逸します。早めに動くべきです」


 まあ、これは俺と両佐久間の演技なんだよね。

 既に結論は出てるんだよ。

 ここで市姫が出て来て両方の意見を纏めて方針を決定するのだ。


 回りくどいやり方だけどこれがある種のガス抜きになっているのだ。


 下の者達の意見を上はちゃんと聞いているんだぞというポーズだ。

 これをやるとやらないとではやる気が違ってくるのだ。

 馬鹿らしいがこれで回っているからしょうがない。


 これが信長みたいな絶対的君主だとこんな事必要ないんだけど、陣代の市姫には必要な儀式なんだ。


 下に居たときは知らなかったが上に成って初めて知った。


 でもこれをやるのも今年で最後だろう。


 これからは派閥同士で調整する必要も無くなる。

 伊勢平定が済めば市姫の名声は不動な物になる。

 そうなれば市姫は誰にも遠慮する必要は無くなるのだ。


 そしてその時俺は……



お読み頂きありがとうございます


誤字、脱字、感想等有りましたらよろしくお願いいたします。


応援よろしくお願いします。

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[一言] 時は今(土岐は今)雨が(天が)したしる 五月かな
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