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藤吉郎になりて候う 〜異説太閤紀~  作者: 巻神様の下僕
第一章 尾張統一にて候う
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第十八話 謀は苦手に候う

 三度目だな、この部屋は。


 そう思い周りを見渡す。

 いつものメンバーに二人追加されている。

 織田信光と佐々成政だ。


 次の日さっそく市姫様に報告する為利久と内蔵助が勝三郎に伝える。

 勝三郎は三日後に例の部屋にてと伝言をくれた。

 利久はともかく内蔵助は三日も待てんと喚いたが勝三郎の一睨みで大人しくなったとか。

 さすが勝三郎。

 内蔵助め、ざまあみろ。


 俺は内蔵助が苦手だ。

 何でも噛みつく狂犬みたいだ。

 利久は内蔵助をあれで面白い奴と言ったが無理だな。

 好き、嫌いの針がはっきり嫌いの方に傾いている。

 あまり関わりたくない人物だ。

 史実では秀吉は内蔵助の実力は認めていても、そりが合わなかったとも言われている。

 実際は分からないが。

 少なくとも会った瞬間に喧嘩腰にはならないだろう。


 ………普通はな。


 内蔵助の俺を見る目付きがヤバい。

 今にも襲いかかってきそうだ。

 俺が何をした。

 何もしていないぞ多分。

 犬千代にちょっと話しただけだ。

 恨まれるほどの事じゃない。


 内蔵助から目線を反らす。

 そして反らした目線の先には織田信光と平手政秀がいた。


 織田信光と会うのは初めてだ。

 齢四十を越えておりシワも見える。

 しかし渋いオヤジだな。

 平手のじい様は本当に爺さんだが信光様は渋くてカッコいい。

 織田家は総じて美男美女ばかりだな。

 数えるほどしか会っていないが。

 そんな渋いオヤジの信光様だが織田家での評判はお人好しである。

 どうしてそんな評判が立ったのか知らないが、いつの間にかそう呼ばれるようになったそうだ。

 おそらく、信秀か信長辺りが流した噂じゃないのか?

 信光様を後継争いから遠ざけ、また、信用の置ける人物に仕立て上げた。

 そんな感じがする。

 実際に信光様は終始笑顔だ。

 笑った顔が安心感を与えてくれる。


 殺伐とした織田家の中に有って一時の清涼剤のようだ。


「では、報告を聞こうか?」


 謀議の始まりは信光様の問いかけから始まった。


 まず、利久と内蔵助が説明した。

 俺はそれを隣で聞いている。

 謀議の内容は記録されない。

 だから俺は右筆として仕事はしない。

 ここに要るのは近習として居るのだ。


「と言う事です。滝川一益は甚だ怪しいと言わざるをえませぬ」


「さようです。急ぎ一益を捕らえるべきです」


 内蔵助、直線問いただすから捕縛に変わってるぞ。


「それだけでは捕縛できん」


 勝三郎が即座に切り捨てる。

 さすが勝三郎、カッコいい!


「そうじゃ。今は事を荒立ててはならん」


 そうだ平手のじい様。

 もっと言ってやって。


「平手殿の言う通り。今は体制を整えるが先決。焦れば向こうの思う壺よ」


 うん、うん。

 信光様はよく分かってらっしゃる。


「しかし、ぐむ」


 口を噤む内蔵助。

 どうした、俺に突っかかった時みたいにやってみろよ。

 へん、この意気地無しめ。


「藤吉、そなたはどう思いますか?」


 市姫様が困った顔をして俺に問いかける。


 そこで俺は先日内蔵助に言ったようにこの場で話す。


 皆一様に頷くも内蔵助だけは納得しないのか。

 俺に噛みつく。


「貴様ごとき筆書き風情が偉そうに講釈を垂れるな」


 ピキっと来た。


「止さぬか内蔵助。藤吉の言う事は正しい」


「ですが」


 信光様に止められる内蔵助。

 しかし不満が顔に出ている。


「内蔵助。敵は信行様ではない。他に居る」


 勝三郎が内蔵助を諭す。


 信行は敵ではない。

 れっきとした敵だけど、市姫と信光様の手前そんなこと言えないか。


「勝三郎。勘違いをするでない。信行様は敵ぞ。そして、それに手を貸す奴らも同じく敵ぞ」


「そうだな。信行は敵だな。そうだろう、市よ」


 平手のじい様が否定して信光様が市姫様に投げ掛ける。


「うむ、そうだ、そうだな。兄上。いや、信行は織田家の敵ぞ」


 ふーん、言い切ってしまったか。

 覚悟を決めたかな。


「ならばなおのこと。先手必勝にございまする」


「バカかお前は。さっき俺が言ったことを忘れたのか?」


 あ、思わず言ってしまった。


「バカだと貴様。バカはお前だ」


「バカをバカと言って何が悪い。もっと頭を使え!」


「なんだと! 俺が知恵無しだと言うのか!」


「そうは言わん。もっと考えて慎重に行動しろと言っている」


 いかんな、つい言葉が出てしまう。


「止めんか二人とも。市姫様の前だぞ」


 俺と内蔵助の間に勝三郎が入ってくれた。

 ヤバい、ヤバい、つい熱くなってしまった。


 どうも内蔵助とは合わんな。


「「申し訳ございませぬ」」


 二人一緒に謝った。


「ですが、やはりこちらから動くべきです」


 まだ諦めないか?


「藤吉。双方兵を上げたらどうなる?」


 信光様が俺に問いかける。

 その顔は笑顔だが目は笑っていない。


「まず、岩倉織田家が動きましょう。そして、駿河の今川も動くと思われます。そうなれば」


「そうなれば、織田家は終わりか」


 利久が呟いた。


 敵の敵は、敵なのだ。

 今の織田家は周りが敵ばかり。

 焦って動けばそこを突かれる。

 連鎖反応のように泥沼に沈み込んでしまうだろう。

 一度沈めば、二度と這い上がれない。


「ならば、どうする?」


「「「「…………」」」」


 市姫様の問いに、誰も答えない。

 ぐるりと一同の顔を見渡す市姫様。


 俺はその視線を見れなかった。

 強い眼差しがこっちを見ている事を知りながら。


「恐れながら姫様。発言を御許し願いませぬか」


 今まで全く話さなかった犬千代が発言を求めた。

 このメンバーの中で一番発言権を持たないのが犬千代だ。

 発言するには許可を求めなければならない。

 勝手に話すと不敬に成るからな。

 …………俺も同じだが。


「私達は内側ばかりを見ていたと思われます。外から見たら違って見えるのでは?」


「外から、か。ふむ」


 あ、何かヤバい。


 考え込む市姫様。

 俺は視線を犬千代に向ける。

 犬千代が俺にいい笑顔をしている。

 隣の利久を見る。

 ニヤニヤとニヤついている。


 あー、これは。


「外からなら、藤吉。そなたなら我々と違う答えを持っているのではないか?」


 やっぱり来たよ。

 無茶振りが。

 犬千代と勝三郎が期待を込めた顔を向ける。

 内蔵助は憎々しげに俺を見る。

 利久はニヤついた顔を止めない。

 平手のじい様は心配そうな顔をしている。

 信光様は市姫様と俺の顔を交互に見ている。


 はー、しょうがない。


 謀なんて苦手だからな。


 ここは正攻法が一番だ。


 俺は本当にしょうがなくだが対策を述べることにした。


お読みいただきありがとうございます。


誤字、脱字、感想等有りましたらよろしくお願いいたします。


応援よろしくお願いします。

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