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藤吉郎になりて候う 〜異説太閤紀~  作者: 巻神様の下僕
第八章 家老になりて候う
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第百七十七話 永禄三年の終わりにて候う

 佐治為景の息子佐治八郎を預かった。


 これで実質佐治家は木下派になった訳だ。

 だがこうなると織田家本家の面々が煩いはずなんだが何も言ってこない。

 佐治家との婚姻話は織田家本家が主導していたのにだ。


 今回の騒動はどうも腑に落ちない。


 しかし、騒ぎ立てると周りに波風が立つので黙っている。

 どうせ『あの下賎な男が姫様に取り入って』とか言われてるんだろうな?

 まぁ当たってるんだが。


 でだ、その騒動の元になった本人は俺の小姓としてビシバシしごいている。


「八郎。墨」「はい!」


「八郎。紙」「はい!」


「八郎。お茶」「はい!」


「八郎。疲れたろう。一緒に飲むか?」


「いえ、主君とお茶を供にするなど畏れ多いです」


 ふ、引っ掛からなかったか?


 思ったより八郎は使えた。

 しかしまだまだ文字や計数は覚束ないので、仁右衛門に見させている。

 俺が見ると厳しくなるからな。


 だが困ったことも起きている。


「見て見て、八郎様よ。健気よねー」


「親元を離れて好きな人の為に頑張る姿。じゅるり」


「殿も認めて上げれば良いのに酷いわよねー」


「「「ねー」」」


 てめえら聞こえてんぞ!

 全く女中どもめ。

 仕事しろ、仕事!


「殿。こちらに裁可を」


「うん、ああ」


「ありがとうございます。では」


 今の男は数年後に俺の義弟になる予定の『浅野

 弥兵衛』だ。

 寧々の義父浅野家の婿養子で、史実では縁戚の少ない秀吉の貴重な家臣だ。

 戦よりも内政官として優秀な武将なので本当に貴重な人物だったのだ。


 それはこっちでも変わらない。


 歳は十三と若いが使える男だ。

 本人は織田家直臣になるつもりだったらしく努力に努力を重ねていざ城で働くというところで、市姫の鶴の一声で俺の下にやって来たのだ。

 最初は落胆していたが他の小姓が一芸に優れているのを見て驚き、次いでに俺の仕事量と処理速度に驚き、さらに俺が本人のミスを指摘して指導すると心を入れ換えて働いている。


 俺としてはやれば出来るんだから頑張れと言いたい。

 それに家に来たのは左遷じゃないぞ!

 まったく、最近の若い奴は!


 って家は結構若い奴らばっかりだったな。



 家は今少しずつ人が増え始めている。

 戻ってきた当初は道三が勝手に人を増やしていると思っていたが、そんな事はなかった。

 声をかけるだけかけて俺が戻ってきてから、人を雇い始めたのだ。


 すまん、じいさん。

 全然信用してなかったよ!


 そして今は年始を迎える為に皆忙しく動いている。


 年始には長姫と朝日が戻ってくるので家族で正月が祝える。

 八郎には正月は帰っても良いよと言ったが残ると言われた。

 それに正月の挨拶に為景殿がこっちに来るので大丈夫だとも言われた。


 何よそれ! 正月ぐらい家族と過ごしなさいよ!


 はぁ、分かっているんだ。

 大人げないって。

 でも、可愛い妹を狙っている男と寝起きを共にさせてなるものか!


「どうせ成るようにしかならんのに。無駄なことをするなあー。お前は」


「放っておけ。お主も娘を持てばいずれ分かる。おっと溢れるぞ」


「おお、すまん、すまん」


「かー! 旨いのう、これは!」


 く、この酔っぱらいコンビめ!


 利久と道三は昼間から飲んでいる。

 堺から酒職人がやって来た次いでに酒が大量に送られてきたのだ。

 この酒はこっちでは貴重品なので流通を抑えている。

 なので倉には酒が余っている。

 それをこの二人は持ってきて飲んでいるのだ。

 何度も叱っても止めないので半ば放置している。

 そのうち母様がやって来て取り上げられるのがいつものパターンだ。


「兄上! また飲んでいるのですか? それにご隠居も! それは売り物です。飲みたかったら銭を出してください!」


 ああ、犬千代に没収されたな。

 ざまあみろ!

 ちなみにご隠居とは道三の事だ。

 斎藤山城とか、道三とか呼べないからな。

 いつの間にかご隠居呼びされるようになっていた。


 はて? 誰が最初に言ったかな?


「旦那。堺から文が届いてますぜ」


「ああ、どれどれ」


 友貞が堺の宗易の文を届けてくれた。

 友貞は嘉隆と共に南伊勢と志摩の警戒に当たらせている。

 北畠家に徐々に圧力をあたえているのだ。

 それに三河の一向宗にもこっそり支援している。

 そろそろ松平ストーカー君に止めを刺したいからな。


 宗易の文には三好と畠山の戦の結果が書かれていた。


 結果は三好の圧勝だった。

 そしてこれで三好が全盛期を迎えたことになる。

 史実では来年から身内に不幸が続いてその栄華は長くない。

 果たしてこっちではどうなるか?


 それとは別に残念なことに新型種子島は間に合わなかった。

 微調整が済んでいないので送るのは年明けになったのだ。

 霜台には御詫び状を書いておいた。

 霜台からの返事はまだだが新型種子島を送った後には返事が来るだろう。


 それから三好との同盟話が進められるだろう。


「おおーい殿! 殿はどこだ!」


「ここだ、佐大夫」


「ああ、探したぞ。この仕組みなんだがどう思う。意見を聞かせてくれ」


 佐大夫は毎日工房に籠って種子島の改良に勤しんでいる。

 こうしてたまにやって来て俺に意見を聞いてくるのだ。

 それと最近は早合の開発が終わった。


 早合は戦国時代の発明だ。


 佐大夫達も同じ様な物を考えていたらしく俺が全部言う前に作り上げてしまった。

 まあ、至極単純な物だ。

 きっかけさえ与えれば彼らが勝手に造ってくれる。


 そして新型の試射を一と守重がやっている。


「ははは、今度も俺の勝ちだ!」


「くっそー! もう一回だ。もう一回!」


「何度やっても俺には勝てないよ」


 とても二月前はまともに撃てなかった者のセリフとは思えん。

 やっぱり自信を持つことは大事なんだな。

 だってあれだけ変われるんだから。


 ちなみに試作ヘッドギアは今被っているのが三号だ。

 一号と二号は野暮ったいやつで女の子が被るにはちょっと、と言うデザインだったので改良して今の三号に成っている。

 俺も試しに被ったが顔の密着部分を少なくして防音性能を上げている。

 眼鏡が有れば目を守れて良いと思うがそれはガラス職人の分野だろうから俺もよく分からん。

 宗易には南蛮眼鏡の作り方を調べて貰っているのでいずれ分かるだろう。

 焦る必要はない。


 今必要なのは……


「あなた、武田から内通の文を持ってきたわよ」


 小六、頼むから耳元で囁くな。

 帰ってきてからしばらく大人しかったのに、どうしてこうなったのか?


「兄者と、勘助殿と! それから真田から、返事をー、貰った。ぜえぜえ」


 昌景さんが俺に誉めてほしくて俺に近づくのだが、小六に頭を掴まれて近づけなかった。

 まあ、身長差が有るからな。

 でもじたばたする昌景さんは可愛い。


「兄上はどうも駄目なようです。兄上は父上を嫌っていましたから。それに今川を攻めたことでさらに酷くなっています。父上も兄上には心を痛めているのですが兄上にはそれが分からないようです」


 すまなさそうな顔と沈んだ声で文の内容を説明する勝姫。

 信玄と義信の仲が悪いのは史実通りか。

 これはどうしようもないな。


 それよりもシスコン赤鬼の文、これは何だ!


『俺の大事な妹を傷物にしやがって、貴様殺すぞ!』


 どう訳してもこんな感じに見えるけど?


 勘助や『真田幸隆』の文には直接協力出来ないが情報を流すと書いてあるのにこの落差。

 大丈夫なのかこれ?


「大丈夫だ。兄上は私には逆らえない」


 胸を張る昌景さん。

 本当に大丈夫だろうな?



 こうしてドタバタとしながらも年末は過ぎていき新年を迎えようとしていた。


「兄者。そんなにそわそわしないで。大丈夫だよ。もうすぐ来るから」


「で、でもなー。予定より遅いんだぞ。何か有ったんじゃ!」


「何にもないよ。もっと堂々しないと朝日に嫌われるよ」


「本当。いつもは偉そうにしてるのに情けない」


「ははは、大丈夫だよ。朝日はともと違って日時を間違え、ぐはっ」


「一言多いのよ。あんたは!」


 とも姉と弥助さんの夫婦漫才はいつも通りだが、俺はいつも通りじゃなかった。

 今日は朝日が長姫と一緒に長島に戻ってくる日なのだ。

 しかし予定の時間が過ぎてもまだ朝日達は現れない。

 心配するなという方がおかしい。


 いや、おかしいのは俺か?


 どうも現代感覚で約束の時間帯にやって来るものと思っている自分がいる。

 しかしここは過去で現代ではない。

 時間感覚が違うのは当たり前だ。

 

「あ、来たよ!」


 迎えに行った利久と犬千代が見えた。

 それに輿が二つに、あ、朝日が手を振っている。


 あれ? 輿が二つ?


 ま、まさか!


 市姫が来たのか?

 長島まで来るのは不味いだろう!

 俺がおろおろしていると朝日達がやって来た。


「ただいま。お兄ちゃん!」


「お、お帰り。朝日」


「あ、お兄ちゃんにお客さんだよ」


 お客さん? 何だ市姫じゃないのか、脅かしやがって。


「そうか、そうか。で、どこのどなたかな?」


「うん。犬姫様だよ」


 な、なにー!


「会いたかったです。こいち様!」


「え、え、え、あ、兄者~」


 知らん、知らん、知らんぞー!


 俺の永禄三年は大問題を残して新年を迎えた。

お読み頂きありがとうございます。


誤字、脱字、感想等有りましたらよろしくお願いいたします。


応援よろしくお願いします。

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